岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

可能性は無限大がモットー
自分のルーツである
釉薬(ゆうやく)を生かし
生まれ育ったまちの産業を
元気にしたい


合同会社プロトビ 代表社員
玉川幸枝(たまがわ ゆきえ)さん(瑞浪市)

【2018年1月29日更新】

釉薬とタイルのプロデュースに取り組む玉川幸枝さんは、名古屋で2007年から続く清掃活動「ゴミ拾いレンジャー」の立役者。東京のNPOでは、若者の政治教育にも携わりました。これまでに出会った多くの人たちから学んだことを財産に、生まれ育った東濃の地場産業・窯業の魅力を、世界に発信したいと奮闘しています。

新たな試みを生む仕組みづくりを学ぶ
現在は、ものづくり・まちづくりに全力

 家の事情で大学を中退し、タイル用釉薬を製造する家業の玉川釉薬に6年間勤務しました。そんな状況で自分らしく生き、社会のためにできることは何かを考え、名古屋でボランティア団体を設立し、「ゴミ拾いレンジャー」を始めたのが今の私の原点です。レンジャーの衣装で清掃活動をすることで、多くの人に興味を持ってもらえました。この活動を通して得たものは、仲間と協力し、知恵と力を出し合いながら、一つのことを成し遂げる喜びです。
「ゴミ拾いレンジャー」をきっかけに、新しいものを生み出す仕組みづくりを学びたくなり、2011年に上京を決意。上京後、起業までの3年間は東京のベンチャー企業やNPOで修業をし、ビジネスの立ち上げ方や、組織マネージメントなど多くのことを学びました。
 以前、市長に取材をする機会を得た際、「君が生まれ育ったまちをもっと知って、発信すべき」とアドバイスをもらったんです。これをきっかけに、岐阜県瑞浪市出身であることを発信しようと思うようになりました。
 2014年に仲間とともに合同会社プロトビを立ち上げ、岐阜と東京の二拠点居住が始まりました。人とのつながりを大切にしながら岐阜と焼き物の良さを東京で伝え、岐阜では東京でのつながりを活かし、まちづくりやものづくりをサポートする事業に取り組んできました。現在は、釉薬とタイルのプロデュースをしています。

工場見学イベントや
古民家再生で瑞浪を活性

 プロトビの活動は多岐にわたります。一つは瑞浪市の焼き物工場を巡る工場見学イベント「瑞浪オープンファクトリー」です。3年前に企画書を持って、瑞浪市の水野市長や焼き物工場の経営者の方に相談しました。「ものづくりの良さを伝えたい」と考える10社の賛同も得て、瑞浪市陶町の工場を中心に実現しました。
 工場見学に訪れる人たちには、職人さんたちの高い技術や、ものづくりへの思いを感じてもらい、産地や焼き物のファンになってもらえたらうれしいです。
 東京から瑞浪に戻ると、外の人の目で地元を見ることができ、改めて瑞浪の魅力に気づきました。その流れで、空き家や未使用のスペースの利活用にも取り組むことになりました。市内の大湫町には中仙道の面影や文化がたくさん残っていることに驚き、そこで暮らす方々の人柄にもひかれました。
 一方で、大湫町が限界集落であること、観光で訪れる人が少ないことなどを知り、何か役に立ちたいと思うようになりました。そんな折、大湫町で空き家になっている大きな古民家を見つけ、まちの活性のために再生させるアイデアが浮かんだのです。現在は、大家さんからその空き家を借り受け、大湫町の方々や東濃信用金庫、十六銀行をはじめ、多くのボランティアの方々に協力をいただき、古民家の掃除と建物改修を行っています。

ファッションや食の世界にも
釉薬とタイルを生かしたい

 現在プロトビが一番力を入れて取り組んでいるのが、釉薬とタイルの魅力を発信することです。多治見市はモザイクタイルづくりで全国シェア8割を誇りますが、美濃焼タイルの生産量は最盛期の5分の1に減り、2万人いた窯業従事者は約3千人に減っています。だからこそ、タイルをもっと身近に感じてもらい、一人でも多くの方にこの産地のファンになってもらえたらと思います。そのために、私は窯業界の一員として、釉薬を使ったタイル製品を作り、タイルをより魅力的に広報したいと思っています。
 具体的には、タイル壁の企画と提案、手生産によるオーダーメイドのタイル作りです。これまでにリボンの形をした赤いタイルや、桜の花びらをイメージさせる薄ピンク色のタイルなどを開発しました。
 現在は、林業が盛んなまちの保育園向けに、森の木々をモチーフにしたタイルの注文を受けて開発しています。ピアスやヘアーアクセサリー、コースターなど、ファッションや食の世界でも釉薬やタイルの魅力が生かせるような製品をプロデュースして、日々の暮らしの中でタイルとの接点を増やしていきたいです。

家族のサポートを受け
地域と社会に貢献したい

 こうした取り組みは、父の技術なしではできませんし、母にも相談に乗ってもらっています。私は語学を学んで国際的なNGOで働きたいと思っていたので、19歳の時、大学を中退して家に入った時は戸惑いもありました。でも多くのことを経験し、気が付けば、自分が家族のサポートを受けて窯業の世界でチャレンジするという、新しい夢ができました。自分のルーツでもある、釉薬の可能性を広げていきたいと思います。
 釉薬の魅力は、化学反応によって様々な表情を見せてくれるところ。タイル作りと、プロデュース事業を進めてみて、焼き物づくりの楽しさや難しさ、できること、できないことを学んでいます。一つひとつの注文に向き合い、製造して納品をすると、新たな可能性と次の壁が見えてきます。できないと思っていたことを形にして、目の前の壁を打破することは喜びにつながります。
 早朝から休みなく働き続ける父は、「釉薬作りは芸術。常に発見がある」と言います。退屈とは無縁な性分は、父親譲りのようです。
 今年の4月には台湾に出展して、日本ならではの藍色の釉薬を紹介しました。海外は今回が初挑戦です。今後はアジアのみならず、アメリカやヨーロッパにも発信したいです。もちろん、この焼き物のまちに、日本中、世界から人を呼び、魅力を直に感じてもらいたいです。
 プロトビのタイルプロデュースは一人で行うのではなく、お客さんと共に作り上げるスタイルです。これまで、お客さんとの出会いで釉薬とタイルの可能性が広がり、注文をいただいたタイルの数だけ物語が生まれました。「可能性は無限大」をモットーに、これからも釉薬とタイルのあり方を考えていきたいです。