岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

地域の人々が家族みたいに
集まるこども食堂ができた
いつか「表札のない家族」になれる
みんなの家が持てたら幸せ


可児郡御嵩町役場企画課勤務・ふしみこども食堂代表
平井髙子(ひらい たかこ)さん(可児郡御嵩町)

【2018年3月30日更新】

御嵩町役場に勤務する平井髙子さんは、食のスペシャリストでもあり、御嵩町で「ふしみこども食堂」を開催しています。従来のこども食堂とは異なる目的や意義をもってスタートし、1年という短期間で、まるで家族のように地域住民が集まる居心地のいい居場所を築きました。料理のクオリティーも高く、成功モデルとして注目され、講師としても引っ張りだこです。

趣味から一歩踏み出したい。
プロ意識に目覚め、資格を取得

 子どもの頃から両親に「ごはんだけはしっかり食べること」と教えられて育ちました。料理をつくって「おいしいね」といわれることに喜びを感じ、高校は家政科に進学しました。しかし卒業後は会社員として一般事務職に就き、21歳のときに結婚。主人の出身地、御嵩町で生活を始めました。
 その後16年間は専業主婦で、3人の子どもたちと一緒におやつを作るのが楽しみのひとつでした。子どもがみな成長してから美濃加茂市の教育委員会のパート勤務に就いて1年後、御嵩町の伏見公民館で働くこととなり、行事の企画運営を担当しました。
 公民館での仕事をきっかけに、地域の女性たちが集まる料理同好会に参加。自分もレシピを考案し、みなさんにレシピを紹介するようになりました。とても楽しかったのですが、次第にレシピや調理のポイントなどを人に伝えたり、教えたりするには、あまりに知識が足らず、信憑性に欠けていると気づいたのです。「趣味から一歩踏み出したい」という思いに駆られ、さまざまな講習を受講して、ナチュラルフードコーディネーター、食育アドバイザーなど、食のスペシャリストとしての資格を取得しました。資格取得後の一番の変化は周囲からの信頼でした。資格をとったことは自分の強みになり、自信を持って、仲間たちに伝えることができるようになりました。プロ意識を持ったことが私の転機になったのです。

食で地域をつなぎ、人もまちも
元気にする「こども食堂」を開催しよう

 公民館はいきいきとした人々がたくさん集まる場所です。さまざまな趣味や特技を持った人が同好会として活動しています。そのなかで私同様に食育に関心がある一人の女性に出会いました。「ふしみこども食堂」の事務局長・後藤香代里さんです。放課後児童クラブを利用する子どもたちの食育について思案するうちに、「ふしみこども食堂」のイメージが膨らんでいきました。
 従来の子ども食堂は、「家庭の経済的事情で、満足な食事を取れない子どもたちに対する活動」と捉えられていますが、私たちが目指したのは、「食で地域の人々をつなぎ、人もまちも元気にすること」。2人で半年間、入念な準備をし、2016年4月から公民館を会場に「ふしみこども食堂」を開催しました。当初は50食を目指していましたが、現在は、多い時は70食分のご飯を作ることもあります。近所の方や企業から、食材を毎回差し入れてもらい、こども食堂開催日は可児市や美濃加茂市、多治見市などからお手伝いに駆けつけてくれる仲間もいます。
 毎月第1・3金曜日は公民館に集まり、子どもも大人もみんなで一緒にご飯を作り、わいわいにぎやかに食事をしています。このほかに、家庭料理が恋しい単身者や独居の高齢者も笑顔で訪ねてくれるようになりました。献立作りや食材の手配など、仕事との両立は大変ですが、みんなの「おいしかったあ。また来たい!」という笑顔を見ると、苦労が吹き飛びます。また、この活動は県内の行政や社会福祉協議会から成功モデルとして注目されて視察されることも多いです。最近では、子ども食堂を開催したい人向けのコンサルタント業務や講師活動も行うようになりました。

こども食堂と電車を掛け合わせ
外部の人とも食を通じて交流

 こども食堂を始めた同月、私は5年間勤めた伏見公民館から御嵩町役場企画課に異動しました。ここでは名鉄利用推進員として、広見線の利用促進と存続のためのPR活動などに取り組んでいます。御嵩町には県立高校が2校あり、広見線は高校生や高齢者にとって大切な足となっています。
 私はこども食堂の活動をヒントに、食を通して利用促進をアピールできるチャンスと捉え、「食」と「電車」が相互に有益になるようなアイデアを考えました。その時、企画提案したものがビンゴラリーゲーム「カレー太郎電鉄」です。
 参加者は小学生です。広見線の新可児駅周辺と御嵩駅周辺の施設や商店で、謎解きをしながらカレーの食材を手に入れ、ビンゴを完成していきます。ゴールにたどり着いたらすべてが本物の食材に換わり、グループごとにカレーをつくってみんなで食べるゲームです。食材を手にするためには沿線の各施設や商店の地元の人々とのコミュニケーションが必要ですし、中山道の御嶽宿の歴史に触れる仕掛けもあります。昨年11月と今年3月の開催時は犬山市や各務原市、多治見市などからの参加者があり、2回とも満員御礼の大盛況。また、地元住民が気づかない美しい風景や見どころを、外部の人々の感想や言葉から気づかされ、御嵩町の魅力を再発見できたことも新鮮でした。今後のまちのPRに大いに役立ちそうです。

地域住民が寄り添える家を
目指すのは「表札のない家族」

 私が御嵩町で出会った人々は、みな「何か困ってない?」「大丈夫?」と声をかけてくれる良い意味での「おせっかいさん」ばかり。そんな地域の方から、いろんなことを学びました。私が地域の方からもらった思いやりと優しさを次は私から他の誰かに同じようにしてあげたい。そんな事を強く思うようになりました。恩送りというカタチで幸せの連鎖が地域に広がっていったら、今より素敵な社会になるのではないかなと思っています。
 ですから、私もこども食堂で若いママやその子どもたちに「大丈夫?」と声掛けしながら、自分ができる恩送りをしています。
 こども食堂を始めてから1年で、個々への寄り添いや支援が必要な家庭があることや、働くママの事情など、この地域が抱える問題点が見えてきました。行政の役割、子ども食堂としての役割それぞれが上手く連携し合って、必要なものが必要なところに届けられるような、そんな仕組みを作っていきたいと考えています。
 今後は学童保育とは違う方法で子どもたちを見守り、個々の家庭に寄り添える個別支援の仕組みを構築したいと考え、フードドライブ(家庭で余っている食べ物を学校や職場などに持ち寄り、それらをまとめて地域の福祉団体や施設、フードバンクなどに寄付する活動)にも力を注いでいく準備も進めています。
 今は公民館をお借りして活動していますが、将来的にはそこに行けばだれかがいる、ホッとできる居場所となるコミュニティーハウスを持つのが夢です。そこは、みんなにとっての「表札のない家」。いつか、そんな活動拠点ができたら最高です。