優良取組事例

人材育成の一環としてメンター制度を導入
教えられる側だけでなく、
教える側にもさまざまな学びがあり、
施設全体としてサービスの向上を実現


社会福祉法人 同朋会(椿野苑)/山県市

社会福祉法人同朋会が運営する特別養護老人ホーム「椿野苑」では、先輩職員がマンツーマンで新人職員を指導するメンター制度を取り入れています。新人職員にとってのメリットは、指導を受ける相手が明確で、統一した指導を受けられること。一方で先輩職員にとっても、自らの業務を見つめ直すことでさらなる成長につながっています。

職員確保や定着を促進

 障がい者支援施設や特別養護老人ホーム、デイサービスセンター、保育園・認定こども園など、さまざまな施設を運営し、さらに障がい福祉サービスや地域支援などの事業を幅広く展開している社会福祉法人同朋会。職員の確保と定着、そして働きやすい職場環境を推進していくため、10年以上前から育児休暇や介護休暇といった制度を整えるなど、職員の立場を尊重した組織づくりに力を入れています。
 現在は、所定外労働時間が月平均で1時間以下となっており、職場環境改善提案箱の設置、ストレスチェックの実施なども行っています。さらにキャリアアップの取り組みとして、専門性の高い技術や知識を習得するための各種研修支援や、資格取得に向けた学習にかかる費用の補助なども。そうした数多くの取り組みが評価され、2020年度に岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業にも認定されました。

椿野苑のメンター制度

 中でも特に注目されている取り組みの1つに、特別養護老人ホーム「椿野苑」のメンター制度があります。導入のきっかけになったのは、「同じことを教えてもらうのでも、先輩によって言うことが違うので戸惑うことが多い」という新人職員の声。メンター制度に詳しい社会保険労務士のサポートを受け、2017年度より導入に踏み切りました。
 同制度は、先輩職員(メンター)が新人職員(メンティー)とペアを組み、業務の知識や技術、さらに仕事とライフスタイルの調整の仕方まで、マンツーマンで実践的な指導を行うことで、新人職員の能力育成を図っていくものです。
 「特に大切にしているのは、1人ひとりの新人職員に合わせたメンターの選定。同性であったり、あるいは年齢が近かったりと、できるだけメンターが相談しやすい相手を選ぶようにしています」と話すのは、「椿野苑」の施設長を務める井上祐子さん。近年は外国人の職員が増えていることもあり、できるだけ同じ国同士でペアを組めるようにも取り計らっています。
 「入所したばかりの頃は、わからないことがあっても誰に聞いたらいいのか迷ってしまいます。しかしメンターという決められた存在がいれば、すぐに質問することができて、しかも統一した指導を受けられるんです」と話すのは、メンティーとして指導を受けてきた上野正輝さん。そうした安心感が自身の成長にもつながっていると、大きな手応えを口にします。最近では、自らがメンターの立場になることもあり、「自分なりにいいと思ったことも付け足しながら、これまでに教えてもらったことを、さらにたくさんの人たちに伝えていきたい」と話します。

指導する側のメリット

 このメンター制度は、指導を受けるメンティーだけでなく、指導する側のメンターにも多くのメリットがあります。「メンターとしていろいろな説明を行っていく中で、ふと『自分にはきちんとできているのだろうか?』と考えさせられることもあるんです」と話すのは、メンター役を務める橋傍綾乃さん。メンターとしての責任を果たしていくため、自主的にいろいろな勉強をするようになったといいます。
 一方で施設としても、同制度をより効果的に運用していくため、職員全員に対して新人教育に関する研修を実施。新型コロナウィルスの感染症が拡大して以降は、テキストや動画などを使って、メンターとしての役割や心構えなどを指導しています。
 さらに同制度の一環として、新人職員の入所時に、先輩職員1人ひとりが歓迎の意を込めたメッセージを贈る「ウェルカムカード」という取り組みも行っています。こうしたさまざまな試みが実を結び、現在ではメンティーとメンター双方の質が著しく向上しており、利用者へのサービスや接し方の改善など、多くの面で理想的な相乗効果が生まれています。

成熟と拡充に向けて

 メンター制度における今後の課題と目標には、大きく分けて2つの点があります。1つは制度自体の成熟度をさらに上げていくことです。「将来的には先生と生徒ではなく、人と人としての関係性を築いていってもらいたい」と話すのは、介護統括主任の吉安伸司さん。「先生と生徒のままでは、メンターが言われたことしかできなくなってしまう可能性もある。そうではなく、同等の立場から一緒に考えていく姿勢を大切にしてほしいと思っているんです」
 そしてもう1つが、現在は「椿野苑」でしか行っていない同制度を、法人全体の取り組みとして拡充させていくこと。施設長の井上さんは「ほかの事業所にも取り入れてもらえるよう、積極的に働きかけていきたい」と意気込みを語ります。
 高齢者や障がいを持つ人、さらに幼児まで、誰もが生きていることを共に喜びあえるような社会の実現を目指している社会福祉法人同朋会。その第一歩が人材の確保と1人ひとりの成長にあると考え、メンター制度を始めとした教育と育成のさらなる充実に努めていこうとしています。