優良取組事例

仕事に意欲的な女性の
気持ちに応えたい
中小企業も時代に合わせた
就業制度を設けることが大切


株式会社大雅/山県市

1890(明治23)年、初代が米穀や酒類の販売事業を開始。現在、4代目が経営の舵を取る大雅では、主にいちご農家向けの有機肥料や培養土等の製造・販売、いちご農家への栽培指導や販売支援事業のほか、いちご狩りが楽しめる観光農園も運営中。創業100年を超えるこの老舗企業も、ワーキングママが仕事を楽しみながら続けられるよう就業体制を変化させている。

ある社員の入社が転機

 今でこそ仕事と家庭の両立支援制度が充実しつつある大雅。もともと男性が圧倒的に多い職場ということもあり、数年前までは制度らしい制度はしっかり確立できていなかったという。しかし、2014年に女性社員の安田奈津樹さんが入社したことで状況が変わっていく。
 大雅は、安田さんが入社した翌年に「やまがたいちご楽園 雅」という観光農園を開園し、彼女をその現場責任者に抜擢。仕事に前向きな安田さんは、責任者としての能力を発揮し、立ち上がったばかりの観光農園事業はうまく軌道に乗り、のちに「農業の未来をつくる女性活躍経営体 100 選(WAP100)」の選出や農業における国際的な安全性認証「グローバルGAP(ギャップ)」の県内初の取得といった実績にも結びついていった。
 引き続き、観光農園の仕事にやりがいを感じ、日々を楽しむ安田さん。そんな彼女に関心を寄せていた経営管理部長の江崎かえでさんは、「これから安田さんのライフプランが変わったとしても、退社することなく働いてもらいたい」との思いから、女性の活躍推進策の立案に乗り出した。

時代に合う就業制度を

 「私たちが20・30代だった時代、働き方改革に対して熱心な会社がどれだけあったでしょうか。極めて少なかったと思いませんか。ところが時代が移り変わることで、働き方を見直す企業が急増しました」と江崎さん。
 今や大企業だけでなく、中小企業も働き方改革を無視して経営を進めていくことはできない。「時代に合わせた就業制度を設計することで、今いる社員の離職率を下げ、仕事を探している人の入社意欲も掻き立てることができるのでは」と続ける。
 2017年、安田さんの妊娠がわかると、江崎さんは産前産後・育児・介護休暇などを盛り込んだ就業制度の見直しを一気に成し遂げていった。安田さんによると「産休って、取ることはできますか?」と自分から会社に問いかけるよりも先に、会社の方から彼女に産・育休の取得が打診されたとのこと。こうした会社のアクションに安田さんは素直にうれしさを感じ、安心して休暇に入ることができたという。その後は、約11カ月間の休暇を経て復職。第一子ということもあり、育児への不安も抱えるだろうとの想定から、8〜16時までの短時間勤務だった。これについて安田さんは「フルタイムでの復職ではなかったので、子どもを育てながら働く生活にうまく順応できたと思います」と語り、笑みを浮かべた。

復職後も責任ある仕事

 企業によっては、産・育休から復職して短時間勤務する社員が、復職前と同等の責任ある仕事を任されなくなったというケースが散見されるが、大雅では安田さんの農園責任者というポジションを変えることはなかった。というのも、江崎さんは「せっかく楽しいと思って取り組んできた仕事だからこそ、そのまま続けてもらいたい」と考えていたからだ。また、安田さんと一緒に農園で働く女性社員の小寺千尋さんがフォローについてくれる点も安心材料になった。ちなみに、小寺さんも2020年に産・育休を取得しており、その時は事務部門や製造部門の社員が駆けつけて農園業務をフォローした。こうして社内の風向きも変わり、女性が働きやすい、そして長く働き続けられる環境が整った。
 普段の安田さんの1日について、観光農園としてのシーズン中(冬〜春)は、いちご摘み体験の予約受付と当日農園に来た体験者の案内業務が主となり、その合間を縫って生育中のいちごの世話をしている。なお、月に一度会社に提出する改善提案書を作成するため、事務作業に取りかかることもあるそうだ。
 観光農園という業態なので、予約が集中する土・日は、安田さんか小寺さんのどちらかが必ず出勤しなければならないが、オフシーズンともなれば、比較的穏やかな毎日を過ごすことができ、土・日もしっかり休める。
 安田さんは2021年に第二子を妊娠し、再び産・育休を取得。そして、2022年の春に復職した。2022年の年末からは第三子出産のため、3回目の産・育休に入っている。そこで現在は、小寺さんが観光農園の責任者代理として奮闘中。実は彼女は大学院で農学を研究し、その後青年海外協力隊としてラオスで農業支援に従事した経歴を持つ。江崎さんは「安田さんに負けないほど仕事熱心で観光農園を支えるもうひとりの大黒柱です」と活躍に期待を寄せている。

製造業にも女性を

 先述した通り、大雅では有機肥料の製造も手がけており、同部門でも女性社員が活躍中だ。製造現場と聞けば、どうしても力仕事がイメージされる。無論、大雅も例外ではないが、その女性社員は重い肥料を担ぎ、フォークリフトなどを巧みに操作するというから驚きだ。“リケジョ”や“ドボジョ”といった人材が増えているように、これから「製造現場で働いてみたい!」と手を挙げる女性が増える可能性もある。そういったタイミングが訪れた時、女性の活躍事例がすでにあると、採用活動においても有利ではないだろうか。
 今後、大雅では子育てと仕事が両立できる環境を持続させながら、現場の声をどんどん拾い上げ改善を重ねていく考え。加えて、子育てを終えた世代にも輝いてもらうべく、パート採用にも力を入れるとのこと。「現代社会は、人生100年時代と言われています。シニア世代でも、社会との接点を持って生きがいを感じてもらえたら」と江崎さんは前を見据えている。