優良取組事例

子育てと仕事を
両立させている社員の
ロールモデルを
きちんとつくり上げる


株式会社エイワ/垂井町

創業以来、建築土木用資材の加工を手がけており、近年は産業機器用部品や輸送機器用部品についても加工を任されるなど、取引する業界の幅を着実に広げている。また、2020年から自社商品の開発にも着手し、2022年春に工場家具ブランド「reon」を発表し、2022年度のグッドデザイン賞を受賞した。いわゆる町工場だが、働きやすい環境と制度の整備も進んでおり、従業員満足度の高い会社へと生まれ変わろうとしている。

定時出勤の難しさ

 「製造業の世界では“8時5時”で稼働する会社が多いです。ただ子育てをしている人にとっては、この定時通りに働くということが難しいこともあります。仮に乳幼児が突然熱を出し、朝病院に連れていくことになった場合、おそらく8時の出社は不可能でしょう。自分の代わりに通院に付き添ってくれる人が近くにいれば協力してもらえますが、すべての夫婦がそういった環境で暮らしているわけではありません。ましてや昨今は、親世帯と離れて暮らす夫婦も増えています。」
 こう話すのはエイワ経営企画室室長の佐藤友梨さんだ。かつてエイワでは、このように社員が定時出勤できなくなった際、会社も該当社員が所属する部署も「仕方ないよね」という暗黙の了解のもとで遅刻を認め、業務を回していた。しかしそれでは遅刻をする側も申し訳ない気持ちで出勤しなければならず、またどこか不公平さを感じる社員もいるだろう。もちろん、乳幼児の体調不良以外に、どうしても外せない所用で遅刻せざるを得ない社員がいることもある。そこでエイワでは、個々の社員の事情に合わせて働くことができるよう、弾力的な勤務制度の導入を決めた。

始業時刻の後ろ倒し

 弾力的な勤務制度では、例えば子どもを学校に車で送ってから出社しないといけなくなったとして、1時間遅刻する場合、その時間分だけ退社時刻を後ろにずらすことを可能としている。あるいは、1時間遅刻してもその分の有給を使って定時通りに退勤することも可能。また、有給を使いたくないなら、それでもよい。ただしその場合は、1時間分の給与が減額される。
 始業時刻の後ろ倒しは、1時間でなくても、5分、15分、30分など自由だ。「弾力的な勤務制度を導入したことで、特に子どもを持つ社員の心的負担は軽くなり、子育てを理由に離職する人がいなくなりました。」と佐藤さんは目を細める。
 ちなみに、同制度の導入を喜んでいるのは子どもを持つ社員だけではない。エイワでは外国籍の従業員が多く働いている。彼らは何かと公的機関に足を運ぶ機会が多い。一般的に公的機関の窓口が開いているのは平日であることがほとんど。だから彼らにとって、始業時刻の後ろ倒しが自由にできることは、実に好都合なのだ。
「一度帰国した外国籍の従業員が、『エイワは働きやすいから、また戻りたい。』と言ってくれたことがあって、とてもうれしくなりました。」

復帰計画をサポート

 現在、エイワでは1名の女性社員が育休中だ。佐藤さんとしても「子育てを理由に働くことを諦めてほしくない」と考えており、スムーズに復職できるよう丁寧なサポートを行っている。
「産・育休に入った社員は、会社の状況がわからなくなります。それはある程度仕方のないことですが、先々の復職を考えた時、会社の状況が休んでいる人にも伝わっていないと『復職した時に、うまく順応できるのか?』といった不安を感じさせることになってしまいます。その不安が大きくなると、復職を躊躇してしまうかもしれません。」
 佐藤さんは、こうした不安を産休中の女性社員が感じなくても済むように、社内報を送ったり、まめに連絡を取って会社の状況を伝えている。具体的な復帰計画についても話し合っており、コロナ禍で定着した在宅勤務を提案中。とはいえ、毎日ではなく、在宅と出勤をうまく組み合わせるなどして、子育てと仕事の両立を目指してもらう考えだ。
 最近は子どもを連れて出勤できる会社も増えているため、エイワとしてもそれを制度として導入するべきか検討したことがある。しかし、機械や工具が並ぶ金属加工工場は、乳児にとって決して安全とは言えず、社員も集中して仕事ができない可能性が高いとの判断から導入には至らなかった。その代わり保育料の一部補助を決定した。これで、社員の子育てにかかる金銭的負担を少し軽減させることができる。
「今のタイミングでしっかり体制を整え、子育てと仕事を両立させている社員のロールモデルをきちんとつくり上げたいです。そうすることで、今後、産・育休を取って復職を希望する社員にとっても心強いはず。それに、求職中の方にも『妊娠・出産を経て仕事が続けられる職場』と認識してもらいやすくなり、応募率の向上にもつながると思うんです。」

全社員を人生の勝利者に

 大企業を中心に育休を取得する男性の数が少しずつではあるが増加の傾向だ。ちなみに、育休中は勤務先からの給与ではなく、雇用保険から育児休業給付金が支給される。その額は給与の約7割分。それゆえ、育休の取得を諦める男性は多い。佐藤さんは「残りの3割分の金額を会社が少しでも負担できるようになれば、男性の取得率はもっと上がるはず。そこまでできる会社を目指していきます。」と意気込む。
 なお、エイワの社是は「全社員を人生の勝利者とする」である。これを実現させるためにも、社員が働きやすいと感じる環境の整備は継続していかねばならない。「中小企業でもここまでやれるというところを見せたいです。」と話す佐藤さんの表情は真剣そのものだ。