岐阜市に本社を構える内藤建設株式会社は、創業76年を迎える総合建設会社だ。ここでは100人を超える社員が働き、工場やオフィスビルなどの大型施設から戸建て住宅まで様々な建築物の土木工事から施工までの全てを行っている。男性中心の建設業界にあって女性の採用を早くから進めるとともに、社員のメンタルヘルスケアや社員同士のコミュニケーションを重視した様々な取り組みを行い、真に働きやすい職場を目指している。
優良取組事例
慣習に縛られず改革を続ける
個人や組織の壁を取り払い
風通しの良い組織を作る
お互いが分かり合えれば
会社はもっと働きやすくなる。
内藤建設株式会社/岐阜市
様々なすれ違いを解消するために
「以前は顔を合わせても挨拶しないどころか、相手が社員かどうかも分からないような状態でした。」と業務サポート部の中村部長は当時を振り返る。
本社に勤務している社員と現場に出ている社員が顔を合わせる機会は少ない。入社式の一日だけ本社に出社して翌日からは現場への直行直帰が続き、用事があって本社に行くと「いらっしゃいませ」と声を掛けられる、そんな事が珍しくなかった。挨拶がない、誰か分からない、というだけでなく、相手の仕事も分かっていなかったため、忙しい時期だと知らずに仕事を頼むなど、横の繋がりも薄い状態だった。
また、その頃は女性が非常に少なく、本社に3~4名と各営業所に1名しか勤務していなかった。建設業で男ばかりとなると言葉遣いは荒く、挨拶だけでなく感謝やお礼の言葉も聞こえてこなかった。
男女とも働きやすい環境を目指す
少しずつ変わりだしたのは現社長が就任した頃から。男女を意識しない人物だったので女性を現場監督に採用するなど、業界では異例の人事も普通に行うようになった。今では会社全体の男女比は3:1と、男性中心の建設業界の中では比較的女性が多い会社となっている。職種別で見ると事務系が一番多いのは他業種と同じだが、設計や積算といった専門分野から営業や建設現場まで、それまで女性がいなかった部署や職種でも女性が働いている。
「今まで男ばかりだった現場に突然女性が現れ、『トイレや着替えはどうする?』や『男と同じ仕事をさせてよいのか?』など困惑の声が聞かれる中で試行錯誤しましたが、現場の雰囲気が明るくなったと職人さんからは好評でしたね。」と中村部長。教育面でのサポートは月一回の面談や現場パトロールで本人の話を聞きフォローアップするほか、業務の見える化で進捗を相互に確認し、成長が実感できるようにしている。
お互いを知り理解を深める
社員同士がお互いを理解し合いコミュニケーションが円滑になった事例がいくつかある。一つは月一回、月刊誌の記事を読んで感想を発表する会だ。最初は役員だけで行っていたが、やがて全社での取り組みに発展。同じ記事を読んでも違う感想を持ったり、異なる視点で記事を捉えたり、世代の違いで様々な考え方があることが分かるなど、社員の相互理解が広がった。二つ目は朝30分間の環境整備。同じやり方を毎回変えずに繰り返す人、雑ではないがササっと手早く終わらせる人、やり方を変えるなど工夫しながらやる人。人によって掃除の仕方は様々だが、それぞれの性格が掃除にも仕事にも反映していることが見えてきた。同時に、感想発表も環境整備も近くにいる人との雑談を通じてコミュニケーションが深まるという効果も重なった。
相互理解という点では複数の適性検査を採用時も入社後も毎年行うことで、会社も個人も性格や行動の傾向などを把握している。その結果を個人は同僚との関わり方や自身の仕事の進め方などに、会社も人事異動や効果測定などに活かしている。また、年2回のストレスチェックや部署ごとのコミュニケーションアンケート、上司や社長との面談によって、個々の目標に対する進捗確認や今後の対策、必要であれば仕事量の見直しや配置転換も含めた評価を行っている。面談は個人から会社へ発信の機会にもなっている。
外からの評価で立ち位置を知る
「感謝の気持ちを伝えるサンクスカードや月一回の飲み会があります。サンクスカードは書く人と書かない人のバラつきがありますが、たとえ書かなくても感謝の気持ちを持つことが大事だと気付くだけでも良いと考えています。飲み会は今の時代に逆行しているように見えるかも知れませんが、若い社員が率先してお店選びをするなど積極的に引っ張っている印象です。部署や年代を超えて人間関係が良好な会社だからこそだと思います。」
別の会社になったかと思うほど変わったと中村部長は言う。他社から社員同士のコミュニケーションが良い会社だと評価されたり、就職相談会で内藤建設に入りたいと学生から言われたりもする。その反面、自社が快適になりすぎて業界全体とのギャップを感じることがあるとも言うが、業界の現状や慣習に縛られず更なる変化を続けていくことだろう。