さかづきの生産高日本一を誇る多治見市市之倉は、窯元・職人の息づく「きわめの町」と位置づけ、産業観光地「陶の里市之倉」として盛り立てようとする取り組みが進行中。2002年に開館した「市之倉さかづき美術館」は、その中核施設で、窯業関係企業8社と陶磁器工業組合からなる「協同組合陶の里いちのくら」によって設立・運営されています。その支配人である今川祐子さんは、開館準備段階からスタッフとして参加し、31歳で現職に昇進。その翌年からは、地元の新商品開発プロジェクトの代表も務め、まちづくりやものづくりに情熱を傾けています。
地域のデザインは、
そこに暮らす人の人生を左右する。
大学時代は環境デザインを学んだので、その手法や考え方に共感した札幌のランドスケープデザインの会社に就職し、人生初の北海道へ移住しました。公園や町並みは、地域の人々の人生に知らず知らずのうちに影響を与えています。そういうデザインに関われることにやりがいを感じ、仲間にも恵まれました。でも、北海道という知らない土地で地域に根ざしたデザインを考えることや、気候・風土の異なる場所で、自分になじみのない植物を植えることに少しずつ抵抗が生まれていました。そんな時、市之倉で窯元を営む父から、「市之倉さかづき美術館」の構想を聞きました。まちづくりを仕事にする立場から意見を言っているうちに、「帰ってきてスタッフにならないか」という話になり、25歳の時に地元に帰ってきました。
前向きに受け止めたら、
意識が変わった、楽しくなった。
前に出たいタイプではないし、上昇志向も強くない私が、前任者の退職に伴い、2007年から支配人に。美術館では、立ち上げ段階から関わり、スタッフとして勤務しており、組織も少人数ですから、「あなたしかいないでしょ」と組合の理事に背中を押され、受ける決意をしました。不安でしたが、「誰がやったってリスクはある。考えても仕方がない」と思い切り、「どうせやるなら、前向きに」と、仕事に向き合いました。外部の方との出会いや交流が増え、美術館の看板を背負う立場になって、「誰とでも気にせずに話そう」と意識が変わり、視野も広がっていきました。
性別や年齢は気にしない。
誰とでも、ありのまま接していく。
「支配人」は男性や年配者のイメージが強いのか、初対面だと意外な顔をする方もいらっしゃいました。でも、私自身は性別や年齢はあまり気にならないし、女性だから、年下だからといって気が引けることもないですね。支配人になってから、外部の会議に参加したり、経営者の方たちとお話ししたりする機会が増えましたが、遠慮せずに発言するようにしています。たとえ間違っても、言いたいことをちゃんと言うことによって、よい結論を出していくことが大事だと思うのです。私は、まわりの大人たちも意外と性別や年齢なんて気にしていないように思いますし、意識の持ち方で、環境は変わって見えると思っています。
人や物や地域がつながれば、
新しい何かが生まれてくる。
地元に戻ったばかりの頃は、実は知らないことだらけだったと気付かされることが多々ありました。陶磁器を含め、改めていろいろな勉強をしながら、まわりの方々に助けられ、ようやく「根を張る場所はここだった」と実感できるようになりました。私は陶磁器の専門家ではありませんが、多くの窯元さんや異分野の方たちと出会って情報を得られる中間的な立場に居て、一般的な感覚もわかるからこそ、できることがあると感じています。
企画スタッフだったときから参加していた多治見市の合併に伴う新商品開発プロジェクトにしても、職場も考え方も違う人たちと一緒に話し合ってものをつくり上げることが楽しく、とても勉強になりました。だから、新商品完成後も「次は何をやる?」と言いながら9年も続き、今では代表になってしまいました(笑)。出会いや素敵な仲間はとても大切で、そこから、いろんなものが生まれてきます。昨年秋には、陶芸とファッションの融合をテーマにしたファッションショー「イチコレ」を開催することができました。今後も、どこから何が生まれてくるか、可能性は未知数ですが、素敵なものづくりと地域づくりのために力を注いでいきたいと思っています。