小さな頃から楽器に囲まれて育ち、自然と音楽の道へ進んだ今井悦子さん。結婚や出産を経て、改めて「音楽が好き」だと気づき活躍の場を自ら開拓してきました。現在は、嫁ぎ先の下呂市で教室を主宰し、大正琴やピアノの講師、音楽療法士として子どもから高齢者まで幅広く指導。演奏技術を伸ばすだけでなく、喜びや達成感を感じることで生きるための原動力を引き出すなど、音楽が持つ可能性を広げています。
人との出会いに恵まれ、
音楽と一緒に歩んで来た人生
高山市で和楽器店を営む家に生まれ、三味線や和太鼓を教える家族を見て育ち、幼なじみとよく楽器で遊んでいました。姉は和楽器、私は洋楽器を勧められ、ピアノを習い始めたんです。中学でも吹奏楽を経験したりし、音楽にのめり込んでいきました。高校入学後は、名古屋の音楽大学から先生を招いて指導を受けましたが、大学受験が辛く「もう諦めよう」と思うほど追い詰められました。でも、涙を流して励ましてくれる先生に勇気づけられ、名古屋芸術大学の音楽学部に進学できました。卒業後は、大学の先生の紹介で大正琴を扱う会社に就職。会社でありながら家元制度があり、入社と同時に弟子入りして家元の食事の準備や身の回りの世話まで務めつつ修業に励む日々は新鮮でした。講師の資格を得た後は高齢者に大正琴を教え始めたのですが、体調を崩して断念される方が多かったのです。「音楽を楽しむには健康が第一」と考え、病気予防を目指す音楽療法士の資格を取得しました。
結婚と出産を機に気づいた
「音楽が好き」という気持ち
実家がある高山市へ戻った後は、音楽教室に勤務してピアノ講師をしていました。しかし、夫と出会い、結婚したことで環境が一変。出産して子育てをする中で、今まで当たり前のようにあった音楽の存在を改めて意識したんです。「音楽が好き。これからも続けたい」と強く思い始め、嫁ぎ先の下呂市で音楽教室を開かせてもらうことに。それが10年前のことです。現在、日中は自宅や出張先で大正琴の指導を、夕方からは自宅で子どもたちにピアノを教えています。大正琴は若い方にはあまり馴染みがありませんが、高齢の方には喜ばれることが多く、生き甲斐を感じてもらえるようでうれしくなりますね。一方、ピアノは子どもの才能を伸ばすことが目的なので、教え方がまったく異なります。褒めるか叱るか、その見極めが難しいですが、一年で別人のように成長する姿は目覚ましく、感動を覚えるほど。どちらも大きなやりがいを感じる仕事です。
人と人とをつなげる音楽の力が、
生きるためのパワーをくれる
講師活動と同時に、音楽療法士として病院や福祉施設を訪れています。この療法自体に病気を治す力はありませんが、高齢者に音楽を聴いていただくと眠っている昔の記憶が甦ることもあるんです。一緒に活動することが刺激になり、病気予防や健康維持のお手伝いができたらと考えています。また、自閉症の子どもたちにはまず私から寄り添っていき、少しずつ歩調を合わせて音を楽しむ経験をしてもらっています。対象が変われば方法は異なり、難しさもありますが音楽の可能性を実感できる機会は貴重ですね。それは講師をする際にも感じること。うまく演奏ができないと生徒さんは本当に辛そうですが、努力して壁を乗り越えた先にワンランク上の楽しさが待っています。技術が上達し、自信や達成感を得られた時にみなぎるパワーは素晴らしく、それを共感できる仕事を誇りに思います。音楽は人生を豊かに彩りながら、人と人の心をつないでくれるんです。
夢中になれるのは家族のおかげ
太く長い人の輪を作りたい
私の仕事は家族の助けがあってこそ成り立つもの。夫と小6、小4、1歳の娘、義父母、96歳になる夫の祖母と暮らしており、特に義母は協力的です。月に一度、私のスケジュールをもとに打ち合わせをして自分の予定を組んでくれるほど。ピアノ指導が夕方からのため夕食の支度もお任せしたりと、本当に頭が下がります。夫も私の仕事に文句をいわず積極的に育児をするなど、互いに尊重し合える良きパートナーです。忙しい毎日ですが、手が空いた時は存分に家事をしたり、娘たちと向き合ったり。時には仲間と結成した大正琴とギターのユニット演奏や内緒で(笑)ヴァイオリンを習う息抜きもしています。普段は教える側ですが、教わることで音楽に癒されバランスを取っているのかもしれませんね。今は10年前に描いた理想が現実になっているので、活動を続けることが目標。もっと広く深く勉強しながら、音楽を通してつながる人の輪をより太く、長く育てていきたいです。