白川茶を中心に農業が盛んな白川町。竹川初美さんは15年以上前から、就農希望者を募って農業のノウハウを伝えてきました。女性農業経営アドバイザーの経験を生かし、岐阜県指導農業士、そしてあすなろ農業塾の塾長として、田舎暮らしや自然と共生する多様な生き方を、若者や定年後の人など、幅広い層に向けて提案し続けています。
減少を続ける農業後継者
維持のため新たな取り組みに挑戦
岐阜県が女性農業経営アドバイザーの認定を開始した平成8年から、10年間、アドバイザーとして活動しました。農業経営に意欲的に取り組み、地域の活性化や女性の社会参画などに対して中心的役割を果たしている100人ほどの団体です。農業に関する広報誌や雑誌をつくったり、加工品のアイデアを出したり、女性の感性を生かした内容がメイン。働き方を模索したり、農家に嫁いできた人に基本的な指導をしたり、就農希望者へのアドバイスなどもしていました。
白川町で生まれ育っても、進学や就職で都会へ出ていく若者は非常に多いです。後継者不足は、私の家族だけでなく、白川町全体が抱える課題でした。15年くらい前から後継者不足が本格化して、休耕田がどんどん増えていきました。田畑は荒れる一方ですから、なんとかできないかと考えていました。そんなとき、高校に通うため町外で下宿していた息子が夏休みに泊りがけで友人を連れてきたのです。農作業を手伝ってくれた彼が、ここでの生活を「とても楽しかった」と感動してくれたのです。それもあって、田舎暮らしに興味をもつ若者もいるのだと気づきました。若者を受け入れて研修したら農家になってくれるかもしれない、そういう話をいろいろな人としていました。その結果、2000年頃から岐阜県からも研修生の受け入れの依頼が来るようになりました。これが、「あすなろ農業塾」の始まりです。ハウス栽培ができるトマトの生産を基本に研修しています。
寝食をともにする仲間と
地域の一員となる工夫を
何もしないと農業は衰退し、この町もなくなってしまう。17年が過ぎて、地元のみなさんも研修生を理解いただけるようになりました。高校生は1泊、農業短大生は1週間から1カ月、一般の人では1年をかけて学んでいます。
若者には、それぞれの夢があります。都会で働きたい人、海外へ行きたい人、いろいろあります。また、大きな街や企業では働きづらい、自然と共生するのが夢の子、芸術に没頭したい子もいる。その中に、農業に興味があったり、田舎での人生に可能性を感じたりする人たちがいて、ここに集まっています。3食をともにし、地域の行事にも積極的に一緒に出掛けています。顔を知ってもらうことで、地元の人たちも安心してくれますし、農地の貸し借りもスムーズになりました。公民館の掃除をしたり、地歌舞伎の役者を務めたりする人もいましたよ。この地域の一員として生活してもらうことが、大切だと思っています。若い人や目的をもった人がいると、やはり地域の雰囲気は明るくなりますね。地域の人と一緒に研修生を育てていきたいです。
新しい人生を安心して送ってもらうため
健全な農業のノウハウを丁寧に伝える
農家は高齢化して、農地が広くてとても家族では管理しきれない。私自身、他人を巻き込もうとしたのも、開塾のきっかけです。でも、すべてを細かく教えきるわけではありません。農業は自然が相手ですから、土地や天候によって対応は変わります。失敗しても次の手段を考える力が付くよう、基本的なことを教えて、あとは経験から学んでもらうようにしています。年間の栽培計画を立てれば、1年を通じた収入も確保できます。
白川町でずっと育ってきたので、山での暮らしが楽しい。草のつるを使ってカゴを編んだり、ガーデニングをしたり。油絵も好きです。1年に一つ、新しいことに挑戦すると決めています。20年たつと20個の趣味ができる。自分の時間を過ごすときに、いろんな引き出しを持てるので、暇さえあればこれできる、あれやってみようって考えています。自分が知っている世界は本当にわずか。世界は日々進化しているんだなと感じます。
私は、高校を卒業して農業を始め、自分名義でお金を借りてトマト栽培に挑戦したのは45歳。65歳の現在まで、20年続けています。定年後、60歳から始める人もいます。いまは、ノウハウがそろっているので、若い人でも退職した人でも、女性でも始めやすいですね。ぜひ、挑戦してほしいと思います。