岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

「そのままで、まるだよ」
育児中の私を救ってくれた
まぁーるの理念を胸に
思いを吐き出す場を利用者へ提供


特定非営利活動法人まぁーる駅北親子ひろば施設長
佐藤薫(さとう かおる)さん(多治見市)

【2018年4月23日更新】

子育て支援の拠点として、多治見市役所駅北庁舎3階に開設された駅北親子ひろば(愛称「ぽかぽか広場」)。その運営を担っているのが、「特定非営利活動法人まぁーる」です。未就園の子どもとその保護者が対象で、2015年度は2万1千人以上が利用しました。施設長の佐藤薫さんも、かつて利用者としてまぁーるが主催する広場を訪れた一人。小学生の息子と娘を育てる先輩ママとして、自身の経験を活かし、利用者たちを温かく受け入れ続けています。

知り合いがいない地で
初めての子育てに苦労

 長野県上伊那郡宮田村出身で、2004年7月、結婚を機に多治見市に住み始めました。夫婦二人の新婚生活は楽しかったのですが、長男が生まれ、育児をする苦労に直面しました。「母親はいつもニコニコ笑っていなきゃいけない」など、「こうあるべき」という漠然とした理想の母親像に、24時間365日合わせ続けるのは正直辛い。理想と現実の差に悩みながらも、知り合いがいない土地ですから、誰にも悩みを打ち明けられず、次第に夫に心配されるほど表情が暗くなっていきました。
 子育てに行き詰っていた私に、変わるきっかけをくれたのが4カ月児健診でした。健診で一緒になった人から、子育て支援グループの話を聞いたんです。長男を連れて現在の子ども情報センターを訪れ、子育てサロンに参加しました。これが私と、「特定非営利活動法人まぁーる」との出合いです。
 サロンでは、大人と会話できるのが何よりうれしかったですね。赤ちゃんと二人きりの世界ももちろん楽しいですが、言葉と言葉の通じ合いや共感を得るという点で、満たされないものがある。話を聞いてもらううちに、目の前がパァーッと開けていくような心地がしました。

利用者からスタッフへ
子どもの成長を見守る楽しさ

 長男が幼稚園に入るにあたり、まぁーるのママスタッフになりました。ママスタッフはスタッフとして働きながら、子どもを連れて広場を訪れることが可能。今も同じシステムで5人が働いています。
 さらに、長女が入園したのを機に、正式なスタッフとして参加を決めました。何ができるかまったく分かりませんでしたが、自分と同じように悩みを抱えている人たちの話し相手になれればと思ったんです。
 2015年、多治見市役所駅北庁舎3階に「ぽかぽか広場」が開設されました。まぁーるは広場の運営を任され、私は施設長になりました。立場上、たくさんの人に顔を覚えてもらいたいと、午前中はなるべく勤務に着き、声をかけるようにしています。
 利用者が発してくれた言葉の重みを、しっかりと受け止めたいという使命感が常にあります。保健センターでも保育所でもない私たちに求められているのは、人には伝えづらい「しんどい」という気持ちを吐き出す場です。中には色々な方法を調べ、試し、それでも駄目だと悩んでこの場に来ている人もいます。「気にしないで」「そんなの大丈夫だよ」などと軽はずみな発言をしたら、勇気を出して打ち明けてくれたその人の気持ちは、どうなってしまうのでしょう。まずは、「いま大変なんだね」「がんばっているんだね」と共感するのが大切です。
 「どうしたらいいんですか?」と尋ねられた時は、基本的に一緒に考える姿勢をとります。「どういう時にそうなるの?」「どんな時に上手くいく?」など、視野が広がる投げかけをするんです。問題を紐解いていくうち、不思議なもので利用者自ら次の一手を見つける場合がよくあるんですよ。
 会計に長けた人、手先が器用な人と、さまざまな個性を持ったスタッフがいる中で、私にはこれといった強みがありません。だからこそ、ちょっと先を行く先輩ママとして、接することができるのではないでしょうか。
 この間までハイハイしていた子がつかまり立ちをして、やがて歩けるようになる。ママと一緒に成長を見守れるのが楽しくて、やりがいにつながっています。

子育て拠点として定着し
支援を循環させていきたい

 多治見市からの委託ということで、やるべき業務はたくさんあります。スタッフと内容を共有し、担当を決めて進めてはいるものの、案件が重なって許容量を超えてしまう時も。仲間に状況を伝えると、作業を分担し、助けてくれるのが非常にありがたいです。
 土日に出勤しなければならない時は、子どもの面倒を見てくれたり、夜遅くまで仕事をしている時は、皿洗いをしてくれたりと、夫の協力は有り難く、感謝しています。私がまぁーるで頑張るのを、応援してくれている気がします。
 小学5年生になった長男は野球チームに所属し、毎週末朝から晩まで白球を追いかけています。自分の子はもちろん、チームメイトの子どもたちが肩を叩きあって喜んだり、悔しくて涙を流したりする姿を見ると、胸が熱くなりますね。大きな声を出して応援すると、気持ちがすっきりします。
 長女は2017年の夏休み、子どもスタッフとして広場に参加しました。「一人で大丈夫」といわれたのでその場にはいなかったのですが、歌遊びでスタッフと一緒に場を盛り上げるなど、大活躍だったようです。感想を聞いたら、「楽しかった!次はいつあるの?」と答えてくれました。「ぽかぽか広場」を卒業した子どもたちが、子どもスタッフとして戻ってくる、そんな循環ができたらいいと思っています。
 あと10年、15年と続けていたら、親になる子も出てくるはず。「子どもができたら、まぁーるの広場に連れて行こう」と思ってもらえるように、これからも仲間と共に運営を継続していきたいです。