岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

リーマンショックを乗り越え
ものづくりに挑む
自社で始めた子育て支援は
地域全体に広がる


NPO法人クオリティーオブライフ ひよこキッズファミリー 代表
有限会社イチオカ 代表取締役

市岡ひとみ(いちおか ひとみ)さん(中津川市)

【2018年5月17日更新】

子育てをしていた30代の頃、中津商業高等学校時代の同級生と始めた内職仕事を事業化し、アルミ製品の研磨などを手がける有限会社イチオカを経営する市岡ひとみさん。自社で働く母親向けの託児所を開設したのをきっかけに、子育て支援団体・NPO法人クオリティーオブライフひよこキッズファミリーを設立し、地元での育児支援にも努めています。

自社で働くお母さんのために
託児施設と息抜きができる場を

 33歳の時、子育てや家事の合間にできる仕事をと、高校時代の仲間を集めて自宅の車庫で、アルミ製品の研磨や溶融金属の機械加工を始めました。丁寧な作業を心がけたため、寸法の正確さと美しい仕上がりが認められ、仕事が次々と舞い込むように。2年後の1997年には有限会社イチオカを設立し、作業場を移転して工場を新設しました。
 創業した当時は子どもたちを預ける場所がなかったので、保育士を採用して面倒を見てもらいました。その後、作業場が移転することになったので、従業員専用の託児施設を設け、運営も始めることになったのです。
 工場の新設もあり、従業員として働くお母さんたちは、仕事と家事の両立で忙しくなっていきました。彼女たちに、ほんのひと時でも息抜きができる時間と場所を提供したいと思い、託児施設にインターネットも楽しめるカフェを、2003年に併設しました。私なりのやり方でしたが、これをきっかけに、子育て支援に力を入れるようになりました。
 
会社の経営危機から抜け出し
子育て支援を本格化

 しかし、2008年にリーマンショックが起きると、円高の波が会社の経営に打撃を与えました。その前年に工場を増設したことも影響し、経営難から脱出するために何をすべきかと苦悩し、ついに私は家に引きこもってしまいました。先の見通しが全く見えなくなったのです。ただ一つ浮かんでくるのは「託児の子どもたちにもう一度会いたい」という思い。その気持ちが私を奮い立たせてくれ、会社を建て直す気力が湧いてきました。何とか会社の危機を切り抜けましたが、あの時の絶望感から自分を救い出してくれたのは、子どもたち。これが転機となり、子育て支援に本格的に取り組むため、NPO法人クオリティーオブライフひよこキッズファミリーを、2009年に設立しました。

高校時代の仲間とともに
地域とつながるイベントを開催

 NPO法人クオリティーオブライフひよこキッズファミリー(以下「ひよこ」という。)の理事は、中津商業高等学校バレー部の仲間たち。バレーを通し、ともに汗を流したかつての仲間が活動を応援してくれるのは、心強い限りです。ひよこは託児所の育児サービスのほか、地元の生産者との交流を目的にしたいちご狩りや、芋掘りなどの収穫体験、ケーキづくり、ピザづくりなどの調理実習も行い、親子や家族ぐるみで参加できるイベントを企画。
 また、恵那川上屋さんが開く毎年秋の「豊年謝恩祭」など、地域の催しにも参加して五平餅販売を行っています。売上の一部や、保護者からの寄附金は、社会福祉協議会のボランティア活動に役立てていただいています。ひよこの施設で開催した今年の「マスつかみ大会」は、90人ほどが参加して大盛況でした。この秋、初めてハロウィーンパーティーも開催します。活動を広げることで、地域とのつながりが深まり、世代を越えた交流もできると実感しています。イベントの開催は、私たちの活動を知っていただける機会にもなるので、さらに充実させたいです。
 従業員専用だった託児所も、ひよこの活動に賛同いただける企業の社員と、一般の方が利用できる仕組みを作り、現在は、園児と小学生を預かるようにしています。
 中津川市はバレーが盛んなまち。中津商業高等学校バレー部OB・OG会が、全日本女子バレーのコーチを務めた川北元さんや大久保茂和さんなどを中津川市に招き、中学生以上を対象に「ジュニアバレーボール教室」を毎年開催しています。昨年には、川北さんと大久保さんが、ひよこの施設に立ち寄ってくださいました。私にとって夢のような時間で、子どもたちに優しく接してくださり、私は胸がいっぱいになりました。

有限会社イチオカの労働環境を整備
託児の業務も一層充実させたい

 有限会社イチオカの業務には、ものづくりにやりがいを感じる20~70代の14人が従事しています。「真面目にいい製品を作り、納期を守っていけばきっといいことがある」と、全員が信じて一生懸命仕事をしてきました。その甲斐があり、今年は、かつてない大きな仕事をいただきました。全社員の真面目さが実を結び、本当にうれしかったです。会社の労働条件は整っているのですが、環境整備が出遅れているので、2年後には工場のリノベーションを予定。3Kから脱皮できるように、労働環境を整えます。
 私の現在の主な仕事は、託児で預かる子どもたちの昼食と、会社の従業員のお弁当作り。惣菜に使う野菜は工場横の畑で作り、可能な限り自給自足をしています。日曜日は必ずといっていいほど畑で過ごしていますね。草むしりだけでも土に触れていると、不思議と心が落ち着きます。子育てが終わった頃から、お酒も楽しむようになりました。夫や友だちと飲みに出かけますが、時には1人で出かけることも。自分だけの時間も大切にしています。心が満たされると、新たなアイディアや活力がわいてきますから。
 今後はひよこの施設で行うイベントに、近所の方がもっと足を運んでくださるよう、PRに力を注ぎます。少子化で児童数が減少傾向にあるので、送迎バスの体制を整えて、ひよこの活動に賛同いただける企業の社員の利用も増やしていきたいと考えています。
 託児を始めて20年以上が過ぎ、親になった利用者もいて感慨深いです。ひよこは、利用する子どもが大人になっても戻れる場所でありたい。そして、地域にとってなくてはならない施設になるよう、今後も活動を広げていきます。