地域の人や観光客で賑わう高山市の商店街。その一角に、「こどもひろば」「まちづくりひろば」「情報ひろば」の3つを兼ね備えた「まちひとぷら座かんかこかん」があります。運営委員長の伊藤早苗さんはその立ち上げから携わり、まちの活性化のために力を尽くしています。
まちを良くしたいという思いで
商店街の女性たちが結集
24歳の時に、夫と結婚して初めて高山市に来ました。夫は昭和5年に創業した商店街にある薬局の二代目。主婦業をしながら、店の仕事にも携わってきました。
平成元年、全国的に郊外型の大型店ができはじめ、商店街の衰退が懸念されるようになりました。高山でも郊外に商業施設ができ、まちなかでは空洞化がはじまり、自然や田畑が広がる郊外の農村風景が失われつつありました。高山のまちなかに賑わいを取り戻すため、商店街の奥さんたちが集い、高山市商店街振興組合連合会の女性部「ストリート21」を立ち上げたのです。
商店街は宮川を挟み、観光客が多く訪れる古いまちなみに隣接しています。商店街も高山のまちの「顔」としての役割を担っていかなければならないと思いました。「ストリート21」という名称は、「高山にふさわしいストリートを作っていく」という思いが込められています。そのために、どんな活動をしていくべきか。全国のまちを視察し、「商店街という線ではなく、まちなかという面に広げる」というヒントを得ました。商店街の枠を越えて、高山のまちなかのまちづくり活動に取り組むようになったのです。
まちを知り、意見を出し合い
見えてきた理想の高山
平成9年、高山市が住宅マスタープラン策定にあたり、市民に呼びかけて、市民参加のまちづくり組織「高山市まちづくり・住まいづくり研究会」が発足しました。会に参加したのは、建築家、デザイナー、看護師、主婦、福祉関係者など、職種はさまざま。行政職員も一市民として加わり、40人ほどが参加していました。毎月、集っては高山の課題を出し合い、活動を模索。「こども」「まちなか」「ふれあい」「住まいづくり」「農村」「みち」といったテーマごとにグループを分け、地域コミュニティのなかでのまちづくりを切り口に、議論を重ねました。
参加者は、グループを越えて活発に意見交換をしました。例えば、活動の中の一つの「まちづくりカレッジ」では、「こどもまちづくり」「高山らしい住まい方」「まちづくりと商店街」「農村のまちづくり」「車椅子で一緒にまちさんぽ」など、異なるテーマで学び合い、職業が違う人同士のつながりを築いていきます。こうした活動を5年間続けて見えてきた理想のまちづくりのために、それぞれがNPOを設立するなど活動は分かれていきました。
私が参加していたのは「まちなか」のグループ。まちなかの再生を見直していく中で、「本来、商店街は人が集う地域コミュニティの場である」という結論に達しました。平成14年に準備委員会を設置し、空き店舗を改装。翌年、出会いと交流の場としてのコミュニティ施設「まちひとぷら座かんかこかん」が生まれました。
さまざまな人が利用する
まちの拠点「かんかこかん」
「かんかこかん」のコンセプトは「どなたにも気軽に立ち寄っていただける"まちの縁側"」です。赤ちゃんから高齢者まで、地元住民から観光客まで、誰でも気軽に立ち寄れるスペースになるよう、運営を続けています。
一階の「こどもひろば」では、子育て中の親子を中心に、保育園児や小学生でいつも賑わっています。地元の方に加え、子連れの観光客の方にも喜ばれています。これからは、地域のみんなで子育てを支えていくことが大切です。「かんかこかん」では、おじいちゃん、おばあちゃん世代もボランティアで加わっています。
また、「かんかこかん」の2階は、「まちづくりひろば」として、各種会合や講習会、市民活動をする人々の交流場所にと活用されています。「かんかこかん」を拠点に、いろいろな活動団体を結びつける役割を担いながら、さまざまなイベントも行ってきました。「ベビーカーでまちさんぽ」や、子どもが忍者になって商店街を走る「こどもまちたんけん」では、子どもたちの元気な声が聞こえています。
目指すは まちの縁側
ほっと一息つける場所へ
私の趣味は旅行です。古き良きまちなみを歩くのが好きで、国内外を問わず、さまざまな場所を旅してきました。だからこそ、高山のまちが大好き。古くからの歴史や文化があることに加え、今でも、人の息遣いのする暮らしが感じられるまちだからです。その趣のあるまちの佇まいを、若い世代や子どもたちに残していきたいです。
一人の力でできることは限られています。私個人としても、薬局の仕事と「かんかこかん」の活動の両立が大変に思う時もありましたが、「かんかこかん」の活動を通じて、みんなで力を合わせることで大きな力となることを教えてもらっています。「継続は力なり」の思いで、あきらめず続けていけば、必ず道は開かれていきます。
飛騨の祭りの闘鶏楽「かんかこかん」の鉦(かね)の音色のように、響き合うまちをめざして。「まちひとぷら座かんかこかん」がまちの縁側として、人々に親しまれ、心温まる場所であることを願っています。