岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

「伝統技術を生き続けるものとして」
外から嫁いだ私だからできる
この街の驚くほどの魅力
信頼できる仲間に支えられながら
いつかこの地に必要な人間へと成長したい


飛騨市の建築・まちなみを残す会
盤所杏子(ばんじょ きょうこ)さん(飛騨市)

【2018年5月11日更新】

およそ1300年前から記述が残る「飛騨の匠」という大工の技。職人の優れた技術は、今でも飛騨の日々の生活に根付き住民の高い美意識によって綺麗な町並みも保たれています。盤所杏子さんは職人たちの技や心意気に惚れ込み、歴史としてだけではなく現在も生ける文化として未来に繋いでいこうと奮闘しています。

自分の子どもが成長した時
地元の魅力を語れる大人に

 北海道の旭川市で育ち、大学卒業後は東京や札幌の企業で営業や編集の仕事をしていました。3年前の27歳の時に、大学で出会った夫との結婚を機に夫の実家がある飛騨市に引っ越しました。
 付き合っていた時に遊びには来ていて、飛騨は自然が多く趣もある素敵な場所だと感じていましたが、当時は都会の暮らしに憧れていたので、まさか住むことになるとは思ってもいませんでした。でも、いつか自分の子どもを自然の中で、地域の人に囲まれて育てたい気持ちが大きかったことや、地域の人々がよそ者の自分を温かく受け入れてくれたのですぐに馴染めました。
 ただ、飛騨市の人自身がこの地域の魅力にあまり気づいていないところに、とてももどかしさを感じました。生まれ育った夫に「どんな場所なの?」と聞いても、照れ隠しだとは思いますが、あまり出てきませんでした。私は、両親の転勤が多くいろんな所で過ごしたので、その場所の良さを知りたいし探したいタイプ。そんなもどかしさを抱える中で、自分の子どもには、大きくなった時に自分の育った場所について誇りを持って魅力を語れる大人になって欲しいという思いが徐々に強まっていきました。

飛騨びとと語って知った
地元の歴史や熱い思い

 私は昔から興味がわくと何でも首を突っ込んでいきたい性格ですので、引っ越した当初からさまざまな人や事柄に出会いたいと考えていました。今の活動に欠かせない大工さんや木工関連の方と出会ったのはまだ妊娠前。飛騨の匠文化館という大工の歴史を伝える観光施設への就職がきっかけで、体育会系出身の私にはちんぷんかんぷんな内容を、みなさん丁寧に教えてくださいました。
 ちょうど妊娠がわかりこれからどうしていこうかと思っていたころ、飛騨市の50年後を若者が担おうじゃないか!というミッションを掲げた「飛騨市まちづくり協議会~ビジョンセッション~」の誘いをいただき参加。いくつかテーマに分かれる中で私は「建築・まちなみ」というテーマを選択。そのメンバーは大工、建設会社社員、行政マンなど業種はさまざまですが共通してそれぞれ熱い気持ちを持った人ばかりでした。私自身が抱えていたもどかしさを共有し、自分たちに何ができるのか、そんな話ができる仲間を得られたことは本当にありがたい機会でした。
 過去の歴史のように語られる「飛騨の匠」の技をどうしたら生かし続けられるか、この素晴らしい町並みをより地元の人にも観光客にも伝えられるかなどを考え、『未来に伝えたいことがある』という共通ワードが生まれました。
 ビジョンセッションでの取り組みは1年で終了しましたが、「継続しなきゃ意味がない!」と、メンバーとの交流はその後も不定期で続きました。「安価で建設される家とはまた異なった、手刻み大工による木造建築の魅力を伝えたい。普段はあまり表に出ない職人のかっこよさ、技術のすばらしさをなんとか若い世代に伝えられないか」という思いが高まり、「飛騨市の建築・まちなみを残す会」を有志で設立。昨年12月には「もくチャレ!」という大工・木工・木育などの要素を複合的に入れた大規模なイベントを開催しました。メインは高校生が大工に習いながら木製ベンチを制作し、地元の高齢者施設に寄贈するイベント。ものづくりの面白さややりがいを感じてもらいました。その他、丸太切りやかんな削りの体験、今ではあまり使われない「チョウナ」による丸太はつりの実演を実施。小さい子や女の子でも楽しめるよう、木の小物やアクセサリーを作るワークショップや岐阜県産の木のおもちゃ広場を準備し、約300人が来場してくれました。「まずは知ってもらうこと」が第一歩なので、1度で終わらず小さくとも続けていきたいですね。
 現在も、小学校のふるさと学習の一環として呼ばれたり、中学生向けに仕事の魅力を語ったりと、少しずつ着目される機会も増え、そこからまた何か新しいヒントが得られたらいいなと思っています。

有志のメンバーだからこそ
一緒に夢を描ける

 「飛騨市の建築・まちなみを残す会」のメンバーは5人。私を除くメンバーは普段仕事をしている地元出身の男性が中心です。他の地域から来た何者かもわからないような女性には入りづらい空間にも思えますが、元が体育会系の性格ですし男性相手でも自分の思ったことはバシバシ言ってしまっていますので、そんな話しやすい雰囲気を作ってくれる仲間に出会えて幸せです。地元で育ったからわかること、外からきたからわかること、女性ならではの視点など、一つひとつの意見を互いに受け止められるチームだと思っています。基本、みんな普段は自分の仕事があるし、私自身も子育て中なので、多くの時間を割くことはできません。でも、だからこそ熱い想いを持ち、自分のできることを精一杯取り組めるんだと思います。仕事と違って、思い描くことは自由だし無限大なのです。
 やってみたいね、という話から実現に繋がる、そんな体験、なかなかできません。

応援してくれる家族がいるから
チャレンジし続けられる

 「飛騨市の建築・まちなみを残す会」のほかに、「飛騨市の木育を広める会」の活動にも参加しています。飛騨の豊かな森の資源を活用して身近に感じてもらう機会を作り出したい。そして地域の人に「建築・まちなみ」同様誇りをもってもらうことを目的に、今は5人のメンバーで活動しています。
 活動のメインは2つ。1つ目は、市内3カ所の子育て支援センター(保育園前のお子さんと親御さんが主に利用)で月に1度開催している木のおもちゃ広場です。場所によりますが、毎回10~100組ほどの親子が参加してくれます。木のおもちゃで遊んだ経験がない方は、初めは遊び方がわからずに困った様子ですが、継続して木のおもちゃと触れ合う中で子どもと一緒に遊び方を探していったり、自然とコミュニケーションが取れたりと、子どもだけでなく親世代も学ぶことがたくさんあるんです。
 2つ目は森や木に関連する方たちの協力をいただき、ワークショップやイベントを開催しています。
 まだ設立して2年ですが、活動を知っていただく中でお声がけいただくことも増えてきて、とてもありがたく思う一方、正直、家事や育児と両立してすべてをこなしていくのは大変な時もあります。そんな時に頼れるのはやっぱり家族。義理の両親が子どもを預かってくれたり、仕事の無い日は夫が面倒を見てくれたりと、家族の支えがなければ活動を続けることはできないので、本当に感謝しかありません。だからこそ、自分の子ども・家族・地域のためにほんのちょっとでも役に立てるといいなと思います。
 「ピンチがチャンス」、これが私のモットーです。自分自身でも、グループでも、変化があれば困難もあります。それを生かすも殺すも自分次第。根がネガティブなタイプなので割と落ち込むことのほうが多いのですが、ピンチの時は変化の時だと捉え、もっともっと良くするチャンスだと思って、これからも恐れずにいろんなことにチャレンジしていきたいと思います。