1948年に創業した、藤田陶器株式会社。美濃焼の陶磁器卸団地「織部ヒルズ」で、食器の卸しと企画を手掛けています。社長を務めるのは3代目の藤田裕子さん。営業事務や商品の企画、小売店「Felice」の企画、経営などを担っています。社長に就任してから、自分の「好き」を取り入れ、女性目線の店づくりに挑戦しています。
幼いころから夢は社長
商社に小売店を併設
私の父は、業務用食器の卸しを専門にする藤田陶器株式会社の社長でした。「織部ヒルズ」は、父たち陶磁器の商社がつくった陶磁器卸業の団地です。「美濃焼まつりを日本の三大陶器祭りにする」と掲げて、その思いを成し遂げた父たちを見て育ちました。
小学生の頃から、店の手伝いに美濃焼まつりへ行っていました。自分の接客で陶器が売れていくのが楽しくて、その頃から、夢は藤田陶器の社長になることでした。
食器を扱っていたため食事にも興味があり、高校卒業後は家政科の短大へ進学。栄養やデザインについて学びました。短大を出てからは、名古屋の陶磁器商社に就職。5年間、勤務をしていました。ここでの経験は、事務や経理のスキルだけではなく、素晴らしい商品を目にして扱えたこと、そして何より人脈が今に生かされています。
当時藤田陶器の社員さんが退職するのをきっかけに土岐に戻り、営業事務として就職。取引先の営業さんに売り方の提案をしたり、売れている商品の聞き取りをして開発に生かしたりしていました。
事務所と倉庫しかなかった会社に、小売店「Felice」オープンしたのは8年前。倉庫に間仕切りをしただけの手狭な店でしたが、それまで接することがなかったお客様の声が聞けるようになりました。
好きなものを仕事に取り込み
美濃焼のイメージを変える
社長に就任した際に店舗を改装しました。これまで事務所にしていた場所を「Felice」にし、事務所を倉庫へ移転。店の雰囲気に合わせ、屋号の「丸八」は「08」として、自社ブランドのマークにしています。
店内に並ぶのは、カフェに置いてあるような、お洒落なデザインの食器です。ハンドメイドイベントに出店されている、素敵なクリエイターさんがつくった服やアクセサリーなど、雑貨も揃えています。
一番のこだわりは、店舗の奥に設けたキッチンスタジオです。自社の撮影スタジオとして活用するだけでなく、定期的にパン教室や料理教室を開いています。料理教室で使う食器は、藤田陶器が取り扱っている商品。料理を楽しんでもらうのはもちろん、食事と食器を結ぶ導線になればと思っています。教室に来て、雑貨や食器を買って帰ってくださる方もいらっしゃいます。
お洒落でかわいい物を集めたことで、女性を中心に遠方からも足を運んでいただけるようになりました。美濃焼も、食べ物も、雑貨も、全部私が好きなもの。店舗のリフォームやキッチンスタジオを作りたいと言った時、「自分なりにやってみろ」と見守ってくれた父に、とても感謝しています。
人を元気づけることが自分の元気に
やりがいは人の役に立つこと
2年前、仕事に一生懸命になりすぎて、中学生の娘がふさぎ込んでしまうまで、気づけずにいた時期がありました。その時、ちょうど「織部ヒルズ」のイベント内容の企画を募集していたので、企画を考えてみないかと娘に声をかけました。すると、娘が提案した、マグカップにデザートを盛り付けるワンコインパフェが見事に採用。当日完売するほどの人気でした。たくさんの人が喜んでパフェを食べてくれる姿を見て、娘は元気を取り戻し、「会社を継ぎたい」と言ってくれるようになりました。今では商品のアイデアを出し合い、励まし合える、私の一番の理解者です。
『トム・ソーヤの冒険』の著者マーク・トウェインの言葉に「自分を元気づける一番良い方法は、誰か別の人を元気づけてあげることだ」というものがあります。たくさんの人の笑顔に娘が元気づく様子を見て、本当にその通りだと思うようになりました。この言葉は、タイルや床など、店の中にいくつか刻んでいます。たまにいらっしゃる外国からのお客様に「いい言葉ですね」と言われたこともあります。
仕事で提案した商品を気に入っていただいた時、「あなたにお願いしてよかった」と言われると、疲れも吹き飛ぶほどうれしいです。誰かの役に立つために、毎日仕事をしていると言えるかもしれませんね。
美濃焼のイメージ改革
同業者で結束し、次の代へ
美濃焼は日本の陶磁器生産量の約60%を占めています。そこには高い技術力があるはずなのに、たくさん生産できてしまうが故に普段使いの安価な食器と思われがちです。
現状を打破するために、SNSを利用してイメージアップを図っています。美濃焼に機能性とデザインを兼ね備えた印象を持っていただくため、東京の展示会に出店してイメージ改革を進めています。個々の努力だけでは美濃焼のイメージ向上は困難です。メーカーも商社も結束して、盛り上げていく仕組みをつくっていかなければなりません。
会社の特色を生かしながら美濃焼の活性化に尽力し、さらに会社として社員を守れるだけの売り上げも出す必要があります。難しいことですが、次の代までつなげなくては娘に怒られてしまいますからね。仕事を精いっぱい楽しみながら、会社も美濃焼も守っていきます。