女性ならではの感性を活かして、加工品開発に注力する寺田農園の代表取締役を務める寺田真由美さん。高齢化が進む農業において、後継者の育成に力を注いでいます。平成26年、農山漁村の男女共同参画を目指す優良活動表彰で、最高の農林水産大臣賞を受賞。飛騨地方の名産である夏秋トマトの栽培と並行して、トマトジュースなどの加工品も手がける寺田さんのさらなる夢を伺いました。
21歳で寺田農園へ
農業の素晴らしさを知る
ホテル勤務を経て、21歳で寺田家に嫁ぎました。それまでは農業と無縁の生活でしたので慣れないことも多く苦労しましたが、なによりも植物に携われるのがうれしかったですね。若くして嫁いだことを心配していた両親のためにも、毎日をいかに楽しく暮らすかを考えていました。
寺田農園では、飛騨地方の寒暖差を生かした夏秋トマトを育てています。かつては、大玉の品種「桃太郎」を生産していましたが、近年は消費者の嗜好が変化。小ぶりで味が濃い品種が好まれるようになり、現在、農園では3種のトマトを生産しています。夏は多忙を極めますが、加工の受託を中心に生産物の加工を行っています。所有している加工施設で地域の農産物の素材を生かした加工品を作ることが、今私にできる地域への恩返しです。なによりも、自然の中に身を置く暮らしは自分に合っていると感じます。仕事の終わりに見る夕焼けは本当に美しく、これぞ自然と接する農業の醍醐味。自然が織り成す美しさに心を癒される毎日です。
自社ブランドのトマトジュースを販売
専門店で商品を広くPR
収穫したものの中には、傷がついていたり規格外の大きさだったりすることを理由に市場に流通できないものが多々あります。美味しいのに廃棄せざるをえない生産物を活かすべく、平成22年に加工場を設立。トマトジュースの生産に着手しました。旬の美味しさをそのまま瓶に詰め込みたいと、収穫後すぐに加工場へ。収穫と加工を同時期に行うので、夏はとても忙しいです。
運ばれたトマトは、ヘタを取り除いて洗浄。すべて手作業で行います。弊社のトマトジュースは無塩・無添加で素材本来の美味しさを活かしています。
平成26年には、トマトジュースを販売するアンテナショップ「庄兵衛さん家のとまじゅう」を高山市上二之町にオープンしました。販売するトマトジュースは、3種。桃太郎で作った「うんまい」(飛騨弁で「おいしい」)は爽やかな口あたりが特徴。「ごっつぉ」(飛騨弁で「ご馳走」)には酸味と甘味のバランスが良いフルティカを使用し、ほんのりとした甘みがあります。ピッコラルージュで作る「うたてぇ」(飛騨弁で「最高にありがたい」)は、濃厚な味わいです。好みの味を見つけてもらいたいと、3種の飲み比べができる「飲み比べセット」も販売しています。
突然やってきた夫との別れ
全ての業務を背負って
3年前に夫が他界。それまで販売を担当していた私が、生産や出荷など全ての業務を担うことになりました。土壌は科学、灌水施設には専門的な様々な知識を要します。農業に携わっていたとはいえ、水や土壌管理に関しての知識は乏しかった当時。義父母をはじめ、近隣の生産者さんに助けていただきました。
生産者の高齢化による担い手不足や、放棄耕作地の増加を解消したいと、夫が携わっていた岐阜県の事業「あすなろ農業塾」も引き継ぎました。農業は男性だけのものではありません。女性の感性が活かせる加工や販売も農業の一貫ととらえ、多くの人に携わってほしいですね。平成28年には3年間の実習を経て、3人が巣立っていきました。
引き続き、「あすなろ農業塾」で担い手を育てていきたいところですが、現在は社内の人材育成と業務環境整備に注力したい。主人が他界したときに困った経験を活かして、仕事内容を「見える化」し、誰もが業務を引き継げるような仕組みを構築していきたいですね。
夢は、食育レストランのオープン
素材の味を未来の子どもに伝えたい
今後は閑散期を利用して、飛騨ネギや白菜などこの地に合ったおいしい野菜も作れたらと考えています。さらに、今ある自然環境を未来の子どもたちに残していくために、環境や植物に負荷を与えない野菜づくりのあり方を考えていきたいです。
まだまだ先の話になりますが、地域の美しい景観を活かした「農家レストラン」をいつかオープンしたいですね。お客さま自身が収穫した野菜をそのままレストランで味わってもらうのが夢です。味付けは素材を活かしてシンプルに。野菜本来がもつ美味しさをひとりでも多くの人に味わってほしいです。子どものころから畑で遊びながら手伝いをしていた4年生の長男は、食べることに興味津々。素材の味にうるさいんです(笑)。「マヨネーズやドレッシングなどをかけずに食べるほうがおいしい」と話す姿を見ると、うれしいですね。幼少期から包丁を持たせていたので、晩御飯などをつくってくれることもあるんですよ。
仕事と家事を両立するためには、ほどほどに手を抜くこと。家事を完璧にする時間があるなら、子どもと遊ぶ時間に割きたいと考えています。なによりも子どもとコミュニケーションをとることを優先していて、冬はスノーボード、夏は時間のある限りドライブと釣りに一緒に出かけて、親子水入らずのときを楽しんでいます。