岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

旅館再建を機にうまれた
愛好家のつながり
絵本を通して
家族や地域の絆を育んで


NPO法人思い出の絵本展代表
北平修子(きたひら のぶこ)さん(飛騨市)

【2018年6月12日更新】

明治3年創業の老舗旅館「蕪水亭」の女将を務める北平修子さんは、家業のかたわら、NPO法人思い出の絵本展の代表として、絵本の魅力を地域に紹介しています。読み聞かせを通して伝えているのは、親子間のスキンシップや交流の大切さ。子どもたちの輝く眼差しを元気の源に、北平さんは多忙な日々をいきいきと過ごしています。

旅館再建を機に生まれた
絵本を介した地域の絆

 「NPO法人思い出の絵本展」設立のきっかけは、平成16年10月に発生した台風23号でした。大型で強い台風23号は、日本列島を北上。河川氾濫や浸水など、甚大な被害を飛騨市にもたらしました。宮川と荒城川の合流地点に位置する我が旅館も壊滅的な被害を受け、宿泊棟をはじめ、旅館に併設していた住居も流されてしまいました。
 多くを失った絶望的な状況の中、私たちを支えてくれたのは地域の方々でした。普段地域に対して特別な活動をしていたわけではないのに、見ず知らずの方までもが手伝いに駆けつけてくださったのです。
 おかげさまで、翌年には旅館を再建することができました。少しでも感謝の思いを伝えたいと、地域の方々が集まれるイベントの開催を決意。全国各地で開催されている「旅する絵本カーニバル」を「蕪水亭」で2年間開催しました。
 感謝を伝えるために始めたイベントは、新たな出会いをもたらしてくれました。絵本の朗読や紙芝居、人形劇など、地域を拠点に活動する人とつながることができたのです。絵本の魅力を一緒に広めませんか、と始まったのが「思い出の絵本展」でした。初開催は、平成19年11月。絵本の読み聞かせをはじめ、エプロンシアターや手あそびなどを楽しめるイベントは、毎年の恒例イベントとなり、毎回たくさんの子どもでにぎわっています。
 平成24年に、NPO法人化。現在、30~80代までの会員35人が、保育園での読み聞かせや、絵本ライブなどさまざまな活動に取り組んでいます。絵本は、親子間だけでなく、地域間のつながりを育んでくれます。毎年夏休みには、飛騨市・高山市内の商店や飲食店内に絵本を展示する「ぐるっと町ごと絵本館」を実施。約90店にご協力いただいて、図書館や団体が所有する本を展示しています。毎年テーマに合わせて、本を選定。2017年は、自然をテーマにした本を展示し、ご好評をいただきました。

実体験から読み聞かせに注力
子どものキラキラな目を活力に

 読み聞かせの大切さをみなさんにお伝えしているのは、自身の子育てに後悔があるからです。旅館業はお客さまが第一で、我が子は二の次。寝かしつけながら、絵本を読んであげる時間もありませんでした。子育てに手がかかる時期こそ、子どもがもっとも愛くるしいとき。もっと我が子と向き合いたかったなと反省しています。
 現代は、子どもをとりまく環境が変化。共働きで子どもと一緒に過ごす時間をなかなかつくれなかったり、おもちゃのデジタル化が進み一人遊びが可能になったりしています。そんな中、2、3分だけでもいいので、子どもをぎゅっと抱きしめて絵本を読む時間をつくってほしいですね。絵本は、子どもが読むものと思われがちですが、大人にこそ親しんでほしい。ときに弱っている心を癒してくれたり、自らを奮い立たせる勇気をくれたりします。
 旅館業との両立は大変ですが、NPO法人思い出の絵本展の活動があるからこそ、本業も頑張れるのだと思います。なによりも家族の理解なくして両立はできません。読み聞かせや会議などで家を空けることに、当初は理解を得られませんでしたが、現在では活動を応援してくれています。
 「仕事に絵本の活動に、大変じゃないの?」とよく聞かれますが、子どもたちとのふれあいが活力の源。「絵本のおばちゃん」と子どもたちと顔見知りになれたり「今度はいつ来てくれるの?」と読み聞かせを楽しみにしてくれたりすると、励みになります。キラキラとした眼差しで子どもたちが絵本を見てくれるから、私も目を輝かせて、ご宿泊のお客さまに接することができるのです。

いつも心に大女将がいる
おかげさまの心の大切さ

 大阪で生まれ、26歳で蕪水亭に嫁ぎました。間もなく義父が他界。義母も病に倒れ、女将の座を引き継ぐことになりました。
 右も左もわからぬ私は、義祖母にあたる大女将の姿を見て仕事を覚えました。心の美しい方で、口癖は「おかげさま」。人は周りに支えられてこそ、常に感謝の心を持つ大切さを大女将の生き様から学びました。「あなたに会えて良かった、またあなたに会いたいと言われるような人になりなさい」との教えは、今でも強く心に残っています。平成15年に亡くなりましたが、いまでも憧れの存在です。
 旅館が台風被害にあったのは、大女将が亡くなった翌年のこと。旅館も住まいも流され、心を痛めましたが、泣いていては始まりません。「こんなとき大女将だったらどうするだろう」と常に考えていました。心に大女将がいてくれたから乗り越えることができたのです。

美しい故郷をいつまでも
飛騨を題材にした絵本をつくりたい

 自宅にいれば、24時間常に仕事モード。心が休まる時間はなかなかないのですが、一日の仕事を終えてほっと一息つきながら、大好きなあられを食べるときが至福のひとときです。
 絵本の活動とともに、私の活力となっているのが雅楽演奏です。きっかけは、長女が小学校高学年のとき。長女が神事で舞を奉納することになり、その稽古場で雅楽を耳にしたのです。生演奏を耳にしたのは、このときが始めて。雅楽特有の荘厳な音に心を惹かれ、演奏に仲間入りするようになりました。仏教の伝来とともに日本へやってきた雅楽。竜笛(りゅうてき)や篳篥(ひちりき)など多様な楽器が織り成す音色が魅力です。
 私にはずっと温めている夢があります。それは、子どもたちと一緒に、飛騨市にまつわる絵本をつくること。進学や就職で、飛騨市を離れる若い世代が、故郷の美しさを思い起こせるような一冊をつくりたいですね。飛騨市は自然が美しく、人が温かくて本当に素晴らしいところ。未来をになう飛騨市の子どもたちに故郷の素晴らしさを伝え、ここにずっと住み続けるきっかけになればうれしいですね。