岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

柿酢は一つの起点
地域の人たちを巻き込んで
新たなものを生み出す
きっかけになればうれしい


株式会社リバークレス 代表取締役
伊藤由紀(いとう ゆき)さん(海津市)

【2018年6月28日更新】

2年前に東京から拠点を移し、海津市で名産品の柿を使った果実酢づくりをはじめた伊藤由紀さん。コンサルタント業から活躍の場は広がり、企画、生産、販売まで一手に管理する立場となりました。「ハリヨの柿酢」を足がかりに、地元の自治体や行政、住人たちとまちを盛り上げていきたいと願っています。

友人の地域おこし活動を
目の当たりにして決意

 名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻を修了後、就職先ではIT業務に就きました。その経験を活かし、2007年にコンサルティング会社「株式会社リバークレス」を設立。現在は東京でのコンサルタント業務を最低限に抑えて、まちづくりに専念しています。
 分野の異なる活動を始めたのは、地域おこしをしていた人との出会いがきっかけです。その方は、岡山県の棚田再生に関わり、地域の人々と楽しそうに活動していました。付加価値をつけ、米を販売するという生活スタイルもとても印象的で、私も地元で何かできないかと考えるようになったんです。
 生まれ故郷の海津市で取り組んでいるのは、この地域で昔からつくられている富有柿、陽豊柿を商品化する6次産業化です。ブランド名の「ハリヨ」は、海津市に生息する天然記念物、淡水魚のハリヨに由来します。
 果実酢に適しているのは、熟度が増したもの。西美濃農業協同組合南濃柿部会と連携し、熟した規格外品を地元の生産者から仕入れ、有効活用しています。8カ月の熟成期間を経て、2017年秋からようやくネット販売をスタートしたところです。今までにない商品を目指し、ラベルを東京時代に知り合ったアーティストに描きおろしてもらったり、クリエイティブディレクターにアドバイスを貰ったりしました。
 
直感に従ってスタート
柿酢で生きる仕組みづくり

 柿酢を選んだのは、実はたまたまなんです。耕作放棄地になっていた祖父の畑を再生し、育てた柿を近所に配ったり、ジャムをつくったりして身近な素材だったから。昔はそれほど好きな食べ物ではありませんでした。東京に住むようになり、改めて地元の柿のおいしさを再認識しました。
 「最も大切なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです」というスティーブ・ジョブスの言葉が座右の銘。私は人の意見に流されやすいのですが、自分の直感に従った結果であれば、たとえ失敗したとしても後悔はありません。スティーブ・ジョブスの言葉をきいた時、自分のための言葉だと思いました。新品のノートをおろす際は、必ず1ページ目に記すようにしています。この言葉通り、「柿酢ならいける。なんだか楽しそう」という漠然とした予感に従いました。
 とはいえ、せっかく始めるのであれば趣味やボランティアではなく、自分にとっても地域にとっても「生きる仕組み」となるものをつくりたかった。柿生産者は高齢化し、耕作放棄地が増えています。本当においしい柿だからこそ、差別化のためにブランド化が必要ですし、ブランド化を通して、少しでも経済活動にも寄与したいと思っています。

さまざまな人との出会いが
新たなアイディアを生む

 企画から生産、販売まで、すべて一社で担っているので、さまざまな職種、考え方の人に出会えるのがこの仕事の魅力。新たなコラボレーションの可能性が見つかるときもあります。SNSの口コミも力になりますね。
 1年弱かけて製品化しても、販売がスムーズにいく訳ではありません。微生物が相手なので、発酵中は休日でも気を抜けません。醸造所と住んでいる家が近いので、プライベートと仕事のメリハリは、あまりないかもしれませんね。
 東京にいた頃は、ゴルフや飲み会でストレスを発散していました。今は山をぼんやり眺めたり、庭に花を植えたり、野菜をつくったりして息抜きしています。DIYも好きで、棚や椅子をつくったことも。醸造所の壁も自分で塗装したんですよ。

最初の一歩を踏み出す
手助けをしていきたい

 まちおこしをするには、仲間づくりが欠かせません。話をすると、「いいね」と共感してくれる人も多い。活動の規模はまだ大きくありませんが、続けていけば、興味を示す人が集まってきてくれるはずです。柿酢を扱うカフェバーなど、いずれは醸造所に人が集まるコミュニティースポットをつくりたいと思っています。
 柿酢はいわばスタート事業。また新たなものが生まれるきっかけをつくりたい。私自身、新たな事業に向け最初の一歩を踏み出すには、勇気がいりました。コンサルタント業に関わってきた者として、この経験を活かし、地域で何か始めたい人の手伝いもできればと考えています。
 地域のためにというよりも、自分が楽しそうだと直感して進んだ結果が、地域おこしにつながればうれしい。地域の人たちを巻き込んで、事業としても地元産業としても、持続性のあるものにしていきたい。いずれは国内だけでなく、海外にも進出できたらいいですね。