時代を経て、変わりゆくまちの姿。再生の一歩を担う解体業は、まちづくりにおいて不可欠な存在です。鉄骨・木造建築の解体作業のほか、空き家管理サービスや不動産仲介、古民家再生を手がける株式会社誠和。代表取締役の後藤和恵さんは、業界では異例の女性社長として、「再生」に注力してきました。
人との縁を大切に
感謝の心を忘れずに
2015年に父から会社を引き継ぎ、代表取締役に就任。以来、「人を大切にする会社にしたい」と、職場環境の整備に努めてまいりました。
毎月の給料日には、給料明細書とともに一人ひとりに手紙を手渡しています。感謝の思いをつづる手紙は、従業員宛てだけに留まりません。誠和で働いてくれているのは家庭の支えがあってこそですから、家族に対しても一筆したためています。
専門知識を持ち合わせていないために引け目を感じたり、土日出勤や残業をする社員に対して罪悪感を持ったりするときもありますが、「わからないことは聞いてね」「遠慮せんでもええんやよ」という優しい一言に、何度救われたか。また、厳しくも愛情を持った指摘に学びを得るときも少なくありません。真面目で、仕事に愛情を持った従業員たちと働ける私は、幸せです。
何もわからぬところからスタートして3年が経ちました。「ウサギとカメ」でいえば、私はカメ。遅咲きですからなかなか順調にはいきませんが、カメのようにコツコツと前進していこうと思います。まだまだ勉強の身で、教えられることばかり。従業員だけでなく、取引をさせていただいている他社の方にも、いろいろと助けられています。工期が長い現場でも嫌な顔ひとつせず快く引き受けてくださったり、その方に何の利益がないにも関わらず、「一緒に課題を解決していこう」と優しく手を差し伸べていただいたり、感謝の念に堪えません。私の今年のテーマは、「人とのつながり」。仕事で生まれた縁を、大切に育んでいきたいと思います。
再生に向けたファーストステージ
安全安心への心がけで現場を美しく
「解体工事は再生の起点。街を変える第一歩」が我社のスローガン。解体業なくして、まちづくりはありません。「解体」という言葉から、建物を力任せに壊すイメージを持たれるかもしれませんが、実際はとても繊細な作業が伴います。日本家屋であれば、まず瓦を一つひとつ降ろしていくことからスタート。重機が立ち入れない場所では、手作業で建物を解体していきます。大型の機械を用いる解体現場において、コミュニケーションは重要。圧巻の連携プレーで丁寧かつ迅速に作業を進めていきます。古民家再生も解体の技術が集約された仕事のひとつ。古き良き技術を後世に引き継ぐ重要な場面にも、誠和の経験と技が活かされています。
解体を始める前には、危険箇所を共有する「KY(危険予知)」を必ず行います。事故のない安全な環境を保つには整理整頓が大切で、我社の仕事は清掃に始まり清掃で終わり。ホウキの掃き跡が残るほど、常に美しく保たれています。周囲のお客さまにご迷惑をかけぬよう、粉塵や騒音に気を配るほか、工事の前後のご挨拶も欠かしません。
解体業は現場が主役。その現場で汗を流す従業員を支えるのが、私の役目です。業務上の改善点などを一人ひとりと積極的に話し合い、希望があれば資格取得もサポートしています。先日も若い従業員が車両系建設機械運転技能講習の免許を取得しました。試験を終えた彼は、やりきった表情で帰社。「『試験頑張ってね』という社長の一言が支えになった」という言葉に心が温まりました。
笑顔で帰社する従業員の姿を見るのが、もっとも幸せを感じるとき。誰も口にはしませんが、みな解体業に誇りを持っているんだなと実感します。
解体業界にもっと女性を
環境を整備し活躍の場を増やしたい
近年は新たな事業にも目を向けています。不動産売買・仲介のほか、社会的課題である、空き家問題に対するサービスにも着手。近年、増加の一途をたどる空き家は、そのまま放置しておくと、盗難や放火、不法滞在などさまざまな犯罪に巻き込まれてしまうケースも少なくありません。我社では、家を空けなくてはならない事情を持つお客さまに対して、「通気・換気」「室内外の清掃」「安全確認」などのサービスを提供しています。
さまざまな業種で女性活躍が進み、我社でも女性の重機オペレーターが第一線で働いています。今後は、女性が活躍できる場を増やしたい。重機の操作に性別は関係ありませんし、女性ならではの細やかな視点を活かせると考えています。ワークシェアを導入し、子育て中の女性を積極的に雇用することも夢のひとつ。必要であれば、社内に託児所を設けるのもいいですね。働くお母さんのそばで子どもがすくすくと育つ環境が作れたらいいなと、夢がどんどん膨らんでいきます。
実るほど頭を垂れる稲穂かな
祖母の言葉を心に
私のロールモデルは、祖母。女性の社会進出が珍しかった時代に、保険外交員として優秀な成績を収めていました。体が弱かったにもかかわらず、下駄姿で集金に走り回っていた祖母には頭が上がりません。
祖母が発した「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉は、深く心に刻まれています。人間ですから、怒りを覚えたり心をかき乱されたりするときも、もちろんあります。そんな時は祖母を思い出して、背筋を正しています。
私は、好奇心とチャレンジ精神が旺盛。もともと体を動かすのが好きだったこともあって、最近はヨガに通い始めました。新たな知識を得るのは楽しいですね。仕事の忙しさや年齢に負けず、これからもいろんなことに挑戦していきたいです。