美濃和紙を使ったアート作品を全国から募集し、うだつの上がる町並みに展示する「美濃和紙あかりアート展」の実行委員長や、美濃市への移住希望者をサポートする「NPO法人美濃のすまいづくり」の事務局長も務める田代智亜紀さん。フリーランスのデザイナーとして働きながら、地域の人たちとともに美濃のまちを盛り上げています。
気軽な気持ちで訪れた
美濃市に魅せられて
私が美濃市に来たのは、19年前。「田舎暮らしがしたい」と意気込んできたわけではなく、次はここに住んでみようと、気軽にやってきました。気がつけば、今までで一番長く住んでいるまちになり、愛着も湧いています。
埼玉県で生まれましたが、親が転勤族でしたので、地域の行事や祭りには、あまり参加できませんでした。美術系の短期大学を卒業後、東京で広告代理店のデザイナーとして働いていました。
東京にいた時から、岐阜県には趣味のカヌーをしによく来ていました。長良川は水がきれいで、遊べる瀬が多い最高の川。休日になると、車にカヌーを乗せ、東京から訪れていました。
仕事を休職することになり、その期間に参加したのが、美濃手すき和紙スクール。うだつの上がる町並みの空き家に1カ月間滞在しました。美濃のまちは、文化的な面もあって、地域の人同士の交流が深い。人と会うにはアポイントがいる都会と違って、パッと集合できる関係も魅力的です。何より、大好きな長良川が近くにあって、自然環境も抜群。1カ月の滞在を経て、その2カ月後に引っ越してきました。
地域の人からの依頼がきっかけで、フリーランスとしてデザインの仕事をするようになりました。そして、スクールで知り合った人の縁で、「美濃和紙あかりアート展」の実行委員会に参加。毎年のパンフレットやポスターなど、印刷物のデザインを手掛けています。
発起人の思いを受け継ぎ
全国に展開するのが役目
実行委員長になったのは、3年前。「美濃和紙あかりアート展」は東海地方では認知され、SNSでも話題になっていますが、私の役目は、もっと外に発信していくことだと感じています。2018年には、「グッドデザイン賞」地域・コミュニティづくりの分類で受賞することができました。
賞への応募は、委員会に入った当初からずっと考えていました。「美濃和紙あかりアート展」では毎年、新しいものが見られるように作品を公募。また、美濃市の魅力を感じてもらおうと、制作者は自らで展示に訪れ、開催の2日間、美濃のまちに滞在してもらっています。歴史的なまち並みと美濃和紙を融合すると、「行燈」となりがちですが、まだ見ぬ新しい美濃和紙の可能性を考え、「あかり」としているのもポイントです。市の大イベントの一つでありながら、地元ボランティアによる実行委員会でつくり上げてしまう地域力のすごさ、25年以上も続く実行力を感じていました。
評価のポイントとなった点は、地域に浸透し四半世紀にわたって続いていること、子どもからプロまで世界中から参加できる間口の広さなどです。これまで関わってきた人たちの思いが広く認められたと、うれしく思います。
視野の広さを生かし
まちづくりを推進
現在の実行委員は20人。若い人がまちから減り、一人でも欠けたら回っていかないほどの人数で運営しています。委員会のいろんな思いを汲んで、これからどう続けていくかを考えながら、次の委員長にバトンを渡すときまで、続けていきたいと思います。
自らで「これをしよう」と決めてきたというよりは、目の前にあるものを受け止めて、人が望んでいることを引き受けてきた結果、今の生活があると感じています。
移住してきた人の相談役にもなる「NPO法人美濃のすまいづくり」事務局長としての活動も、ウェブサイトのブログ更新を頼まれていた縁で、引き継ぎました。自然も豊富で交通の便も良いのが美濃市。単身、子育て世代、老後など、移住のタイミングはさまざまですが、古い町並みなどの文化的なところも人気で、移住者が増えています。
まちづくりには、プランや仕掛けが必要。プラン作成や仕掛け作りは、広告代理店時代に培ったいろんな角度から検証する考え方が活かされていると感じます。
人と自然との出会いから
見つけた趣味や習い事
プライベートも満喫しています。夏はカヌー、冬はスキーやスケートを楽しんでいます。シーズン中は、カヌー仲間たちと毎週乗っています。川は自然の産物なので、行くたびに流れや形状が違います。激しく険しい中を、仲間と助け合いながら進んでいくのも魅力です。
7月には、郡上市白鳥町の阿弥陀ヶ滝みそぎ祭りに参加。滝つぼに入って、しぶきを浴びていると、人間の穢れが流されるのを感じます。
うだつの上がる町並みの中では、三線や陶芸、茶道、華道などを教えてもらっています。いろんな人がいて、気軽に教えてもらえるのがいいですね。
これからも求められたことに応じながら自分の役目を果たし、美濃市での暮らしを充実させていきたいです。