ベビーサインやおひるねアートの講師として、東濃地方と名古屋市北部エリアを中心に、行政が開催する乳幼児学級や、子育て支援イベントの講師として引っ張りだこの井藤ゆかさん。幼い頃からの夢は「お母さん」。しかし、24歳で第1子を出産すると子育てに苦戦し、理想と現実のギャップに悩まされ、ついには産後うつになり家に引きこもってしまいます。しかし、第2子を妊娠中にベビーサインに出会い、それが転機となって井藤さんの育児生活が変わり、現在のキャリアが形成されていきます。
憧れのママになったのに
泣いてばかりの毎日
子どもの頃からの夢はお母さん。高校卒業後は三菱重工業(株)で事務職に就いていましたが、22歳で結婚して24歳でママになりました。生まれた娘は夜泣きすることが多く、抱っこやおんぶから降ろすとすぐ泣き出してしまう。何を考えているのかわからず、泣かれるとパニックになって娘と一緒に私も泣いていましたね。いま思えば、母親である私のストレスが子どもにうつってしまっていたと思います。主人には「軟体動物みたいな宇宙人を介護しているような日常だ」といって、毎日当たっていました。「良き嫁、良き母、良き妻にならなければ」というプレッシャーもあって、ついには軽い産後うつになり、家に引きこもってしまったのです。その後、子育ての不安を抱えながらも2人目を妊娠。ある日、テレビで見たのが「ベビーサイン育児」だったのです。
行き詰まっていた私の育児を
180度変えたベビーサイン
ベビーサインとは1990年にアメリカで発祥し、まだ言葉を話せない赤ちゃんと手話やジェスチャーを使って会話する育児法。ろう者の親に育てられた赤ちゃんは、手話を使ったコミュニケーションを学ぶため、一般的な赤ちゃんに比べると、早くから意思の疎通ができるようになるというデータに基づき開発されました。
私は2001年に第2子である息子を出産しましたが、当時の日本ではベビーサインの認知は低く、書籍はアメリカの児童心理学者が書いた著書の翻訳本が1冊発行されていたのみ。しかし、その1冊が行き詰まってしまっていた私の育児への一筋の光でした。本を手に入れ、自己流のサインも作りながら、息子にそれらを教え始めたのです。
息子が11カ月になった頃、夕食の支度をしていたとき息子がグズグズし始めました。すると、息子は「うんち出たよ」のサインをしている。「まさか。本当かな」と思い、確認すると、本当にしていて驚きました。まだ話せない赤ちゃんが、しっかりと自分の意思を伝えてくれたんです。「お腹が空いた」、「もう眠い」など、息子は1歳2カ月で20語程度のサインを覚えました。息子の要求が率直にわかるので、私はそれに応えることができるんです。子どものストレスが減り機嫌の良い時間が増えるので、私も心穏やかに育児ができます。私の育児は180度好転し、息子がより愛おしく思えるようになり、子育てが楽しめるようになりました。
ベビーサインの普及を狙って
「おひるねアート」を導入
私は自分の体験から友人や知人の出産祝いにベビーサインの本を贈り、「パパもじいじやばあばも覚えてくれたら子どもを預けられるようにもなるし、絶対いいから」と勧めるようになりました。でも、その後友人にベビーサインを実践したか?とたずねると、ほとんどの人が「やってない」と答えるのです。こんなにいいものなのに伝わらない。そんな無念さを何度か味わいました。しかし、3人目の子どもが幼稚園に入園して再就職を考え始めたとき、日本でも「ベビーサイン教室」が開講されていて、認定講師の試験があると知ったのです。私は「どうしてもベビーサインを普及させたい」と、思い切って資格取得に挑戦し、2008年、認定講師になりました。
意気揚々と地域の公民館などで「ベビーサイン教室体験会」を開催しましたが、人が全然集まりません。普及させることの難しさを痛感しつつ、パート勤めの傍ら、細々と活動を続けました。しかし、4年前に「おひるねアート」に出会い、ベビーサイン教室の集客手段として活用できるのではないかと考えたんです。早速、おひるねアートの認定講師の資格を取って中部地区初の認定講師になりました。ビジュアルのいいおひるねアートの撮影会はインスタなどのSNSであっという間に広まり、「可愛くて成長記録も残せる」とママたちの間で大人気に。現在、岐阜県可児市内5カ所、愛知県3カ所で定期開催。さらに、モデルハウス会場など集客を望む企業からのイベント依頼も多く、毎月延べ200組以上のママとその赤ちゃんの成長を感じ、楽しく多忙な毎日を送っています。でも、私の活動の原点はあくまでもベビーサイン。「育児に疲れてしまったママが、我が子を心から愛おしいと思える瞬間をつくってあげたい」という思いが前提です。私と出会うママと赤ちゃんに、私が経験し習得してきた子育てのノウハウが提供できるよう、ベビーサインの体験会にも参加してもらえるようにお声をかけています。
自利利他の精神で
育児に悩むママたちを救いたい
ベビーサインで子どもが大人と違う視点・目線でものを見ていることがわかったり、感じているものがわかったりすると誰もが感動しますよ。例えば散歩中に「きれいなお花が咲いているね」と私がお話ししているのに、息子はアリの行列を見て興奮気味に「アリ!アリ!」とサインで返してくる。同じ景色を見ていても、子どもが興味を示すものは大人と全く違うことを実感できたことは、とても貴重な体験でした。また、ベビーサインクラスで学んだママたちから、わが子との楽しいコミュニケーションエピソードを聞くことが、私の大きなやりがいの一つでもあります。
「おひるねアート」や、「ベビーサイン」をとおして、たくさんのママたちに育児を自分らしく楽しんでほしい。そんな笑顔のママが増えれば、幸せな子ども、幸せな家庭が増える。さらに、輝く笑顔のママたちを見て、これから大人になる若い女の子たちが「育児って素敵だな。子どもってかわいいな。私もママになりたいな」と感じてくれたらいいなと思っています。それが、これからの少子化の底上げにもなっていくといいですね。
何も取り柄がない私ですが、そんな私でもできるのは、がんばるママたちに「100点ママじゃなくても大丈夫!」「子育てって、本当に素晴らしい。ママはもっと自信を持って。子どもと一緒に学ぼう!楽しもう!」と伝えていくこと。育児に疲れたママや、悩めるママたちの心を軽くしてあげたいのです。将来の私が目指す活動の集大成として、「私の子育て経験を語る」講演活動ができたらいいなと思っています。