岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

高齢化や過疎化を食い止めたい
真っ赤なトマトや
甘いイチゴの観光農園で
このまちににぎわいと人々の笑顔を


石川農園 代表
石川右木子(いしかわ ゆきこ)さん(恵那市)

【2019年4月22日更新】

石川家に嫁いで初めて農業に就いた右木子さん。近所の生産者に教わりながらトマトを栽培して14年、出荷するだけでなく、まちの活性化を目的としてトマト農園の観光化も果たしました。毎年、夏休みは山間にトマト狩りを楽しむ大勢の人々の笑い声が響き渡ります。「探究心をそそられることや思いついたことをすぐやるのが好き」と言い、3年前からイチゴ栽培も始め、その観光化にも周囲の期待が集まっています。

山登りとスキーができる
環境を求めて京都から長野へ

 大好きな山登りとスキーを年中楽しむために生まれ育った京都から長野県の信州大学数学科へ進学。そこで、山スキーにすっかりのめり込んで、大学を6年かけて卒業。その後も就職はせずに、アルバイトで100万円を貯めては国内外の山へ。そんな生活を結婚する28歳まで続けていました。フランスやペルー、アラスカへも行き、山スキー中心の仕事や生活をしていたのです。でも、アルバイトは長くても3カ月。常に新しい職場で短期間働き、仕事のやりがいや奥深さを知る前に辞める。何の学びや成長もなくて、気づけば山スキーとアルバイトを繰り返す生活がおもしろくなくなっていたのです。まずは自分の拠点を定めるべきだと考え、28歳で大学時代からのスキー仲間だった夫と結婚し、主人の実家のある恵那市で暮らし始めました。

スキー三昧の生活だと
喜んで始めたトマトづくり

 夫の実家は米づくりをする兼業農家。周囲も農業、特にトマトづくりの盛んな地域で、農家の暮らしを見聞きした私は胸が踊りました。その理由は「3月から12月初旬まで休みなく働けば、冬季はスキー三昧できる!」と思ったからです。何という素敵なライフスタイルなのだろうと。また、元々トマトが好きでしたが、学生時代に「1個150円は高い」と買うのを躊躇したのを思い出し、「自分で作れば食べ放題」と心が弾みました。そうした理由から、トマト栽培を生業とすることに決めたのです。まずは夫の実家の水田を畑に造成し直しました。幸い近所には栽培方法を伝授してくださる先輩方も大勢いて本当にありがたかったですね。その時、周囲に驚かれたのは私の体力。10kgのコンテナ2個くらいは平気で持てました。山登りや山スキー、ロッククライミングで鍛えた体が農業で役立ちました。

木を見守り、実をつくる
生長を導くことの大切さ

 トマトは2・3月に種を蒔き、育った苗を畑に定植して生長を導くことで、6月末頃から11月上旬まで収穫できるようにします。摘心(※1)、わき芽かき(※2)といった剪定作業により、実を大きく育て、収穫量も増やせます。そのため、トマトづくりはよく「木をつくりながら実をつくる」といわれるんです。花房は下から1段、2段と数えますが、12段まで収穫できるようにしています。夏よりも秋のトマトの方が、単価が上がり利益が増すため、いかに育ちを導いて、秋まで収穫できるようにするのかが大切なのです。
 いま、田舎暮らしやスローライフなどが注目されていることや、農業人口の高齢化などで、高齢者がのどかな自然の中でのんびり野菜を育てているイメージがありますよね。でも、商売ともなると天候に左右されますし、生き物なので、のんびりなんてしていられません。悪条件が重なって1段目で花が落ちると実が着かない木となり大きな損失が生じるときもあります。逆に秋に多く収穫できれば利益が増大するというギャンブル性もあるのです。
 トマトづくりは子育てに似ていて、手を掛ければいい子に育つわけではありません。思うようにいかないですし、コントロールが難しいだけに成果や利益が上がったときの喜びは大きいです。
 ※1一定の大きさに生育した植物の枝や芽などを剪定すること
 ※2葉茎の根元から出る芽を摘み取ること

お腹いっぱいになりたくて
トマトの次はイチゴに着手

 現在、従業員6人で30棟2万本のトマトの木を育てています。専門が数学科だったことがようやく役に立ち、プロとしては1人につき2000本を管理するのが最も良い作業効率であることを弾き出しました。「1つの作業に何秒かけるか」など、何でも数字で考えるのが得意ですね。
 いま栽培しているのは7、8種類。トマトは甘さを求められるのですが、甘く育てるのはなかなか難しいですよ。でも、挑戦します。またここは田舎なので高齢化が進むばかり。何とか地域を元気にしたいと思い、毎年夏にトマト狩りを開催しています。若年層の人口増加までは望めませんが、人を呼び込んで活性化させられないかな、と思案しています。6種のトマトがすべて食べ放題で、自然体験ができる点も好評ですよ。
 また、冬季の雇用対策と、私の「イチゴをお腹いっぱい食べてみたい」という夢から、3年前にイチゴ栽培も着手。これもゆくゆくは観光農園にしたいです。恐らく2020年の春にはイチゴ狩りができますよ。結局、年中農業をして暮らすことになり、山スキーはしばらくお預けですが、10歳の娘と年に1・2回は山登りやクライミングに出かけることがとっても楽しみですね。