岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

編集室を
原宿から美濃へ
移して4年
のびのびと日々を
楽しんで


株式会社エムエム・ブックス マーマーマガジン編集長
服部みれい(はっとりみれい)さん(美濃市)

【2019年5月21日更新】

持続可能なライフスタイルやエシカルファッション(※1)などを紹介する『murmur magazine』(マーマーマガジン)編集長を務める服部みれいさん。この雑誌を発行するエムエム・ブックスとともに、2015年、東京・原宿から美濃市に拠点を移しました。エムエム・ブックスで働くスタッフは18~80歳と年齢層が幅広く、約90%が地元での雇用。地域住民との関わりを深めながら、雑誌や書籍、農作業、ポエトリーリーディング(詩の朗読会)などを通して、豊かな暮らしへのヒントを与えてくれます。

※1環境ほか、生産者など労働者に配慮して製造されたファッション

震災を機に都市機能の脆さを痛感
暮らし方を見つめ直す転機に

 育児雑誌の編集を経て、アパレル商品を扱う株式会社フレームワークスから『murmur magazine』を2008年に創刊。エシカルファッションや冷えとりスタイルなど環境や人に寄り添ったファッションを提案し、年4回のペースで発行を重ねていきました。
 転機となったのは、2011年3月に発生した東日本大震災。しばらくは東京でも余震が続き、不安を抱えた日々を過ごしました。電力不足を受けて原宿の商店街も暗くなるなど、街の様子は一変。スーパーやコンビニからは物がなくなり、地方からの供給に依存せざるを得ない都市機能の脆さを痛感したのです。福島の人々は避難生活を強いられているにも関わらず、自分は東京で快適に暮らしているという現実にも、心が痛み疑問を持ちました。『murmur magazine』を通して、環境や人にやさしい生活を提唱している自分に矛盾を感じ、心がもやもやしてきたのです。
 やがて、私と会社はそれぞれお互いがより本質的になっていきました。私はよりオーガニックやホリスティック(※2)な方向へ、会社はアパレルに戻る方向へ。同年12月に株式会社エムエム・ブックスを立ち上げ、再スタートを切りました。元の会社から円満独立を果たし、いち編集長だった私が企業を立ち上げ、代表者として『murmur magazine』を引き継ぐこととなったのです。
※2「全体・つながり・バランス」などを意味

環境のために移住を決意
家族も編集室もまるっと美濃へ

 そんな中で出会ったのが、自然農法や自給自足の考え方でした。特に、自給自足の生活を実践する岐阜県ご出身の中島正さんの著書『都市を滅ぼせ』の存在は大きいです。「都市の存在自体が都市の人々を滅ぼしていく」という考え方に、完全にノックアウトされてしまって。「持続可能な環境を守るために、まずできることは土の近いところに住むこと、一局集中をやめることだ」と東京を離れる決意をしたのです。
 移住先に美濃を選んだのは、先祖代々受け継がれた土地があり、父が住んでいたから。別の場所ももちろん考えたのですが、夫が「美濃に帰りましょう」と言ってくれたことが決定打となりました。2015年3月、美濃市へ移住。夫の両親も、エムエム・ブックス編集室も、こちらに移ってきました。
 父の仕事の都合で各地を転々としていた私にとって、美濃はふるさと。夏休みには長良川で泳いだり、祖母の畑で野菜をもいで食べたり、いとこたちと山で遊んだりした場所。そんな幼少期の美しい思い出が、私を支えてくれているのだと改めて思います。

美濃暮らしが反映された本づくり
幅広い年代の地域住民を雇用

 現在、会社で働く人は、12人。ほとんどが地域雇用です。東京との違いは子育て中の女性を積極的に雇用できるようになったこと。ワークシェアリングを導入して、多くのお母さん方が短時間勤務をしています。いろいろな世代の人と働けるようになったことも魅力。80歳の義父も働いていますし、経理は66歳の女性が担当しています。
 移住後の生活では、時間の使い方が大きく変わりました。効率を重視しない、いい意味での無駄が増えたように思います。東京では分刻みのスケジュールをこなすのに精一杯で、常に時間に追われていました。スタッフに対して今よりもっと厳しかったと思います。今では、まちを歩けば人に話しかけられるし、時間を気にせず過ごしています。雑誌の発行頻度はゆったりペースになりましたが、一冊一冊の質は更に高まっていると思います。
 水や空気が美しく自然豊かな環境で暮らしているのですから、その好影響が本作りに反映されないはずがありません。本には、おのずと作り手の体調や心情が現れるもの。心がイライラしていれば、文章も乱雑なものになってしまいます。文章に限らず、行間や本作りへの姿勢などにも、美濃でのゆったりとした暮らしぶりが反映されているんじゃないでしょうか。

農業×観光で美濃の魅力を紹介
ファーマーズマーケット開催の夢も

 読者の方や友人、仕事仲間が全国から美濃市に遊びに来てくださいます。今後は農業と観光を兼ねたアグリツーリズムで地域を回ったり川で遊んだりしながら、美濃市の魅力をもっと紹介したいですね。
 さらなる夢は、自然農法等の生産者を全国から集めて、美濃市でファーマーズマーケットを開くこと。地域の方には、生産者と交流を深めながら、農薬や肥料を使っていない野菜の魅力に触れていただきたいです。近年の野菜は、大量生産のために改良されたF1種(※3)が主流。固定種(※4)から育てられた野菜は生産性が低いというデメリットがあるものの、化学農薬や化学肥料なしで育てることができ、味が濃く力強いのが特徴です。一口食べれば、高齢者の方はきっと違いをわかってくださるはずと思っています。「昔、食べていた野菜の味だ」って。

※3人工的に掛け合わせてつくった種。生育が旺盛で収量も高いため、大量生産が可能
※4地域の気候・風土に適応した在来種。個性的で、味が濃く香りも豊か