岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

大切な家族であるペット
災害時もともに同室で避難できるよう
ペット同伴専用避難所の設置を目指し
地域問題として取り組む


犬育応援プロジェクト ワンコミ 代表
田原佐織(たはら さおり)さん(美濃加茂市)

【2019年5月23日更新】

ペットと飼い主の問題を地域課題として取り組む「犬育応援プロジェクト ワンコミ」。可児市でドッグケアサロン「La Nature(ラ ナチュレ)」を営む田原佐織さんが立ち上げました。2016年の熊本地震を機にペット同伴避難(※)の課題にも注力。防災士の資格取得や熊本市への視察を実施するなど、災害時を見据えた犬の飼育方法について取り組んでいます。
※ペットと一緒に避難すること(ペットと避難生活を送るまでも含む。ただし、ペットと同室とは限らない)

夢を追いかけた学生時代
人との縁に導かれペット業界に

 幼い頃からマルチーズを飼っていたので、ずっと犬が好きでした。小学生になるとペットに関わる仕事がしたいと思うようになったのですが、高校卒業後は地元企業の事務職に就職。やりがいを見出せず、葛藤する日々を送っていました。そんな時、高校時代の教諭に再会して相談すると、ペットのトリミングスクールをすすめられました。当時は名古屋市に数えるほどしか専門学校がなく、トリマーという職業も浸透していない時代。それでも私は業界に魅力を感じ、すぐに進学を決意しました。
 名古屋市の専門学校に入学してからは、犬の体の構造やハサミの使い方を学び、実習では犬の爪を切る時もありました。同時期、可児市でトリミングサロンを営む方と知り合い、アルバイトをさせてもらえることに。現場で学べる機会をいただき、帰宅後にはハサミの使い方を自主練習するなど、勉学に没頭しました。卒業後は即戦力として、お世話になったトリミングサロンに就職。通常、新人は1年以上の下積みを経験する場合がほとんどですが、私はアルバイトでの経験を評価していただき、すぐに第一線で働けました。振り返れば環境に恵まれており、多くの人との縁が導いてくれたのだと感じます。

飼い主・犬・地域をつなぐ活動
震災発生で新たな課題に向き合う

 2015年には美濃加茂市で「わんちゃん美容室 La Nature」というトリミングサロンをオープン。たくさんの出会いがある中で、飼育方法の悩みを抱えるお客様が多いことに気付きました。不安や疑問をインターネットで調べる方も多く、飼い主同士の交流の場が少ないと感じました。そこで同年、飼い主のコミュニケーションの場を作りたいと「愛犬の命を守るフェス」を開催。太田宿中山道会館を会場に、飼育方法や動物愛護団体により保護された犬の周知、犬のファッションショーなど、ペットにまつわるブースが集うイベントを開きました。多くの方に協力していただき、愛犬の命について考える1日となりました。
 「犬育応援プロジェクト ワンコミ」の設立は2016年。地域のペット問題について取り組みたいと、イベントスタッフの5人と立ち上げました。当時は飼い主の相談に乗るなど、飼育問題の解決を目的としていましたが、同年4月14日に熊本地震が発生。災害時のペット同伴避難という課題が浮上しました。東日本大震災では、大規模な地震や津波、原子力災害により緊急避難を余儀なくされ、ペットの救出が叶わなかった大勢の飼い主がいました。しかし、熊本地震ではペットとともに避難できても、同伴可能な避難所が少なく、車や半壊家屋での避難生活を余儀なくされた飼い主が多くいました。現状を知り、「犬育応援プロジェクト ワンコミ」は災害時を見据えた犬や猫の飼育について取り組むようになったんです。

防災知識の習得に努め
被災地の声を知るため現地へ

 「犬育応援プロジェクト ワンコミ」の1年目では、熊本地震の発生後から地域の防災について学びました。災害ボランティアコーディネーターの西田重成さんを講師に招いた講座を開催し、その中でペットの防災に取り組む人が少ない現状と、ペットの防災の専門知識の重要性を知りました。
 2年目の9月、熊本市の竜之介動物病院を視察。震災時にペット同伴避難ができる場所として院内を解放した德田竜之介院長から話を聞きました。ペット受入可能な避難所の不足、飼い主の緊急時を想定した準備や意識の不足などを痛感。伊藤誠一美濃加茂市長と市民団体が懇談会形式で意見交換する「とびだせ市長室!」でも話し合いました。岐阜県の「清流の国ぎふ防災リーダー育成講座」も受講し、防災士の資格を取得しました。
 3年目で岐阜県の「げんさい未来塾」に入塾し、防災・減災についても学びました。災害弱者を守る取り組みや被災者の心のケアなど、まだまだ課題が多い防災。時間はどれだけあっても足りず、解決への道のりは遠いと感じました。しかし、たくさんの人と意見交換の機会を得られ、「ペット同伴避難は地域の課題」「人命が最優先ではないか」「どうしていいのか分からない」といった、あらゆる声をいただけました。


尽きない課題を真摯に受け止め
より多くの人の安心につながるように

 2017年9月、運営するトリミングサロンの店舗名を「ドッグケアサロン La Nature(ラ ナチュレ)」に変更し、可児市へ移転。トリミングだけではなく、犬のスキンケアや口腔ケアにも力を入れています。小頭数制・完全予約なので、しっかりとお客様の声に耳を傾け、一頭一頭と向き合える環境を心掛けています。
 今後は、犬にまつわる専門知識を活かして多くの人の役に立ちたいと思っています。災害時におけるペット同伴避難は飼い主だけの問題ではありません。アレルギーや動物が苦手な人、乳幼児がいる場合の衛生面などを考慮すると、通常の避難施設では限界があります。しかし、飼い主にとってペットは家族。だからこそ、すべての人の避難生活を守るためにペット同伴専用避難所が地域にひとつは必要です。飼い主、ペットを飼っていない人、行政、防災士など、あらゆる人とともに、地域問題として皆で取り組んでいきたい。熊本市への視察で得た経験を活かして、地域に貢献したいと思っています。