通所介護(デイサービス)を中心に、認知症専門デイサービスや居宅介護支援など介護福祉事業を展開する、株式会社アルト。2017年、小森薫さんが代表取締役に就任しました。もとは看護職として医療現場で活躍し、人々の救命・延命に尽力。その経験を活かして介護福祉業界に転職してからは、利用者がいきいきと日々を過ごせるサービスの提供に注力してきました。また、託児所の設置など従業員の働きやすい環境作りにも力を注いでいます。
経験を活かして介護福祉の道へ
人々の暮らしを支えるために
看護職として医療現場に携わり、結婚後も近隣の診療所に勤めていました。しかし、椎間板ヘルニアを発症し、手術を経験。腰痛を抱えての看護職は難しいため、医療現場を離れることになりました。同時期、同じく看護師の妹から新たな仕事として紹介してもらったのが、特別養護老人ホームの岐阜県立寿楽苑。寿楽苑の苑長が妹を通して声をかけてくださったんです。在宅介護支援センターでケアマネージャーに似た立場での勤務ということで1996年に転職を決意。それが介護福祉業界への第一歩でした。
業界に入ってみると、医療と介護は似ているようで似ていないものでした。救命・延命が第一の医療と、生活を支える介護。一刻を争う医療現場では、主導権が医師や看護師にあり、最善の処置を施すため迅速に動きます。しかし介護現場では、利用者の意思を尊重します。
最初こそ戸惑いはありましたが、医療現場での経験は介護現場でも活かせました。介護士は腰痛になる方が多いのですが、それは力任せの介護をしているからだと思います。抱いていた子どもが寝ると重くなる原理と同じで、本人の意思があるかないかで重さは異なります。自らの力だけで抱き起こすのではなく、お互いが最大限の力を出せるよう、声を掛け合って起き上がるよう提案しました。利用者の方の役に立てることで、やりがいを実感しました。
県内の施設を回って仕事に没頭
周囲の後押しで代表取締役に就任
ずっと岐阜県立寿楽苑に勤めるのだと思っていましたが、2003年頃に体調を崩して休職。仕事の継続が難しくなってしまいました。そんな時、気にかけてくださったのが通院するクリニックの院長でした。当時は介護保険制度が始まった頃。よく一緒に勉強会をしていて、相談に乗ったり、乗ってもらったりと親しくしていました。すると「うちの施設に来ないか」と声をかけてくださり、手伝うことに。その新たな勤め先が、株式会社アルトでした。
体調が改善し同年、株式会社アルトが運営している岐阜市七郷のセンターに所長として就任。その後、岐阜市加納や岐阜市正木など、岐阜と愛知の5カ所に開設しているデイサービスセンターを1年半~3年ごとに転勤しました。2010年には全体を統括する部長として、岐阜市長良の新センター立ち上げに携わりました。施設の設計にも関わり、従業員が快適に働けるようバックヤードを広く確保。利用者の方だけではなく、従業員にとっても快適な空間にこだわりました。
院長から事業継承についてのお考えを聞いたのは2016年。私は現場の環境整備に努めてきたので、経営は詳しくありません。企業の合併・買収を意味するM&Aで会社譲渡が行われてオーナーが変わり、1年後に代表取締役をやらないかと打診がありました。はじめは驚いてお断りしましたが周囲の後押しがあり、こんな私でいいなら精一杯やってみようと思いました。3年はガムシャラに頑張り、それでも結果が出ないなら能力がないということ。しかし、途中で放り出すような真似はしたくない。1年半前、強い決意を持って代表取締役に就任しました。
利用者の意思を尊重したサービス
「アルトブランド」に誇りを持って
弊社の経営理念は「介護事業を通じて、利用者様、家族様、全職員の幸せを追求する」。介護福祉は人の役に立てる素晴らしい仕事ですが、楽しいだけではありません。体力や精神力を必要とする場面も多々あります。だからこそ自分たちの仕事に誇りを持ち、「アルトブランド」という意識を職場で共有したいと思っています。
「アルトブランド」の特徴は、あらゆる場面で利用者の方がサービスを選べる多様な選択肢。通常、デイサービスは朝から夕方の時間帯で利用されますが、弊社は午前・午後の決まった時間枠なら自由に利用時間を選べます。食事にもこだわり、週3日は揚げ物か煮物、肉か魚といったようにメニューを選べます。おやつはプリンやカステラなど9品は用意。持病があると食事制限される方もいるのでたくさんの種類をそろえています。ほかにも、入浴時のシャンプーやボディーソープ、タオルなど、多くの場面で利用者の方々に選択権を持っていただています。
施設の利用者になると人から与えられることが多くなり、意思を出す機会が少なくなってきます。安全面を考慮すると何かと規則にしばられがちになりますが、積極的に意思を出してほしい。実際に使いたいサービスを選ぶ時の利用者の方々はいきいきとしています。個人の気持ちを尊重したいんです。
従業員の生活と仕事を支援
地域の多世代が集う場を目指して
現在、育児休暇を取得する従業員は3人。7年前から子育てに励む従業員を支援すべく、アルト職員専用託児所を設けました。私はずっと子育てをしながら看護職を続けてきました。息子2人を育て上げ、3人の孫に恵まれたのは、仕事と家庭を両立できたから。従業員にも仕事だけではなく、家庭も大切にしてほしいです。
現在、託児所を利用するのは、ほとんどが未就学児です。子どもたちには親の働く姿を見てほしいという思いもあり、夏休みには「親参観」と称して従業員の子どもたちに施設を訪れてもらうこともあります。
今後は、わが事業所が職員・利用者・地域の3者がつながる場所となりたいとも思っています。デイサービスを核に多世代が共生できるコミュニティを作りたい。託児所の子どもたちが小学生になったら学童を開き、施設に「ただいま」と帰ってきてもいいじゃないですか。従業員がブランクなく安心して仕事を続けられるよう、環境作りに励みたいです。
仕事や子育てを振り返れば、すべてが貴重な経験となり、人生において無駄はないと確信しています。代表取締役の話をいただいた時はとんでもないと言いましたが、「3C(チャンス・チャレンジ・チェンジ)」をしてみなければ分からないとも思いました。文句ばかり言う人間にはなりたくないし、子どもたちに頑張る姿を見せたい。弊社に縁があって来てくれる従業員の子どもは、我が子のように思っています。
社会の中で人を支援できるのは、本当にありがたいこと。強い思いについてきてくれる従業員がいるのは私にとって財産です。