岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

美濃和紙の紙漉き職人として
現在も修業の日々
伝統工芸を次世代につなぐため
和紙の魅力をPR


テラダ和紙工房 手漉き和紙職人
寺田幸代(てらだ ゆきよ)さん(美濃市)

【2020年7月10日更新】

美濃市にある「テラダ和紙工房」。代表の寺田幸代さんは、手漉き美濃和紙の職人です。また、たくさんの人が和紙に触れられる機会も作りたいと工房内でワークショップを開催。参加者は目を輝かせて、和紙を使った作品制作に取り組んでいます。「伝統工芸に携わる以上、次世代にバトンをつなげるのも役目」と話す寺田さん。手漉き美濃和紙の魅力を伝える役目も担います。

30歳を目前に飛び込んだ
伝統工芸、美濃和紙の世界

 私は生まれも育ちも横浜市。高校卒業後、横浜市内で勤務していましたが、30歳を目前に「やっぱり自分のやりたい仕事をしたい」「手に職をつけたい」という思いが強くなりました。実は小学生の頃から、紙が大好き。和紙だけでなく、いろんな紙を買い求めるコレクターでした。紙が好きな理由は、眺めているだけでも飽きないから。紙を使って何かを作ることも好きです。
 紙が好きだったので、目指したのは和紙漉き職人。私は三重、徳島、岐阜など、全国にある和紙の産地に足を運びました。美濃市に足を運んだ時、「ここだな!」と感じたのをよく覚えています。美濃市に住んで和紙作りに挑戦したいと直感しました。私はその足で美濃和紙の里会館に行き、美濃和紙作りを勉強できる1週間の体験コースを予約し、横浜市に帰りました。
 再び美濃市を訪れ、美濃和紙について学びながら「紙漉き職人になりたいんです。弟子にしてくださる職人さんをご存じないですか」と美濃和紙の里会館の方に相談しました。
 伝統工芸を学ぶには、師匠のもとで技術を磨く経験が不可欠。しかし、どのように師匠となる人を探したらいいのかも分かりませんでした。そして半月後、面接をしてくださったのが現在の師匠、紙漉き職人の澤村正さん。90歳の師匠は今も澤村正工房で紙漉きを行う現役の職人です。
 師匠と出会ってから7年。私は自分の工房も構えていますが、今も師匠のもとに足を運んで修業させていただいています。

4年目に自身の工房をオープン
美濃市での暮らしもスタート

 美濃和紙の里会館の方のご協力もあり、2013年3月から美濃市での生活と澤村正工房での修業がスタートしました。最初の2年は、修業と並行して美濃和紙の里会館で紙漉き指導のアルバイトをしました。和紙に興味のある人が全国から訪れるので、指導だけでなく、たくさんの人と交流もできました。
 美濃市に住んで4年目の2017年には、自身の工房「テラダ和紙工房」をオープン。民家をリフォームした工房では、私が紙漉きを行う他、一般の方も参加できる和紙を使ったワークショップを開催しています。ワークショップの作業スペースで使う机や椅子は、美濃市の小学校で実際に使われていたもの。オープン前、廃棄するという話を聞いて譲り受けました。ワークショップの参加者の方から、懐かしい雰囲気で和紙に触れあえると好評で、私も気に入っています。
 紙漉き作業の最盛期は冬なので、比較的、手が空く夏にワークショップは実施。人気の講座は、何枚もの和紙をお面に貼り込む「お面作り」です。自分だけの色とりどりのお面を作れます。他にも、レーザーカットした和紙で蝶を作り、自由に色をつけて瓶に入れて飾る「蝶のストラップ作り」も好評。 人気の講座は1日100人の方が参加してくれることもあります。

体力勝負の紙漉きという仕事
紙の仕上がりに全てが反映される

 和紙漉きは地道な作業で、想像以上に力仕事でした。1枚で約15kgある板の両面に2枚ずつ、計4枚の紙を貼って干しますが、1日30回は貼って、運んで、干しての作業を繰り返します。
 当然ですが、作業に集中できた時ほど良い仕上がりになります。体調が悪かったり、集中できなかったりすると、快適な使い心地の紙にはなりません。体力が必要なだけでなく、精神面も成長していないと、良い和紙は作れないのです。
 また、天気や気温、原料の楮によっても仕上がりは左右されます。でも、それを言い訳にはできません。紙漉き職人である以上、一定水準以上の高いクオリティで美濃和紙を作り続けることが大切だと考えています。

伝統工芸を継承するため
環境を整えることも役目

 私たち職人も、伝統を受け継ぎ、作るだけではいけない時代だと考えています。今の時代はインターネットを使えば、海外の消費者にも物を届けられます。伝統工芸に携わる以上、次世代に手漉き美濃和紙を残すことも使命ではないでしょうか。10年、20年かかるかもしれませんが、「どうしたら美濃和紙の魅力を広く発信できるか」「世界とつながる販路を確立できるか」といった環境も整えていきたい。そして、次世代の和紙職人にバトンをつなぎたいです。
 紙は身近な生活用品ですが、手漉き美濃和紙に限らず、和紙そのものを使った経験がない人も少なくありません。ワークショップ終了後、参加者の方から「和紙って、こうやって使うんですね」という言葉をいただけると、うれしくてやりがいを感じます。参加者は小学校低学年の子どもも多く、まだ和紙について分からないかもしれませんが、数年後に「ワークショップで使ったのが手漉き和紙だったんだ」と気付いてもらえるだけでも充分だと思っています。
 まずは手漉き美濃和紙を手に取って、字を書いたり、絵を描いたり。職人として作るだけでなく、人々に触れてもらえる機会をこれからも生み出していきたいです。