岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

分析化学を通して
環境について考える
エネルギー問題にも
取り組みたい


岐阜大学工学部 教授
LIM Lee Wah(リム・リーワ)さん(岐阜市)

【2020年10月13日更新】

マレーシア出身のLIM Lee Wah教授。来日して20年、研究者として、分析化学を通して環境・エネルギー問題に取り組みながら、学部生や大学院生に学問の面白さを伝えています。まだまだ取り組みたいことがいっぱいで、これからも研究者であり続けたいと目を輝かせます。

大学で学位を取得
恩師との出会いも決め手に

 私はマレーシア出身で、国立のマレーシア国民大学物理応用化学科を卒業しました。その後、シンガポールの会社で働き、退職して2000年に来日。日本政府や岐阜大学の奨学金をいただきながら、岐阜大学大学院・工学研究科で学生として学ぶ一方、リサーチ・アシスタント(RA)としても働きました。
大学で指導してくださる竹内豊英教授は恩師。学位取得のために送ってもらったアドバイスは宝物です。日本でここまで長く勉強と生活ができたのはいろんな方の手助けがあったからこそ。
2004年から教員として働き、2006年に名古屋大学・工学研究科で学位(工学博士)を取得。教員になり16年を超え、取り組むのは分析化学です。なかでも機器を使い、食品の残留農薬や大気中のダイオキシンなど、いろいろなものを測定し、分析しています。私の専門は分離分析化学で、「わけてはかる」ことがメインです。岐阜大学で学んでいた時は水道水に含まれる環境ホルモンを測定したこともあります。

新しい手法を生むとともに
既存の方法の高性能化に挑戦

 今は海水の分析にも力を入れています。海水には陽イオン、陰イオン等が含まれていますが、研究では微量の陰イオンを測定します。しかし測定時、海水に含まれる塩分が邪魔となり、極微量な成分が検出できなくなります。そのため、海水のマトリックスを抑えながら微量なものを調べることで、その一帯の海水が汚染されていないかを計測します。
測定機器はキャピラリー液体クロマトグラフィー(LC)と呼ばれます。一般のLC装置では、多量の液体廃棄物(移動相)が出るのが欠点の一つ。その廃棄量を減らすため、機器を小型化して高性能化したキャピラリー液体クロマトグラフィー(LC)の開発にも携わりました。
分析だけでなく、新しい手法の開発、既存の方法の高性能化にも関心があります。岐阜大学の学生時代、サンプル濃縮システムやリサイクルクロマトグラフィーを開発しました。排出される溶媒をリサイクル利用するもので、論文にまとめて発表したところ、企業の目に留まり商品化した例もあります。

行政、企業から分析依頼を受け
学生とともに研究することも

 修士課程で学ぶ学生も含め、今は学部生7人や大学院生など計23人が研究室に所属しています。留学生が多く、インドネシア、ケニア、エジプトの学生がJASSOや国費外国人留学生制度などを利用して来日し、博士の学位取得のためにがんばっています。
大学院を卒業した学生は、製薬会社で研究者として働くほか、環境分析、車の部品の分析など幅広い業界に従事します。分析化学は産業や環境の根幹なので、いろんな分野で活躍できます。
私の研究室にも企業や行政から「研究の力を貸してほしい」と依頼が入ります。お手伝いをしていたひとつが、2002~2020年まで「岐阜県保健環境研究所」が進めた「酸性雨測定プロジェクト」。伊自良湖の湖水はpH(ペーハー)が低く、酸性が進んでいるとされ、研究所から依頼を受け最低でも毎月1回、夏など降雨量が多ければ週1回、学生が現地に足を運び、酸性雨について調査するアルバイトをしています。私の研究室に所属する学生は陰イオンと陽イオンの分離分析が得意なので、知識を生かせると学生にも人気です。学生時代から社会とつながり、身近な環境について考えることは、かけがえのない経験になるはずです。

学生は魅力的な子ばかり
素直な性格がやりがいになる

 金曜日は「英語DAY」と題して、研究室内や授業で英語を使用しています。英語に対する苦手意識を克服してもらう狙いでしたが、今では半数が留学生なので、常に英語が飛び交っている状態。多国籍でにぎやかです。大学院生、学部生はみんな素直で優秀な子ばかり。しかし、全国の大学が抱える問題のひとつに、大学院(特に博士課程)への進学者不足があります。大学を卒業した学生の多くが就職を選択します。少しでも大学院に進み、もっと学びたいと思ってもらいたいですね。
研究者個人としては、異分野に挑戦したいです。世界中の海水のサンプルを持ってきてもらい、分析をしていますが「どの地域のどの海水に問題点があるのか」というデータにまで、まとめ切れていないのが現状。日本は海水を含め、水が汚染されていない綺麗な地域とされています。なので、世界の各地域、各国にまで範囲を広げて分析してこそ、問題点がつかめると考えています。
 キャピラリーLCは環境に優しい分析装置ですが、濃度感度が低いことが欠点です。今は分析に使用する固定相(分離カラム)の多孔性材料を開発していますが、エネルギー問題にも関心を寄せています。海藻類に含まれる微生物がバイオ燃料につながると注目されていますが、そのためには微生物が脂肪酸を多く含んでいる必要があります。エネルギー問題解決の力になれるよう、脂肪酸の分析をして、多くのバイオ燃料が取れる「スーパー微生物」を見つけたいですね。
私自身、まだまだ研究者として学びたい。現場で学生に接し、私自身も研究を深められる今の環境に感謝しています。