岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

ケアは暮らしそのもの
人でないとできない仕事であり
つながりあい、人と人とが育ち合う仕事
相手をどう理解して寄り添えるか
それが、私にとって永遠の課題


認知症対応型共同生活介護事業所 グループホームてんじゅ/所長
平野真弓(ひらの まゆみ)さん(大垣市)

【2020年10月13日更新】

認知症対応型共同生活介護事業所グループホーム「てんじゅ」の所長として労務管理、総務、人事、経営などをこなす平野真弓さん。看護師、主任介護支援専門員、キャリアコンサルタントの資格を活かし、現在も介護の現場で活躍しています。2018年には「ケアびと育成Lab.」を設立。地域全体でケアの人材(ケアびと)について考える地盤作りを目指しています。

1万件以上の相談に対応した
経験が今の自分の糧に

 幼少時代から自我意識が強く、高校時代は商業科で学んでいましたが、友人の姉や、叔母が自立して看護師として働く姿を見て、看護師を目指そうと決意しました。親が勧める企業への就職は断り、看護学校へ通いながら病院に勤めて、国家資格を取得。後に結婚し、専業主婦を8年ほど続けていましたが、看護師として復帰することにしました。
 1995年、大手医療法人に勤め始めたのが、介護業界に入るきっかけです。社会福祉法人の新規立ち上げ事業、居宅介護相談業務など、エリアマネージャーとして、述べ1万件以上の相談を受けてきました。利用者一人ひとりの暮らしに深く入り込む形で介護相談にあたった経験はとても貴重で、今日の自分の糧になっていると思います。
 2006年、認知症の高齢者に特化した共同生活住居「てんじゅ」を立ち上げました。所長といっても、今でも現場にいて、ケアプランの作成や入居相談、看取り、緊急対応などを行なっているんですよ。

働きやすく、働きがいのある
職場作りで離職率を下げる

 この業界の離職率は事業所によっては80%以上と、高いところも多くあります。「てんじゅ」でも立ちあげ当初は84%と高く、新人を育成する指導者や時間を確保できず、離職者が続出。まずは離職率を低く抑えようと、働きやすいのはもちろん、働きがいのある職場作りへ動き出しました。
 そこで掲げたのが「一人一役」。自分の役割は何かを考え、見つけ、遂行することを目指すようにしました。また、職員全員が参加する委員会制度を活性化。以前は「こんなことを言っても話が通らないのでは」と消極的だった職員も、自分たちで意見を出し合い、決めてゆくなかで自主性が養われ、互いの理解も深まりつつあります。
 20代のシングルマザー、親の介護が始まっている60代、配偶者への介護不安が出てくる70代と、職員の抱えている家庭の事情はさまざまです。たとえば家族の急病といった不測の事態も応援しあえる、協力体制ができてきました。
 こうした取り組みが功を奏して、前年度の離職率は4%まで下がりました。これは同業種と比較しても、圧倒的に低い数字です。

「対人支援」「人材育成」を軸に
コミュニティーを立ち上げ

 14年ほど前に離婚を経験。その後子どもたちが独立したことで、改めて自分は何者で、何ができるのか見つめ直すきっかけになりました。
 個人でできる範囲は限られていると思い立ち、地域でケアに関わる人をサポートする「対人支援」と、「人材育成」を軸にしたコミュニティーを作ろうと結成したのが「ケアびと育成Lab.」です。「介護職の集まりですか?」とよく聞かれるのですが、メンバーは介護職のみにとどまりません。ケアの語源は「耕す、気にかける」をあらわすラテン語「colere」で、ケアには「自らの力で畑を耕す力を持てるように、気にかける」という意味があります。職種や業界、肩書きの壁を超えて、「ケアする人、される人が笑顔溢れる世界を創ろう」というビジョンに賛同してくれたさまざまな業界の人(ケアびと)が集まってくれています。
 「人を大切に育てたい」そして「私自身も育ちたい」という仲間が集まり、語り合う時間は本当に学びが多いです。ここで得たものが、普段の仕事にもつながっていると感じています。また、メンバーと他愛無い話をするのも、ストレス発散になっています。
 でも今年は、もっと自分の時間を作ろうかなと考えているんです。本を読んだり、カフェに行ったり、ただぼーっとしたり。一人の時間を楽しむ余裕を作れば、新たなアイデアを考え、さらに行動することができるのではと思うので。ただがむしゃらに働くのではなく、「自分らしく豊かに、シンプルに生きていく」ことをモットーにしています。

人材育成とともに、介護の意識を
高めるための「ケアリアル」

 ベテラン介護士の優れた技術を仮想現実(VR)で学ぶ教材「ケアリアル」は、ケアびと育成Lab.の会員である映像制作会社とタッグを組んで開発しました。今年は、介護士などケアする人の人材育成により軸を置いて、本格的に活動していきたいですね。人材を育て、ケアされる人もケアする人も笑顔でいられるようにしていきたいんです。
 加えて、「ケアリアル」を介護を経験する前段階から、心の準備をしてもらう啓蒙活動にも活かしたい。専門職の立場として、ケアは地域ぐるみで取り組みたい課題です。現場で行われていることが情報としてオープンになっていないと、どういう風に介護してよいのか、なかなか想像がつきませんから。同業他社の方にも利用してもらい、介護業界の壁を越えて人が育つための知識や経験を共有し、意識を高めていく、そんなツールになればいいですね。
 てんじゅの所長としては、スタッフ一人ひとりが自らの力で、自分らしく豊かになっていけるチーム作りに力を注いでいきたいです。大変なことも多いですが、反面楽しいことも、まるごと感じられる仕事ですから、やりがいを感じつつ、成長できる職場にしていきたい。
 ケアは、生活のすべて、暮らしそのものに密着していて、人でないとできない仕事であり、つながりあい、人と人とが育ちあう仕事です。ケアの本質を探り、相手をどう理解し寄り添えるか、私にとっての永遠の課題です。