岐阜大学で小・中・高校の理科教員を目指す学生に指導する須山知香准教授。山登りが大好きで、外で植物調査をしている時間が楽しいと笑顔を見せます。高校の生物部で知った「ワクワク」が今も続いていると話し、充実した毎日を教えてくれました。
小さい頃から遊び場は自然
そんな経験が財産に
生まれは愛知県知多郡武豊町。父親の転勤に伴い、小中学校は北海道の学校、高校は愛知県立半田高等学校に通いました。また、アウトドアが好きな家庭で育ち、幼い頃からキャンプや山菜採り、ハイキングに出掛けていました。
なかでも高校で入部した生物部は思い出深いですね。「大好きな外遊びが公然とできるなんて!」と、トンボやチョウを採る昆虫班に入りました。部員にはプランクトンの調査が好きな同級生がいて、毎朝、登校時にその子とため池に寄り、プランクトンネットで採集。私は高校2・3年生になると食虫植物に興味を持ち、知多半島のあぜ道で調査をしていました。昆虫や植物が好きな部員に囲まれ、にぎやかに楽しく話をする。その雰囲気が大好きで、今の仕事にもつながっています。
富山大学理学部生物学科を卒業後、採用試験に受かり豊橋市自然史博物館の学芸員として就職。植物担当として様々な企画を考えていました。博物館の学芸員は楽しく、地元の方々にも可愛がってもらうなかで、学芸員として専門知識をさらに積む希望がふくらんでいきました。「知識不足と感じながら市民の方と向き合うのも...」と思い、学び直そうと29歳で金沢大学自然科学研究科生命科学専攻博士後期課程に入学しました。
大好きな植物調査
共有する雰囲気も魅力
金沢大学で学位取得後、2012年4月から岐阜大学教育学部理科教育講座(生物)の准教授になりました。専門は「植物分類学」、教員を目指す学生に指導する「理科教育」、「博物館学」の3つです。高校での部活動や博物館の学芸員の時にも感じましたが、私は自分の好きなことをみんなで共有するのが好き。一人で黙々と研究に没頭したいというタイプではありません。
植物分類学は、1本1本がどの仲間で、どの特徴を踏まえて仲間分けされているのかを整理する学問。世界的に見ても日本は植物に関して非常に調査が進んでいる国で、植物図鑑を読めばほぼ網羅されていて、几帳面な国民性がうかがえます。なので、ほとんどの植物に名前が付けられ、分類も済まされています。それもすべて先人の分類学者の皆さんの功績です。
それでも、くまなく外に出てフィールドワークをすると、まだまだ分類が正確でない植物が見つかることもあります。実際は、大学内での仕事も多いので外に出る機会は限られますが、本来は許す限り野山を歩いて、植物の特徴や種類をじっくり調べたいと思っています。植物調査に出向く時は、根っこごと掘れる根堀(ねほり)と呼ばれる道具、剪定バサミ、採集した場所が記録できるGPSを持参して出掛けます。
植物について意見を交わしていると、人によって考え方が違う場合があります。でも、それから自分の思いを整理して、植物について考えられることが喜びです。
新種の植物発見は
「ワクワク」する時間
私はこれまで植物の新種をいくつか見つけて発表していて、そのひとつが新たに名付けた「ミカワマツムシソウ」です。
金沢大学で博士号を取った際の研究のひとつであり、つくりを細部まで観察した結果、新種として報告することになりました。
もちろん発見して、すぐに新種として世に発表できるわけではありません。その結果、海外から来た帰化植物でもなく、東海地方に固有のものだと分かった時はうれしかったですね。
見つけた後は、周辺の山にも自生していないかなど、数年かけて調査。畑仕事をしている地元の方にも聞いてみると、すごく丁寧に教えてくれて、そのやりとりも楽しいです。生物部で知多半島の野山を回っていた時も優しい言葉を掛けてくれる方が多く、その頃を思い出します。
有志の皆さんの手により
16年かけた植物誌が完成
岐阜大学は2019年に創立70周年を記念して、大学博物館的な位置づけとなる「岐阜大学学術アーカイブズ」をスタートさせました。各学部の古文書、歴史資料、植物標本といった学術資源(資料)を守り、伝え、活用するために設立されたもので、私はその企画運営を行っています。
これから毎年、岐阜大学アーカイブ・コアでの企画展示や地域の博物館と連携した巡回企画展を計画していますので、ぜひ多くの人に足を運んでいただければと思っています。
2019年8月に岐阜県植物誌調査会から刊行された「岐阜県植物誌」の刊行も、自身にとって大きな取り組みでした。これは岐阜に自生する2,395種類の維管束植物を網羅しています。完成には18年かかり、私も所属する調査会の研究成果が形になったことは感無量の気持ちです。
私は山登り、渓流釣りも大好きで、もっともっと外に出て研究し、知識と経験を教育の場に還元していきたいと思います。これまで自分の好きなこと、楽しいことを仕事としてずっと続けられたのは幸せであり、まるで楽しかった生物部の部活動が今も続いている、そんな気持ちです。