岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

訪問看護の法人を立ち上げ
在宅ケアを受ける人と寄り添う
さまざまな職種が集まる
事例検討会で地域の橋渡しになる


一般社団法人あおぞら 訪問看護ステーション虹 代表理事
中川奈緒美(なかがわ なおみ)さん(下呂市)

【2021年6月 1日更新】

中川奈緒美さんが代表理事を務める「訪問看護ステーション虹」。在宅ケアを受ける人に寄り添うと共に、主治医、家族との橋渡し役も担います。中川さんは代表理事の傍ら、保健師として訪問看護を続けながら地域医療が抱える問題を解決しようと事例検討会などの取り組みを実施。下呂市で医療に携わる多くの人の輪の中心に立ち、幅広い活動をしています。

看護師、保健師として活躍
海外ボランティア活動の経験も

 岡山県倉敷市出身の中川さん。小さい頃によく目にしたのは、岡山済生会総合病院の「済生丸」という船に医療関係者が乗り、各島を往診している様子でした。離島が多い岡山県ならではの光景を見て、医療の仕事に憧れ、岡山県立大学短期大学部 看護科(当時)を卒業しました。
 看護師として大学病院で3年働きましたが、やはり保健師になりたいという思いがあり、保健師学校の門を叩き、年下の同級生と机を並べました。そして、再び保健師として医療現場に戻りました。その後、28歳で青年海外協力隊員として西アフリカのセネガル共和国で2年3か月保健師として地域を巡回しました。そこで知り合った夫が下呂の出身だったことから、今の住まいがある下呂市へ移り住みました。
 私は父が転勤族。小学校では1・2・3学期ごとに転校した年もあったほど。でも、まったく苦ではなく「新しい所に行けば、また違う自分が見える」とプラスに考えていて、父の転勤は嫌ではなかったです。振り返ると、どんどん新天地に進む性格は、小さい頃の経験から生まれたのかもしれません。
 長男を出産後、免許の書き換えの為保健所に行ったところ当時の室長から「保健師の免許を持っているなら、益田郡萩原町(当時)の保健師に欠員が出るから働かないか」と声を掛けてもらいました。

訪問看護ステーションの
立ち上げに関わる

 それからは萩原町の保健師として乳児健診や住民健診の業務に関わりました。当時は住民の自宅を訪問して、暮らしぶりも見ていた時代でした。地域全体を見るということは、患者さん一人と向き合う看護師と違った面白さがあります。
 その後、萩原町の保健師を退職。39歳で訪問看護ステーションの管理者となりました。このステーションは、下呂町(当時)からの依頼を受けて出来たもので、背景には訪問看護師に在宅ケアをして欲しいというニーズの高まりがあったのです。次第に需要は高まり、下呂市全域が在宅ケアの対象になりました。
 私たち訪問看護師は利用者さんのご自宅に伺い、その方の病気や障がいに応じた看護を行います。たとえば自宅で最後を迎えたいという希望があれば、私たちが患者さんと、医師や家族の間に入り橋渡しとなり支援します。
 16年ほど勤め、下呂の地域にさらに根差した活動はできないかと平成27年3月に立ち上げた法人が「一般社団法人あおぞら」です。訪問看護だけでなく、支援する側である介護者のために何かできないか、同じ地域で医療業界に携わるみんなで足並みをそろえたい。そんな活動をするために思いを同じにする仲間と平成27年5月から法人の事業として「訪問看護ステーション虹」が始まりました。

患者さんの身近にいて
寄り添える存在に

 利用者さんが快適に在宅で過ごせるようにするために、多職種とのチームづくりや体制づくりを行うことは、訪問看護師の役目であり醍醐味だと思います。
 「訪問看護ステーション虹」を立ち上げて5年が経過し、今は9人の訪問看護師と2人の事務員が働いています。
 通院が難しくなった在宅の患者さんの場合、訪問介護員(ホームヘルパー)さんが関わる
こともありますがやはり疾患が加わると、私たち訪問看護師が一緒に支えることになります。24時間体制で夜間の急変への対応や、突然退院されることになり訪問看護ステーション虹で引き継ぐこともあります。365日24時間体制は大変ではありますが、みなさまから多くを学ばせてもらっています。
 例えば、訪問看護では、100歳を超えても快活なおばあちゃんをはじめ、いろんな人との出会いがあって、自分では経験できない人生に寄り添えます。当たり前ですが、みんなにいろんなドラマがあります。そして、その方が亡くなる最期の瞬間までお付き合いをさせてもらえる。最期にご自身のこれまでに満足されて「ありがとう」と言ってもらえることもあります。自分もその方の人生に少しだけ参加させてもらえているようで感謝の気持ちでいっぱいになります。
 その経験を重ねることで、私自身も少しずつですが、人間としても前進できている気がします。

家、そして地域ぐるみで
顔の見える関係を築きたい

 一般社団法人あおぞらでは訪問看護ステーション虹の訪問看護以外に、年2回の事例検討会を開催しています。さまざまな職種の方が集まり、話し合いをする場です。ケアマネージャー、看護師、障がい児のサポートをしている施設職員、行政の方が参加してくれます。地域医療が抱える問題を解決できないかと話し合うのですが、仮にその場で答えがでなくとも、たとえば看護師なら「ケアマネージャーは普段、こんな考えで働いているんだ」など、異業種で働く人の考えを知ることができます。同じ地域にいるのに電話で話をするけど会ったことがない人同士も多いので、事例検討会で顔を合わせることで、以降の連携がスムーズに進みます。それだけでも事例検討会を開く意味があると感じています。利用者さんを取り巻く私たちを始めとした看護師、施設職員の方々は地域の社会資源。協力し合いながら、動き、改善することが今後の課題だと感じています。
 また、一般社団法人あおぞらとして介護者や訪問介護員に技術を伝達講習する「口腔ケア」の研修会も行っています。誤嚥性肺炎の予防はもちろんですが、美味しく食べることはとても楽しいものです。そのためにも「口腔ケア」の正しい知識が大切です。
 一般社団法人あおぞらは多くの方の理解と支援でここまで来ることが出来ました。利用さんを含めて全ての方々に感謝しています。
訪問看護師として働き続けるには、妊娠や出産、育児、家族の介護などさまざまな壁を乗り越えなくてはいけません。訪問看護ステーション虹ではICT化や業務改善など働き方改革にも力を注いでいます。可能ならばリタイアしても働ける場所を作りたいなとも考えています。
 座右の銘は「迷ったらやる」。この言葉を大切にして、下呂地域の方々のために、そして職員のためにこれからも行動していきたいです。