岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

「こうなりたいな」という
女性の先輩デザイナーたちの
存在はとても大きくて
私の支えになっています


株式会社深山 商品戦略室 デザイナー
松田絵里加(まつだ えりか)さん(瑞浪市)

【2021年8月16日更新】

透明度の高い白磁で知られる株式会社深山に入社して9年目を迎えた松田絵里加さん。デザイナーとして、数多くの製品開発に携わってきました。2017年には「第11回国際陶磁器展美濃」において、滲んだインクのような濃紺のグラデーションが美しい作品『プルーインクブルー』で入選を果たしています。

普通の生活をしている方が手に取れるものを作りたい

 私は長崎の出身で、4人姉妹の末っ子です。両親、とくに母は外に向けておしゃれをするよりも、たとえば繊細で美しい食器を揃えたり、綺麗なテーブルクロスを使ったりと、家の中に気を遣うことが好きでした。その影響もあったのかもしれません。いつしか私の中で、生活用品をデザインしたいという思いが芽生えました。
 広島の美術系の大学を卒業後、意匠研(多治見市陶磁器意匠研究所)に入りました。大量生産のメーカーをはじめ、伝統的な窯元さんや個人作家さんなど、それぞれの立場で作陶されている、そんな産地で勉強をしていくのが、私の思いへ近づく一歩になるのでは、との考えからでした。意匠研の自由な雰囲気にも惹かれました。
 作りたいのは「普通の方が日常生活で使うもの」というだけで、素材を陶磁器に限定していなかったため、意匠研に入るまで陶芸はまったくの未経験でした。2年間、陶磁器制作とデザインを学び、意匠研から弊社を紹介していただいて、入社しました。

周囲の方々の協力がなくては
私ひとりでは何もできない

 「デザインを生み出すのは大変じゃない?」と周りからよく言われますが、ものを作ることにはずっと興味を持っていましたし、いろいろと考えるのも好きなので、むしろ楽しんでいます。難しいのは、弊社が大切にしている白磁の美しさをいかに引き立てるか、です。時代に即した色や形が求められる一方で、流行に染まってばかりでは、メーカーの特色もなくなってしまいます。そのあたりのバランスの見極めが難しいところです。
 初めて商品企画を任されたのが、マグカップでした。弊社既存の製品に動物の絵柄を付け、淡い茶色の釉薬で大地を表現したもので、ただ絵柄を加えるのではなくて、釉薬との相乗効果で映えるように、と考えました。商品は『松田動物園』と命名していただきました。先輩方が作られた器に時代性を取り入れつつ、変えていくことも、製品開発の一環として行っています。
 デザイナーという肩書きですと、華やかなものを想像される方が多いですが、会社の製品開発のお手伝いをしているに過ぎず、職人さんや型屋さん、釉薬屋さんなど周りの協力がないと何ひとつできません。「これが作りたい」という目標に向かって、一緒に取り組みながら品質を高めていく過程も楽しく、「良いものできた」と喜びを分かち合えるのが嬉しいですね。

他メーカーと協同開発
楽しい経験で、刺激にもなった

 企画会議などでは、どうしても「価格」「映えるか」「新しいか」に焦点が当てられがちになります。女性が思う「可愛らしいもの」は、意外に地味であったりします。派手じゃないけれど、日常で使っていて「ちょっと可愛らしい」「使いやすい」を追求していくと、革新的に新しいものではなくなってしまい、企画が通りづらいことも。私も経験が浅いので、なかなか説得する力もなくて、モヤモヤしていた時期がありました。
 そんなときに声をかけていただいたのが、デザイナーの小野里奈さんと、同じ産地内の小田陶器さん、そして弊社の三者による協同開発でした。女性3人が中心となって、料理を盛り付けたら綺麗とか、洗いやすいとか、消費者目線を大切に、日々の暮らしに寄り添うような製品を目指しました。幾度となく試作を重ねて誕生したのが、「瑞々(みずみず)」という器のシリーズです。
 使い手や料理を強く意識した開発の仕方が、とても新鮮でした。開発後には、いろいろな展示会に出ることが増え、お客様の声を直接聞く機会にも恵まれ、励みになりました。楽しい経験で、この企画に携わったことが、私にとって仕事の糧ともなっています。

生活者としての気づきも大切に多くの方に愛される食器作りを

 好きなことを仕事にしたので、休日も似たような過ごし方ですね。直接仕事に反映することはないですが、美術館に行ったり、器だけでなく、ガラスや金属などいろんな素材の雑貨や日用品を買ったり使ったりして楽しんでいます。
 今32歳で、まだ独身です。振り返ってみると、20代のときのデザインは生活者としての目線がやや欠けていたように思います。これからどういう生活形態に自分がなっていくのか、わかりません。雑誌に載っているような素敵な生活は送れないですが、普通の女性が生活していく中で、「つい使ってしまう」「思わず手に取りたくなる」ものを作っていけたらいいなと思っています。生活者としてもデザイナーとしても経験を積み、皆さんに愛される製品を作っていきたいです。