岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

あれこれ悩んで
行動しないよりもまずは挑戦
仕事もプライベートも
明るく前向きでありたい


合資会社白木恒助商店 代表社員
白木滋里(しらき しげり)さん(岐阜市)

【2021年9月15日更新】

岐阜市門屋門に酒蔵を構える合資会社白木恒助商店は、天保6年創業の老舗。日本酒を長期熟成する古酒造りに昭和40年代から取り組み、古酒造りのパイオニアとして知られています。代表銘柄「達磨正宗」は、世界最大規模・最高権威と評されるワインコンペティション「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」の日本酒「古酒の部門」にてゴールドメダルを受賞するなど、海外でも高く評価されています。国を越えて愛される酒蔵の3姉妹として生まれた白木滋里さんは、夫で杜氏の白木寿さんと二人三脚で蔵を守っています。

家業が嫌いだった幼少期から
7代目を志した意識の変化

 幼い頃は家業が嫌いでした。酒造りをする蔵人さんたちがやってくる冬場は、作業中の声が聞こえてきて、家の中にいても落ち着きませんでした。サラリーマン家庭がすごく羨ましかったです。
 しかし、父や祖父がおいしそうにお酒を飲む姿を見たり、お酒好きの方から家業を羨ましいと言われたり、そういった経験の積み重ねで日本酒は大事な日本の文化なのだと、家業の魅力を理解できるようになっていきました。
 高校を卒業するまでは姉が家を継ぐものと思っていたので、大学は別分野を選択。しかし、姉が結婚をして実家を離れたのをきっかけに、意識が変わりました。両親から、家を継いでほしいと言われたわけではありません。受け継がれてきた古酒を守りたい、それを他人に任せるのはもったいないと自ら思ったんです。
 大学4年生のときに家を継ごうと決めた後は、まず酒造りについて知るために、早朝5時半からの作業を手伝うようになりました。このとき、酒造りは大変だけれど、とてもやりがいのある仕事だと感じました。
 岐阜大学教育学部を卒業後、半年間、東京にあった国税庁醸造試験所へ通い、酒蔵の後継者や社員など、自分と同じ立場の人がいる環境に刺激を受けながら、酒造りの基本を学びました。その後さらに1年半、東京農業大学の醸造科学科で研究生として勉強させてもらいました。夫とは醸造試験所で出会いました。

アイスクリーム×古酒で
新たな付加価値を生む

 現在夫は酒造り、私は経営や営業、企画を担う形で役割を分担。企画で意識しているのは付加価値です。熟成したお酒という魅力だけでは、お客さんに手に取ってもらえません。日本酒や古酒に全然興味のない人に、面白そうと思ってもらう商品開発に力を入れています。
悩む時間がもったいないですから、商品にできるかできないかを考え、できそうだったらまずは挑戦します。そうして形になったのが、岐阜県が認定している「ぎふ女のすぐれもの」に選ばれた「アイスクリームにかけるお酒」です。一番経営が苦しかった10年以上前、何とかしようと思って勉強をしていたときに見かけた「〇〇専用」という商品がアイデアのもとになりました。昔、古酒をかき氷やアイスクリームにかけて食べた記憶を思い出し、使い方をそのまま商品名にしようと考えたんです。
 アイスクリームに古酒が合うのは漠然とわかっていたものの、タンクに保存してある113種ほどの中からどの古酒にするか決めるのは苦労しました。タンクから出しては食べ、出しては食べという作業を、1カ月ほど続けました。
 試食を繰り返した結果、アイスクリームに合ったのは、意外にも一番お米の甘さが際立っている古酒。手ごろに購入できる100円アイスクリームが、高級アイスクリームに早変わりします。ライトタイプとヘビータイプでブレンドしている古酒の年数が違うため、比べてみると濃厚さの違いを楽しめます。
 反応はすごくよかったものの、ほかの酒蔵さんからは「先代が一生懸命造ったお酒を、こんな商品にするなんて!」という声も。そのときは少し落ち込みましたが、いろいろな商品を開発するうちに、賛否両論起こるものの方が売れる傾向にあるとわかってきました。売れるということは、いい意味でも悪い意味でも、それだけ目につきやすいのだと思います。ですから最近は批判されると、「売れるかも」とポジティブに考えられるようになりました。

家事のやり方は自由
大切なのは家族の笑顔

 息子2人が成長した今は、それほど家事に負担を感じていませんが、小さな頃はお惣菜を買ったり、出前をとったり、少し手を抜く部分を作って自分を追い詰めないようにしていました。大切なのは家族の幸せですから、家事にエネルギーを費やしてイライラするくらいだったら、少し手を抜いても家族みんなで笑う時間を大切にしたかったんです。
 仕事も同じで、1日8時間働く時間を楽しめなかったら人生面白くない。もちろん楽しいことばかりではないので、考えてもどうしようもない場合は、今できることをしようと気持ちを切り替えるようにしています。
 リフレッシュの方法は40歳過ぎてから再開した剣道。高校の部活動として取り組んでいたときは、勝つことだけを意識していましたが、心が鍛えられて、思い切り声を出せますし、友達もたくさんできて面白いです。2020年4月からは、念願だったラブラドール・レトリバーを飼い始めて、一緒に過ごす時間が癒しになっています。

試飲スペースの設置で
さらに古酒を親しみやすく

 酒蔵を魅力的な場所として発信するため、2021年6月を目標に有料試飲を始められるよう店舗を改装中です。新型コロナウイルス感染症の問題もありますが、ぜひ古酒を飲みに来てほしいです。アイスクリームにかけるお酒も、アイスと一緒にメニューとして提供したいと考えています。
 コロナ禍、晩酌動画を作ってYouTubeの「日本酒 古酒の酒蔵 達磨正宗」というチャンネルで公開し始めました。誰も見ていないのではと思っていたら、意外と「見てるよ」と言ってくださる方がいて、やりがいを感じています。
 いかに商品を知っていただくか、商売のやり方はだいぶ変わってきていると感じています。どんな状況になったとしても変わらず、明るく前向きでありたい。その心構えがあれば、きっと何とかなると思っています。