「家族のそばにいたい」という思いから帰郷し、
家業である山川醸造株式会社に入社した山川華奈子さん。
醤油・味噌に関する知識はもちろん、ウェブデザインやカメラ、フォークリフトなど
さまざまなことを学んでいます。
「自分が楽しめることをすこしだけ頑張って続ける」というモットーで
会社の魅力発信に貢献しています。
新たな仕事に挑戦したいと
帰郷を決意
大学の経済学部を卒業後、東京の食品会社に就職しました。実家の山川醸造株式会社を継ぐという考えがなかったわけではありませんが、具体的な想像はできていませんでした。
会社では営業事務を担当しました。北米から豆腐用の大豆を輸入したり、営業が獲得した業務を整理したり。自分が先頭に立つ仕事ではありませんが、責任感を持って取り組める仕事です。
転機は25歳の夏。自宅で右足の３分の１をやけどする大怪我をして、約３週間休職しました。任される仕事が多くなってきた３年目で、入院中に何度も業務についての確認電話がありました。私はその電話に案外しっかり受け答えができたんです。任されている仕事の８割ほどはできていると感じ、退院してからは新しい仕事に挑戦したいと思うようになりました。
勤めていた会社で新たな勉強を始める選択肢もあったのですが、その冬に祖母が入院をして、「家族のもとにすぐ飛んでいける距離にいたい」と帰郷を決意しました。
家業の魅力を知り
「頑張ろう」と思いを新たに
学生時代は年に２回のイベントで販売員としての手伝いをするくらいで、実家の仕事に触れた経験はありませんでした。醤油・味噌に関する知識はほとんどなく、一から勉強。「知らなかった」ということばかりです。
醤油の仕込みは年数回。平日学校に行っている間に実施するので、私は一度も見ていませんでした。実際に見てみると、「ここまで手作業でやっていたんだ！」という驚きがあって、実家に対してこういうのも不思議ですが、とても感動したんです。
また、直売所に来た地域の人に、「この醤油を50年近く使っているの」といってもらって、山川醸造株式会社の歴史を深く感じました。初めて買った人も、もしかしたら今後50年使い続けてくれるかもしれない。「家族と一緒にいたい」という自分本位な理由での帰郷だったので少し引け目もあったのですが、商品を買い続けてくれる顧客のために頑張りたいと思うようになりました。
ウェブデザインや撮影技術を
一から学ぶ
自分が知った魅力を多くの人に伝えるため、現在はネットショップの運営やウェブサイト・SNSでの発信を担当しています。ウェブデザインについては、中学校の情報の授業で基礎の基礎に触れた程度。参考書を読んで独学で学びました。
以前のネットショップは自動販売機のように商品が並んでいるだけだったので、「もっと直売所で話しているように商品について知ってもらいたい」とデザインを変えたり、説明書きを加えたり。少しずつ挑戦して、やっと形になってきたところです。商品や蔵を直接見てもらえないので、写真も重要。カメラについて何から学んでいいかわからず、プロの元に半年間通いました。
同時に、醤油・味噌に関する知識をもっとつけて、製造にも携わりたいとフォークリフトの講習も受けました。SNSで興味を持ってくれた人とも直接交流したいと考えています。とにかくやりたいことが多すぎて、時間が足りません。
新型コロナウイルス感染症が流行してからは、インターネットを利用したリモートイベントも増えました。匂いや桶の大きさが伝わりづらいという難点はありますが、衛生管理や安全性の問題から工場見学では見てもらえなかった部分も私が撮影して見せられるのが面白いです。「直接行きたくなった！」という感想も多くて、リモートと直接訪問では伝えられる内容が違うので、両方併用していきたいと思っています。
開発にも参加
顧客が楽しみやすい商品を
まだ製造には携わっていませんが、商品開発の案出しには参加しています。「武将醤油シリーズ」の中で、明智光秀をイメージした「はちみつたまり醤油 うらぎり‼」では、はちみつとのブレンドを提案しました。父が開発した「ふりかける醤油」の活用の幅をさらに広げたいと考えた「ふりかける醤油飛騨山椒」は、令和元年度「ぎふ女のすぐれもの」にも認定されました。直売所に訪れた人からカレー塩の話を聞いて、醤油に合うスパイスは何だろうと考えて山椒を思いついたんです。
こうしたユニーク商品は、癖のあるたまり醤油を親しみやすい形で楽しんでいただくのが狙いです。今後は基礎に立ち返って、たまり醤油そのものを見つめなおし、たくさんの人にたまり醤油の良さを知ってもらいたいと考えています。
