岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

起こること全部に意味がある。
いつもそう思っていれば
どんなに嫌なことでも
ポジティブに変換できる


moily(モイリー) 代表
池宮 聖実(いけみや きよみ)さん(垂井町)

【2022年8月15日更新】

藤の一種「ラペア」を素材に、手編みでつくられたカゴ。耐久性に優れており、カンボジアでは日常のさまざまなシーンで使われている生活用品です。池宮聖実さんは独自のブランド「moily」を立ち上げ、そのカゴを日本でも通用する品質にまで高め、オリジナルのデザインの商品をつくり、輸入販売しています。起業の経緯や取り組みなどが注目され、講演依頼も増えています。

世界のリアルに触れて
 小学校の先生になりたくて、大学は教育学部に入りました。外の世界を見てみたかったのもありますが、就活で有利になることを期待して、カンボジアに行ったのがそもそもの始まりでした。日本で得られるカンボジアの情報は、貧困でかわいそうな国です。その国の子どもたちを助けた経験を面接で話せたら有利になるだろう、という邪な気持ちもありました。
 ところが現地の人たちは、日本人とはまったく違う価値観で生きていました。確かに服も着ておらず、靴も履いていないこともあるのですが、とても幸せそうに日々を過ごしている姿を目の当たりにしたのです。リアルを見ずにメディアの情報だけで勝手な判断をし、何も知らない彼らのことを助けてあげようと上から目線で思うほど、世の中を知らない自分に気づかされました。
 こんなに世界を知らないままでは、子どもたちに真実を教えられない先生になってしまうと思い、一度世界を見て回ろうと、バックパッカーの旅に出ました。旅行をしたかったわけではなく、とにかく現地の人たちと話をしたいという思いでした。なるべく現地の人の家に泊まらせてもらったり、ボランティアで働かせてもらったりして、現地の人たちが、毎日をどう生きていて、何に幸せを感じているのかを知りたかったのです。
 東南アジアや中東、アフリカなど16ヶ国を回りました。メディアが伝える貧困はり確かに現実としてあり、それが現地で親しくなった人たちの身にも起こる様子を目の当たりにし、いつしか貧困が他人事ではなくなりました。貧困だからといって不幸ではないと思いますが、貧困が原因で不幸を生み出すことはあるのです。
 仲良くなった子から仕事の選択肢が現地でないという話を聞きました。日本社会の中では、どんな事に挑戦しても誰からも止められませんし、怒られません。こんな環境がなんてありがたいのだろうと気づき、自分は何をしたいのだろう、出会ってきた人たちの力になれるのは何だろう、私にできることを頑張ってみたい。そんな思いを巡らすうちに、現地の人のために仕事をつくって多くの人の幸せにアプローチするのが一番いいのではと考えたのです。

現地の人たちに変化
 世界を巡る旅から帰国後、約3年の準備期間を経て、再びカンボジアに入りました。そこでたまたま目に付いたのが、手編みのカゴでした。商品化して日本で販売すれば、彼らの収入となり、生活も改善されていくのではと取り組み始めました。しかし、クオリティーの高さや納期の厳守を求めたため、最初の1年で職人全員がやめてしまいました。
 これらは彼らの価値観やライフスタイルを無視して、日本のやり方で仕事を押しつけてしまったことが原因です。この反省を生かし、今は職人たちの大切にしたい時間を第一優先に考えてもらい、仕事はやりたいときにやればいい、どこでやってもいい、ただ最低限の品質だけは守ってもらうよう基準をつくりました。また、職人たちが仕事の価値を意識し、やりがいや自立に繋がればと、カゴは言い値、またはそれより高い価格で買い取っています。
 職人の多くは文字が読めず、計算もできません。自分がつくったカゴの数やその報酬を把握できないでいるのです。それでは彼らの達成感、仕事の喜びが得られないではと、最近になって作った数だけスタンプを押すことを始めました。これは現地スタッフとのミーティングから生まれたもので、彼ら自身が自発的に良くしていこうという姿勢を感じられて、とてもうれしかったです。問題だな、と自分たちが考えるのなら、私も一緒になって考えたいですし、それが私のやっていきたいことです。

何もしない日をつくる
 旅が好きで、ものづくりの現場を見によく出かけるのですが、結局仕事と重なってしまいます。興味や関心が仕事なんです。それでも人間なので、やる気が出ないときもあります。そんな時は自分を許してあげて、何もしない日をつくるようにしたら楽になりました。
 また、結婚したのも大きかったです。仕事以外の話をする時間ができ、昨年、「仕事とはまったく関係のない趣味を見つける」という目標を立てました。そして見つけたのがBTS(防弾少年団)です。今とてもハマっています。

みんながハッピーに
 私が望むのは、現地の人たちや「moily」と関わってくれる人が幸せに暮らしてほしい、ただそれだけです。職人たちがカゴをつくることで、どのように自己実現していけるか、仕事はお金のためだけでなく、仕事を通して貧困などの問題を幸せの時間に変えられたり、少しでも毎日を楽しいと思えたりと、そんな人たちが増えることを願っています。
 これまで制作者寄りの販売をしてきましたが、商品を介して人と人を繋ぐのが「moily」です。カンボジアにこだわる必要はなくて、他の国、もちろん日本も含めて、今までとは違う、ものづくりのあり方、ものの売り方や買い方なども提案しつつ、「moily」をいろいろな形で使ってもらえるとうれしいです。そうして繋がった人たちが、みんなハッピーになれるようなことをしていきたいと思っています。