岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

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そして人がおだやかに
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めざしています


にじのはしスペイクリニック 院長
高橋 葵(たかはし あおい)さん(岐阜市)

【2022年8月15日更新】

スペイクリニックとは、猫や犬の過剰な繁殖を予防する目的で、不妊去勢手術を専門に行う動物病院です。高橋葵さんが営む「にじのはしスペイクリニック」では、岐阜市の本院と4つの拠点への移動式手術室「ニコワゴン」での出張手術により、飼い主のいない猫の不妊去勢手術の普及に取り組んでいます。

公務員の獣医師の限界
 長野県内の保健所で約11年間、公務員の獣医師として働いていました。地域の野良猫に関わる苦情や相談、引き取りなどの業務が担当でした。引き取った猫は譲渡か、新たに飼い主が見つからない場合は殺処分となります。
餌やりをする人に対しての近所からの苦情や、産み付けられた住民の方が困って保健所に持ち込むことが多いのですが、公務員の立場からは、餌をやっている人たちに排泄物の処理や不妊去勢手術を受けさせるよう促すことしかできません。
私が小学生の頃は、道端で段ボールに入れられ捨てられた猫をよくみかけました。「この猫たちはどこにいくのか」と疑問に思って調べたところ、保健所に引き取られ、最終的には殺処分されると知りました。そのとき「捨てられた動物を助けたいな」と思ったのがきっかけで獣医師をめざしました。ペットを診る動物病院ではなくて、飼い主がいなくて不憫な動物のために働きたいと、公務員獣医師として保健所に勤務したのです。
 ところが実際に働いてみると、それだけでは救いきれない現実がありました。11年やってきても何も変わらず、この問題の根深さを実感しました。解決策としては、猫が増えないようにする不妊去勢手術だけです。
 ところが唯一の解決策である手術が全然普及していない。それならば、問題意識をもっている私が不妊去勢手術を広める役目を担えばいいのではないかと考えました。獣医師の資格もありますので病院も開けます。2020年3月に退職し、実家の裏のガレージを改修して手術室にしました。そして「にじのはしスペイクリニック」を開院しました。

岐阜市をベースにして
 不妊去勢手術の取り組みには地域差があります。東京や大阪周辺では問題意識が高く、TNR(野良猫を捕獲して、不妊去勢手術を施し、元の場所に戻す)活動をするボランティアや病院も多いなど普及が進んでいます。
 一方地方では病院もなくボランティアも少ない。東海3県には不妊去勢手術に特化した専門病院がなかったことから、出身の岐阜市に戻ってきて始めました。最後に勤務していたのは飯田市の保健所で、その管轄地域には病院がありません。当時、苦情や相談を受けて出向くと、病院が遠いので連れて行けないという声が多く聞かれました。
 来られないなら自分が行けばいい、という発想から出張手術をしようと思い立ちましたが場所がないとできません。そこで関東でコンテナによる出張手術をしている事例をヒントに、ワゴン車を改造して手術室として使うことにしたのです。
 近くに病院がなく、TNRに力を注いでいるボランティアの方がいる地域を対称に、現在は長野県飯田市、岐阜県高山市、滋賀県多賀町、愛知県一宮市の4カ所へ、月1回出張手術に出かけています。

猫のためだけではない
 TNRは猫の繁殖を抑えるための活動ですが、一般の人や関心のない人からすれば、猫好きが猫のために活動していると思われがちです。実は、猫で困っている人を少なくする活動でもあります。そこを発信していくことが大事だと最近よく感じます。
 猫が増えるといろんな問題が発生します。糞尿被害やごみ荒らし、発情期のときの鳴き声などいろんな社会問題が起こっていますが、それはみんなが困る問題です。地域の問題として関わる人が増えないと、いつまでも猫が好きな人がやればいいで、終わってしまいます。猫のための活動ではなくて、あくまでも地域の環境整備活動という意識を浸透させないといけないと強く思っています。

移動式手術室の普及を
 常に仕事のことを考えてしまうので、意識的にオフをつくるよう心がけています。手段としては好きな旅行やドライブで。あとはたまにゴルフをします。ただ外に出るとつい猫に目がいってしまいます。不妊去勢手術をした猫は外観でも手術の有無がわかるように、耳先(この地域では雄が右耳、雌が左耳)をカットするのですが、カットしてあるかなと気にしてしまいます。職業病です。
 開院以来とにかく不妊去勢手術が手頃な価格で受けられ、しかも身近なものになるよう活動してきました。私やパートで手伝ってもらっている3人の獣医師だけの力では難しいので、全国にいる同じ思いをもつ獣医師と連携していきたいと思っています。少しずつですが、そんな横のつながりも生まれつつあります。
 その一環として、病院がない地域にも出向いて手術を提供できる、移動式手術室「ニコワゴン」を全国に普及させていくことは1つの目標です。