岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

大切にしている言葉が
「奇跡を起こす」です。
人から見れば小さな奇跡でも
自分では奇跡と思えるものを
たくさん起こしたい!


造形作家
河野 恵美(こうの えみ)さん(瑞穂市)

【2022年8月15日更新】

毛糸を編み込んだもの。粘土で成形した用具類。古道具屋で見つけた品々。暮らしのなかで目にする身近な小物たち。河野恵美さんは木材をベースに、それらを組み合わせて、中世のヨーロッパか、おとぎの国で遭遇するようなメルヘンチックな造形物を制作している作家です。令和3年6月には初の個展を開催。インスタグラムでも作品を発表しています。

子育ての合間の楽しみ
 子どもの頃からものづくりが好きで、何かをつくってさえいれば幸せでした。お小遣いを貯めて、フェルトや刺繍糸、基本色とは異なるパステルや絵の具など、ワクワクして選んでいたのを覚えています。小学2年生のときには、編み物もよくしていました。
 大学でデザインの勉強をして、印刷会社に就職。社内のクリエイティブ事業部で、デザインの仕事をしていました。クライアントからの依頼によってデザインするため、自分では完璧に仕上げたつもりでも、クライアントから修正が入ります。私がしたかったこととは違うな、との思いが年々強くなって、6年勤めた会社を出産を機に退職しました。
 長女のあと、双子の息子たちが生まれ、3人の子育ては想像以上に大変でした。買い物に出るのもままならず、外に働きに行くことなど、とても考えられません。その時期、唯一の息抜きになったのが、子育ての隙間時間に自分の楽しみとして始めた、アクセサリーなどの小物づくりでした。
 以前勤めていた会社の先輩が、名古屋のクリエーターズマーケットに私のつくった小物類を出品してくださり、それが売れたことが作家の道を歩むきっかけとなりました。とは言っても、子育ての合間に自分のペースでのんびりとつくっていましたので、クラフト関係のイベントに出品するくらいでした。
 実は、子どもの頃に見た夢の続きを表現したいという思いを、ずっと胸の中に持ち続けていました。森の中を歩いている夢で、目の前の木に小さな扉を見つけ、手を伸ばして開けようとしたところで、目が覚めてしまったのです。扉を抜けた先にはどんな世界が広がっていたのか、それを表現することが私のめざす作品だったのです。
 夢の世界を作品に表現するのはとても難しく、試行錯誤を重ねていくうち、何とかできそうと思い、現在の作風ができましたのは7年ほど前でした。以後「森の扉の向こう側」というテーマを掲げて、創作活動を本格化させました。

自分の思いを表現する
 会社員時代とは違って、自分の表現したいことをすべて自分で決められることが楽しいです。次に何を作るか。それをどういう形で発表するか。さらには、作るか作らないか、さえも自分で決められる。決まったレールがない分、小さな挑戦の積み重ねみたいで面白いです。
 なるべくルールを決めないようにしています。作りたいときにつくるのを基本にしていますが、楽しいので毎日何かしら作業をしています。楽しいからこそ、作品づくりで煮詰まってしまうようなこともありません。
 半日くらいで完成する作品もあれば、大きなものは半月くらいかかります。最初にイメージがあって、やりながら固めていく感じですが、途中で違うなと感じることも。そんなときは新たな発想が生まれたわけなので、後悔しないよう思い切って方向転換します。

乳がんの告知を機に
 元々コミュニケーションが苦手で、人前にもあまり出たくありません。でも、やっぱり作品は多くの方に見てほしくて、作品展は数度経験しました。個展は、開く場所を探したり、打ち合わせをしたり、来場者を迎えたりすることは、私には高いハードルでしかなかったのですが、乳がんの告知を機に開催することにしました。そして令和3年6月、家族の協力や周囲の支えもあって、術後にも関わらず、個展を無事開催できました。
 子どもたちが大きくなるまでは、キャンプに行ったり海に行ったりと、休日は家族との時間に使っていました。私にとっては家族が一番で、まずは家のことを済ませた後に自分の時間でした。でも病気になって「手放せることは手放そう」「あまり頑張らないようにしよう」と思うようになりました。ですから相変わらず、人前に出るのは苦手のままですね。

今の私ができる表現を
 インスタグラムを始めて、作品の途中経過もアップしています。仕上がっていく経過を、みなさんが一緒に楽しんでくださり、コメントも寄せてくださいます。それがうれしいですし、励みにもなっています。
 夢の続きである「森の扉の向こう側」の私のイメージは、ほの暗く、どこか妖しいような世界観なのですが、どうしても表現できず、明るく優しげな作品になってしまいます。そこはあきらめることにしました。生き物も苦手で、作品に登場するのは、息子が4歳のときに描いたカタツムリだけです。
 いつか作れるときが来たらつくろう、そう思った途端、作品づくりがとても楽になりました。今、私が表現できるものを素直に作っていくことを大事にして、何年後かに、もしくは作れる日が来ないかもしれませんが、それはそれでいいな、と考えています。
 私の中で昨年の個展開催は挑戦であり、小さな奇跡でした。作品に癒やされたという声もよく聞きます。「個展を開く奇跡」「作品を介して誰かの心に触れる奇跡」をこれからも重ねていき、自分らしさをもっと表現できるようになりたいですね。できれば、他県でも個展ができるくらいの強さも身に付けたいと思っています。