株式会社ハートコンサルタントでは、高齢者向け施設のほか、認可外保育園、障がい者グループホーム、診療所などを運営。訪問看護やデイサービスの提供などにも力を入れています。「困っている人を助けたい」という思いから業容を拡大してきた同社の代表正村直美さんは、現在も次なる事業プランを描くなど、精力的に活動しています。
今日に至る大切な思い
私が将来の進路を考え始めた時、祖母が「あなたはいつも私に優しくしてくれたから、これからはほかの高齢者の方々の力になってあげて」と介護業界への道を示してくれました。祖父母とずっと一緒に暮らしてきた私はふたりのことが大好きだったため、思いを汲み取り、高齢者向け施設で働くことを決めました。
初めての勤務先は、愛知県長久手市の現市長・吉田一平さんが理事長を務めていた高齢者向け施設です。利用者さまが「生きていてよかった」と思えるような自由と快適性に満ちたサービスの提供を追求する吉田さんの思いに共感して働き始めました。実はこの思いは、今日までずっと私の支えになっています。
仲間にも恵まれ楽しく働き続けること5年。23歳で結婚した私は勤務先を退職して障がい者ヘルパーのパートに就き、その後は夫の仕事の転勤で東北地方に引っ越しました。そこで認知症対応グループホームの存在を知り、数年後に岐阜へ戻り、グループホームの立て直しやショートステイや認知症デイサービス、有料老人ホームの立ち上げなどに携わりました。私は、これらの経験から今に生きる高齢者向け施設の運営ノウハウを習得することができました。
当初目指したのは介護コンサル
独立を意識したのは40代前半の時でした。ちょうどその頃、介護業界では異業界から新規で参入してくる企業がかなり多かったのです。そのような企業は介護の専門会社ではない分、よりよい介護がどういうものなのかをあまりよく理解していません。ですからハードやサービスのクオリティが高いと感じられませんでした。私は今後もそういう会社が増えてしまうと、利用者さまとそのご家族が安心できないと思い、自分が高齢者向け施設とそのサービスのコンサルを行って業界をあるべき方向に導きたいと思ったのです。つまり、当初は施設経営ではなく、介護事業のコンサル会社を目指していたことになります。
法人を設立したのは2012年6月です。ある日私は、金融機関に運転資金の借り入れ相談に出かけました。すると、担当者との話が高齢者向け施設の運営にまで発展していき、結果的にそれが施設開設の契機になったのです。計画はどんどん進み、2013年6月に住宅型有料老人ホーム「おひさまの笑顔」「ケアプランオフィスおひさまの笑顔」を開設しました。
コンサル会社を目指していたものの、いざ施設をつくったからには、中途半端なことはできません。私は自分の施設をほかが手本にしたくなるような施設へと成長させることで、業界の発展に貢献しようと気持ちを切り替えました。
困っている人を見捨てない
「おひさまの笑顔」が軌道に乗ったポイントは提供する食事です。調理経験が豊富な人をつくり手として採用したところ、「おいしい」とたちまち評判になり、利用者さまが施設での生活を楽しみにしてくれるようになりました。そして、その評判が周囲に広まり、入所の依頼も増えました。
また、施設の扉に施錠をしない、外出や散歩ができるなど、ほかの施設ではNGとされることを実践しているのも大きな特徴です。だからこそ利用者さまは、自分の家にいるかのような安心感を覚えて、おだやか、かつマイペースで暮らすことができます。こうした試みは初めての勤務先で共感した自由と快適性に満ちた施設づくりの考え方に基づいて実践してきました。
「おひさまの笑顔」は開設1年で入所待ちになりました。その状況を回避すべく、次の住宅型有料老人ホーム「おひさまの微笑み」を開設しました。それに伴いスタッフも増えています。子育てをしながら働くママも多く採用していたのですが、彼女たちが子どもを預ける場所に困っていたため、私は安心して働いてもらえるよう乳幼児預かり施設の「おひさまのゆりかご」を開設。地域のお子さんも預かり、働くママを応援してきました。
ほかにも、障がい者グループホームや診療所などの施設を開設しています。高齢者向け以外の施設をつくってきたのは、困っている人に手を差し伸べたいと思ったからです。私は聖人君子ではありませんが、困っている人を見捨てておくことはできません。この使命感こそが今日の規模拡大につながったと思っています。
新しい事業構想
利用者さまの中には、当社の住宅型有料老人ホームで最期を迎える方もたくさんいらっしゃいます。旅立つ時に「いい人生だった、ありがとう」とお言葉をかけていただけるのですが、その都度私は「尽くすことができてよかった」と自分、さらにはこの仕事の存在意義を感じることができます。
最初の施設を開設してから約10年、ずっと走り続けてきましたが、しばらく前から長女が総務や経理などのバックオフィス業務を全般的に担当してくれるようになり、私にも今後の構想を練る時間的余裕が生まれました。次に手がける事業のテーマは「家族」です。すでにその実現に向けて協力者との話し合いも進みつつあり、施設の名前も決めました。この構想を形にするまでは、まだまだ走り続けなければと気を引き締めています。大好きなお酒をのんびり楽しむのはその後です。