岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

陶芸を続けたいとの思いで
窯業の町へ移り住んだ
もっと美しい作品が作れる
そんな自信がある


陶芸家
打田 翠(うちだ みどり)さん(瑞浪市)

【2023年6月15日更新】

「見た人の心象風景に響くものをつくりたい」と作品づくりに取り組んでいる陶芸家の打田翠さん。現在、力を注ぐ炭化焼成は焼くことでの表現に比重を置いた技法です。陶芸との出会いから制作についてお話しをうかがいました。

漠然としたイメージで入学
 陶芸家として瑞浪市に自宅兼アトリエがありますが、もともとは神戸市の出身です。子どもの頃は引っ込み思案でしたが、同時に楽天家だったとも思います。親類に芸術系大学に進学した人もいて、私も「手に職を付けたい」と漠然としたイメージのままに2001年、大阪芸大工芸学科陶芸コースに入学しました。それでも、入学してまもなくの授業で土を触った時に、「私は陶芸を続けていくだろうな」と直感が働いたことは今でも覚えています。
 大学卒業が迫るなか、私は「どうやって陶芸を続けよう」と考えていました。メーカーでデザイナーになったり、窯元で働いたり、窯業にはいろいろな携わり方があります。
考えを重ねるなか、違う環境に行ってみるのも良いと考えて、多治見市陶磁器意匠研究所に入学しました。毎年、陶芸コースの先輩が1人ずつくらい入学していたこともあり、私もチャレンジしました。1学年定員20人のなかには北海道や沖縄県から入学した子もいて、多治見市や瑞浪市には全国から「窯業に携わりたい」と人がやってきます。陶芸家としてもすごく良い環境に身を置いていると実感しています。

陶芸を続けたいと多治見へ
 多治見市陶磁器意匠研究所での学びは2年間。とても有意義な時間でした。勉強をするなかで、自分の陶芸づくりに対する方向性が徐々にわかってきたからです。大学を卒業した直後は、自分の作品を続けるとはどういうことかを探りながら、「陶芸を続けたい」という気持ちを持ち続けていた状態でした。多治見市陶磁器意匠研究所で学びながら、作りたいものを手掛けるうちに、「自分はこんな作品を作りたいのか」というイメージができあがってきました。2年間の学びを修了すると、アルバイト先でもあった大量生産を行うメーカーに就職しました。正社員として働き、会社の商品デザインを担当させてもらえたことも、大きな財産になり感謝しています。
 陶芸家と言っても「器作家になりたい」、「日常使いを想定したお皿を作りたい」など取り組むことはさまざまです。今の私は、作品としての器、またはオブジェを作るという2つの方向性で今は進めています。私が作る器は、決して使いやすいものではないかもしれません。でも、器としての用途は満たしながらも、見て手に取ってもらった人が「この器、すごく素敵! 家で使いたい」と思ってもらえる。使っても、そして飾ってもいい。そんな器を目指しています。

心象風景に響く作品を
私の作品作りは、陶芸の知識も技術もない学生の頃から漠然と頭の中にあるイメージに徐々に近づけていく作業です。いろいろな技法で制作しますが、炭化焼成といった技法が自分のイメージに近いのではと考えて、ここ数年、力を入れて取り組んでいます。
ろくろを使わない手びねりで作っていて、壷は炭化焼成で焼き上げたものです。壷となる土には金属粉を均一に混ぜてあり、もみ殻に壷を埋めて焼きます。1200度以上で焼くため、壷を埋めていた周囲のもみ殻は焼けて灰になることで、次第に壷の肌が空気に触れる。壷の色は、土の中の金属が化学変化を起こして生まれる色です。昔からある技法ですが、焼くことに重きを置いていて、当然、色の付き方も焼きあがるまでわかりません。難しくもあり、答えがないからこそ追い求めたくなる技法です。
美しい景色、空や夕陽を見ると理由もなく「すごい」、「綺麗だな」と思うと思います。その感覚を見た人に与えられる。そんな作品になることが理想です。ただ、私と同じ感情を共有したいわけではありません。それぞれに感動、寂しさといった心象風景があるはずです。それぞれの皆さんが持つ心象風景に私の作品が響いてくれたらと思っています。

丁寧な仕事を心掛ける
 同じ陶芸家の夫と結婚して、2016年から瑞浪市で暮らしています。職場となるアトリエも同じなので、家事や子育てはおおよそ半分ずつ分け合っています。お互いに無理をせず協力し合っています。
今が陶芸家としても、子育てをする母親としてもちょうど良いバランスで仕事ができていると感じています。自分を大切に丁寧な仕事をしたいとの思いから、これまで年5~6回開催していた個展の回数も、出産を機に年3回へ抑えました。
 作品を見てもらえる個展は、SNSの動画共有アプリ「インスタグラム」で開催告知をしていて個展初日は在廊していることも多いです。アトリエで作品づくりに没頭する時間も好きですが、単純に来場者の方の顔が見られて、私の作品で喜んでもらえているのはすごくうれしい。作品をつくるモチベーションになっています。
 まだまだ陶芸家としては、模索している段階でもありますが、炭化焼成でもっと美しい作品が生み出せる自信もあります。楽しみながら、陶芸と格闘している毎日ですね。