岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

農業の魅力を伝えたい。
ここを農地として残したい。
そのために何ができるのか、
これからもずっと
考えていきたいです。


Koike lab. -creative office- 代表
小池 菜摘(こいけ なつみ)さん(中津川市)

【2023年6月15日更新】

中津川市の坂本地区で100年以上続く芋農家を受け継いだ小池菜摘さん。農家を営みながら、カメラマンとしても活躍しています。2020年には「恵那山麓野菜」という地域野菜のブランディングに携わり、共同野菜出荷販売事業を立ち上げました。また、廃棄野菜を加工する「もったいない工房」を設立し、フードロスにも取り組んでいます。

震災で変わった価値観
 大阪出身で、京都の大学に進み、卒業後は東京の証券会社に就職しました。お金がすべての世界に身を置いて2年目、東日本大震災が発生して帰宅困難者となり、約7時間歩いて自宅に戻りました。
 直接被災したわけではないですが、便利な生活がこんなにも脆く、食べ物を買おうとしても、スーパーにもコンビニにも何も並んでいなくて、私たちは食べ物を与えられていたにすぎないと実感しました。当時、結婚する予定だった今の夫が農家の長男で、いずれは継ぐつもりだったようですが、震災を機に、自分で食べ物を作る仕事に魅力を感じて、実家の農業を継ごうと、ふたりで中津川へ来ました。
 でも、いきなり農業に従事できるわけもなく、義祖父から農業を学びながら、しばらくは自分のやりたい仕事もやってみようと、カメラマンの仕事に挑みました。昔から写真が好きで、4歳の頃から写真を撮っていたので、一度職業としてやってみたいと思っていたのです。いろいろとお仕事をさせていただき、現在もカメラマンの仕事は続けています。人を撮るのが好きで、企業の冊子などの仕事も多いです。

娘のふるさとの存続を
 2016年に娘を出産しました。まだそのときは、このまちのことを深く知りませんでしたし、愛着もそれほど持っていませんでした。しかし娘が生まれて、ここをふるさとにしたんだなと気づいたときに、このまちはあと何年続くのだろうと、ふと思ったのです。
 当時発表された消滅可能性都市のなかに、隣接する恵那市の名があがっていて、娘がここでずっと過ごすためには、自分がやれることは何だろうと考え始めたのです。地域にカメラマンが少ないので、このまちを写真に撮ることで何か役に立てないかなど、いろいろと考えを巡らしているなか、まちづくりのNPO法人の存在を知りました。
 そこでまちづくりの勉強をしつつ、5年ほど農業に携わっているうち、地域農業の未来にも危機感を抱くようになりました。共通認識として高齢化の問題は知っていましたが、農地自体の存続が危ぶまれているのです。農地を守りたい。この地域の農家が農家であり続けるための環境を作りたい。そんな思いから「恵那山麓野菜」という共同出荷プロジェクトを立ち上げました。この活動に共感してくださる若手農家も多く、現在は35軒ほどに登録いただいています。

公私を区切ることなく
 「Koike lab.」として芋農家をはじめ、カメラマン、夫が規格外野菜を生かしたいと始めた「もったいない工房」、地域野菜の「恵那山麓野菜」が今、私が携わる仕事です。
 夫と6歳の娘の3人で暮らしています。アウトドアが好きで、休みは家族でキャンプに出かけます。ここはただでさえ山なんですが、さらに家族で携帯電話の電波も入らないような山に入って、自然だけに触れる時間を大切にしています。
 ワークライフバランスというと、ときには公私のどちらを優先するかという話にもなりますが、分け隔てなく、あえて境界を作らずに頑張っています。生活のなかに仕事があって、仕事のなかに生活がある。娘が小さいときには、彼女をおんぶしてどこへでも仕事に行きましたし、それが許されない仕事はしませんでした。
 「Every day is a new day」。毎日が新しい1日で、その日できることを一生懸命にする。家事も子育ても仕事も境目なく、今日の私に何ができるのかを考えて、それを一生懸命しようと、いつも心がけています。

地域から頼られる存在に
 この地域の野菜は美味しいのに、それがブランド化されてきませんでした。誰かがしなくてはいけないと、みんなが思っていたものを「恵那山麓野菜」として、微力ながらも少しは形にできたことに、やりがいを感じています。
 夫が開いた「もったいない工房」は、傷んでしまう野菜の隣にいる元気な野菜や、規格外野菜を1グラムも捨てず、加工品にして販売しています。フードロス削減、SDGsという時代の流れもあって、評価してくださる方も増えてきて、自信にもつながっています。
 地域から頼りにされる存在になりたいと思っています。それにはもっと実績を作り、認められる必要があります。2021年、認定農業者になりました。これからの10年先を見据えて農業に取り組み、継続していくことで果たしていきたいと考えます。
 カメラを持参しても、目の前の仕事が忙しく、写真を撮る機会がなかなか作れずにいます。もっとこのまちの写真を撮れるよう、心の余裕を持ちたいですね。写真を撮りつつ、事業も回していける経営者になりたいと思っています。