岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

自分の経験で
人生を作っていきたいです。
失敗したら学べば良い。
何もしないよりも
前へ進んでいると思います。


旅館いち川 十六代女将
市川 祥子(いちかわ さちこ)さん(恵那市)

【2023年6月15日更新】

江戸時代の寛永年間、中山道大井宿で旅籠「角屋」として創業以来、約400年続く老舗旅館「いち川」。その16代目の女将を務める市川祥子さんは、マクロビオティック*料理を取り入れたり、イベントを企画したり、専門人材を登用したりと、時代に即した確かな経営手腕を発揮する一方で、地域の活性化にも取り組んでいます。
(*マクロビオティックとは、穀物や野菜、海藻などを中心とする日本の伝統食をベースとした食事を摂ることにより、自然と調和をとりながら、健康な暮らしを実現する考え方)

「いち川」で働くと決意
 私は長女で、下に妹がいます。どちらかが「いち川」を継ぐことになるのですが、家族からはそう言われずに育ちました。ただ、ご近所の方などから「跡継ぎやね」と言葉をかけられることも度々で、子供の頃は大いに戸惑いました。のちに母から聞かされたのですが、お墓参りや位牌堂へいっしょに出かけては、ご先祖様から今へ続く市川家の流れを話して、暗に導いていたらしいです。
 大学卒業後はアパレルの会社に就職しましたが、いずれはこの旅館を継ぐのだろうな、とぼんやり思っていました。実は、富士登山をしてご来光を見たとき、いち川に入る決心ができたのですよ。
 仕事を辞めて、いち川で働くと言い出した娘に、逆に周りはあたふたしたかもしれません。当時は祖父も健在で、「まずはお客さまと一番接するところから始めなさい」とのアドバイスで、経理とフロントの仕事に就きました。
 そして、仕事をひと通り学び、着物を身につけて、先代、先々代の女将といっしょに並んで、お客さまへご挨拶することとなり、16代目女将を名乗らせていただくようになりました。現在は、いち川の代表として外部の会議に出席したり、国内外の商談会に出かけたりもしています。

日々の課題をヒントに
 接客の際には、お客さまがどう思っていらっしゃるのか、どんなものがお好きなのか、空気を感じるよう心がけています。そこを研ぎ澄ませることで、お客さまの思いに寄り添えると考えます。振り返ってみれば、多くを語らない父の思いを、周りが察する環境で育ってきましたので、私のこの能力が磨かれたのかもしれません。
 コロナ禍では来客数が9割方減ってしまい、大きな影響を受けました。それは仕方のないことですが、改めて続けていく大変さを感じました。しかし、困難や日々の課題には、次のステップへのヒントが隠されていると思っています。コロナ禍もそうですが、困難としては捉えていません。ではどうすればいいのかと次の策を練る土台として考えるようにしています。
 人生に無駄なものは何もないと思っています。例えば私は英語が好きで学んでいましたが、女将になって図らずも、海外からのお客さまにお越しいただけるようになった際には、とても役に立ちました。人生いろいろありますが、自然とうまくいくようになっていると実感しています。

体を休めることは大事
 まちづくりの活動経験は、恵那を舞台にした映画「ふるさとがえり」に参加してみないかと友人に誘われたのがきっかけです。まちを盛り上げる手段としての映画制作でした。それ以後は「岐阜まんまる女将の会」や中山道「姫宿の会」などの活動や地域イベントに携わることで、情報発信の仕方を学ばせていただきました。近頃は、恵那の魅力を外に向けて発言をさせていただく機会も増えています。
 常に仕事のことばかり頭にあります。プライベートで出かけても、仕事に役立つものは何かないかなという目線でしか見ていません。それを自分のまちに、仕事に、どう生かせるだろうと考えてしまいます。
 公私を分けて考える必要はないと思いますが、意識して休息は取るようにしています。体を休めるとインプットがしやすくなり、面白いアイデアもわいてきます。仕事を楽しくするためには、体が大事です。美味しいと評判のお店に行ったり、気心が知れた仲間と笑ったりすることが、息抜きになっています。

何でも言いやすい環境
 10室程度の旅館ですので、企画から経理、労務管理、営業、接客まで、全部やっていましたが、ここ数年は専門家の力も借りるようにしています。その助言から、クルーといっしょにDX(デジタルトランスフォーメーション)や生産性向上などのワークショップを行い、働く環境を整えることで、お客さまへのより良いサービスにつなげていく取り組みを進めてきました。
 企画の立案についても、以前は私がきっかけを言い出す役になっていました。例えば、マクロビオティックをやりたいと言ったのは20年くらい前で、まず私が外へ学びにいき、それを持ち帰って、料理長が具現化していくという形でした。ヨガのイベントや講演会などの企画も、私の提案から始まりました。
 近年はクルーにも、やりたいことや改善へのアイデアはどんどん提案して実行する流れができあがりつつあります。クルーが何でも言いやすい環境のために、女将として、いち川の今後の方向性を明確に示せるようにしていきたいと思っています。