岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

無農薬無化学肥料栽培の野菜に出会って
自分の人生ががらりと変わりました。
食をとおしてみんなが幸せになれる、
マインドは常に「三方良し」


小さなオーガニックファームた・べ・る代表
小川 由美子(おがわ ゆみこ)さん(揖斐川町)

【2023年6月22日更新】

無農薬無化学肥料栽培に目覚め、一から勉強し、パート主婦から農業の道へ。小川由美子さんは、自然豊かな谷汲で野菜や大豆などを育て、その収穫した素材を使い、オーガニックにこだわった安心安全なパンを焼いています。ほんとうにおいしい旬の素材を旬の時期にたべてみてほしい、という願いを込めた食の提案を、農業を通じて熱い心で発信しています。

農業との出会い
 5年前まで、農業もまったくやったことがない、デスクワークのパート主婦でした。子どもが自立する年齢になって、もっと人に喜んでもらえる仕事が今からでも出来ないかと考え始めました。そんな矢先、妹から教えてもらって興味を持ったのが無農薬無化学肥料栽培でした。無農薬栽培の農家が谷汲にあると知り、見学に行ってみたらまるで別世界。昭和初期から同じやり方での大豆処理や、野菜の栽培方法も全く違うことに感動。師匠の作った人参をたべてみたら、今までの人参は何だったのかという衝撃を受けました。この農法で野菜を育ててみたいと決心し弟子入り。たまたま夫が趣味で家庭菜園をしていたので、土曜日は夫婦揃って畑について教えてもらいながら、作物を育て始めました。
この時期、自分の可能性を探したいという気持ちも強く、いったん名古屋で営業職に就職もしました。自分に向いていたのですが、忙しすぎて体を壊しました。誰かを幸せにしたいという気持ちで飛び込んだ世界だけれど、食もおろそかになり、これではいけない、まずは自分と家族の幸せ、健康がいちばんだと気づき、そこからは農業に本気で取り組む決心が固まりました。
その後、無農薬の野菜をたべ、自然の中で体を動かすことでスタミナもつき、貧血も改善され、とても健康になりました。体調を崩すほどの経験があったからこそ、今、多忙で無理をしそうになっても、まずは自分の体が優先だと原点に立ち返ることができるようになりました。

無農薬野菜を広めたい
1年ほど師匠のもとで研修した後、師匠の畑を引き継いで4年目になります。現在、約1500坪の畑で、年間50種類の野菜を育てています。またボランティアを募って、収穫や手入れを手伝ってもらっています。新しいことに挑戦したい、農業に興味がある、私がこの年齢で農業を始めたことについて話を聞きたい、癒されたいなど、目的は様々ですが、たくさんの人が集まってきてくれて、人脈がどんどん広がっています。
そして、無農薬野菜のおいしさを、もっと世間に知ってほしいと思うようになり、たどりついたのがパンでした。もともとパン作りが趣味で、有名パン屋で見習いをしていたことがあり、野菜を載せて焼いたパンならたくさんの人にたべてもらえるのではとひらめきました。無農薬野菜の農家は苦労も手間も多いわりになかなかお金にはなりません。でも6次産業として、加工した形でもお客さんに届けば、味の違いなど無農薬野菜の良さに気づいてもらえるきっかけになると思ったのです。
どうせやるなら小麦もオーガニックを取り入れ、自家製天然酵母で、他にはない、うちしか作れないパンを作れば、求めてくれる人がいるのではと、工房をスタートさせました。仕込みに時間がかかるし、あくまでもメインは農業。週一しか店を開けないのはそういった理由からです。

食にまつわる夢は色々
 このパンをビジネスとして流通させようと、以前は人を増やすなどしてみましたがそれも大変で、自分の望みとは違うと気づきました。「規模が小さくても本物」を目指していくことが理想だとやっとわかってきた今は、自分のペースを整え、挫折もありましたが日々ストレスなく楽しんでいます。
いまチャレンジしているのは、耕作放棄地を利用しての落花生畑づくり。栽培から殻むき作業まで施設に委託してみて、うまくいったところです。試行錯誤の繰り返しですが、どうしたらもっと落花生畑を増やすことができるかが難題。岐阜に落花生畑をたくさん作って、無農薬の岐阜県産ピーナッツクリームを岐阜の特産品にするのが目標です。
近い未来と将来の夢はいろいろありますが、そのひとつが、参加者が大豆を自分で育てて、自分の家の一年分の味噌を仕込むというワークショップの企画。きちんと育てた大豆はとてもおいしくて、日本の土地で十分作ることができるのに、ほぼ輸入なのが残念だと感じています。種まきから収穫、味噌づくりまでのサポートは、食育としてもすごくいいと思うんです。これも関わってくれる仲間が必要なので、どうしたら実現出来るか考えています。
そのほかにも、プロの料理人さんとコラボして、私の作ったオーガニック素材を使ってもらい、すごくおいしい料理を提供するスペシャルな一日、というようなコンセプトで何か提供出来たらいいなあと思っています。

幸せの循環を目指す
農業と工房で忙しい反動か、オフタイムは家でじっとしているのが好きで、将来やってみたいことをいろいろ想像してワクワクするのが気分転換になっています。その思い付きからお菓子を試作してみたり、たまに食事に出かけても、つい味の分析をしてしまいます。もはや趣味なのか仕事の延長なのかわかりませんが、見るものすべてが自分の仕事で生かされて、おいしいと喜んでもらえたら幸せ、と常に考えています。
「継続は力なり」といいますが、まさに、ずっと種をまき続けていたから今、芽が吹き広がっている。やめてしまったら成長は止まってしまう。将来へつなぐためにも続けるのは大事というのが実感です。そして、頭に置いているのは「三方良し」という言葉。買う側も売る側も世の中も良くなるのがベストな形の循環だなと、何かに取り掛かるときはいつも心がけております。
農業に関わるまでは、たべることは大好きでしたが旬の素材については無頓着でした。旬のものは旬の時期にたべる、そうでないものは保存食などに加工するのが、本来の「たべる」形。そういう昔ながらの「食」を広めたい、でも、すべて無農薬・旬でなければ駄目というのではなく、臨機応変に、たべる選択肢をふやしてみては、という堅苦しくない食の提案をしていきたいです。