岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

自分が納得できるまで考えた道
飛騨のえごまに誇りを持って
日本で唯一のお宿を目指す


お宿 萬里 女将
高橋 雪絵(たかはし ゆきえ)さん(高山市)

【2023年6月26日更新】

東京出身の高橋雪絵さんは、結婚を機にご主人の故郷の岐阜県高山市に移住。慣れない土地での生活に悩みながらも、ご主人の実家の家業である「お宿萬里」を手伝い、子どもたちを育て、7年前には女将となることを決意します。そしてコロナ禍の厳しい時期を乗り越え、他にはない唯一無二の宿を目標に2022年春に「飛騨えごまの小宿 萬里」をスタートさせました。

暮らしが大きく変化
生まれも育ちも東京です。卒業後も東京で事務や受付の仕事をしていました。当時同じ会社に勤めていた夫と出会い、結婚を機に一緒に彼の地元である岐阜県高山市に来ました。
地元の人たちは方言が柔らかい印象で、親しみやすい方ばかりでしたが、それでも冬の雪や人付き合いの距離感など東京での暮らしとは違う部分が多く、馴染むまでにはかなり時間がかかりました。今では自分も飛騨人、ここが地元と感じられますが、そこまでには10年くらいかかったかもしれません。
高山に来てからは夫の実家である「お宿萬里」を手伝い始め、もう30年になります。
3人の母親ですが、子育て中は自営業ということもあり、子どもたちと一緒にいる時間を多くとれたことはありがたかったなと思っています。小さい時はおんぶをしながら仕事をするなどいつも一緒にいられたので、しっかりと子育てをしたという実感がありますね。子どもたちも飛騨の土地柄もあるのか、優しく穏やかに育ってくれ、大学卒業後は高山に戻ってきて仕事をしています。
7年前に女将になることを決めました。その前から両親から宿を継いでほしいというような話はありましたが、自分が心から納得できるかをとことん考えることが必要な性格のため、上の子二人が進学で家を出て、子育てが大分落ち着いたタイミングでこの先の人生を考えた時に、「この宿を続けていきたい」と思うようになり、覚悟が決まりました。

女将としての挑戦
「萬里」は昔ながらの小さな宿です。周辺に近代的なホテルが増えたことや、コロナの影響で、廃業していくお宿も少なくありません。そんな中でどうしたら唯一無二のお宿にしていけるか。そう考えた時、夫の事業である「えごま」を前面に打ち出した料理で勝負をしようと決めました。
夫は本当に尊敬できる人で、地元のえごまで事業を立ち上げようと、当時飛騨にはなかった搾油所を初めて作りました。それだけではなく、農家さんの手間や苦労を減らそうと洗浄機を導入するなど、商品の品質の安定と向上を実現しました。
私も彼の事業を手伝い、えごまの栽培も一緒に行っていて、日常的に食べることも多かったので、この美味しさを多くの方にも感じてほしいと思っていました。
しかし、家庭料理をいかに宿の食事に相応しい味や盛り付けにするかなど、試行錯誤することは多かったです。そんな研究の甲斐もあって、この秋には多くのお客様にお越しいただくことができ、20代のカップルから、70代80代の高齢のお客様まで、幅広い方から「美味しい!」という一番うれしいお言葉をいただくことができました。
一番の人気はえごま油を使ったマリネ。えごま油は希少で高価なものですが健康にもよく、そんなピュアなオイルを惜しげもなく使えるのも自社製品だからこそです。擦ったえごまをたっぷり使った和え物も、田舎を感じられるほっこりした味として喜ばれています。野菜は両親が作ったものを中心に、その季節の地元のものを使う地産地消を心がけています。

可能性は自分次第
朝は5時ごろから畑へ出て、宿の掃除、受付け、料理など、ほぼ一人で業務を行っています。お客さんが多い時は娘に手伝ってもらうこともありますが、忙しい時は睡眠時間が3~4時間なんてこともありますね。体力勝負ですが、自分で決めた道なので頑張ることができています。
ON、OFFの無い仕事ですが、少しでも時間ができれば、趣味の読書をしたり、音楽を聴いたりしてリフレッシュしています。
年に一度くらいは宿を数日休みにして旅行に出かけたりもしますが、そこでも宿やお店のおもてなしやお料理が気になってしまいますね。
今の仕事の魅力は、自分次第で可能性が無限大なこと。母から教わった料理やいろいろなレシピを参考に独学で研究していますが、いつお客様がいらっしゃっても新しい発見をしていただけるよう、もっとレパートリーを増やしていきたいですね。仕事の難しい部分も実は同じで、常に進化を続けなければいけないということだと思っています。それは苦しくもあり、楽しくもあり、この仕事のやりがいだと思っています。

日本で唯一のお宿に
今後の目標は「飛騨えごまの小宿 萬里」を唯一無二の宿にすることです。今はお肉料理に飛騨牛を出しているのですが、今後はジビエ料理をお出ししたいと考えています。ジビエは扱いも難しく挑戦ではあるのですが、「飛騨えごまの小宿 萬里」を日本でここだけのお宿にするためにはどんなことでも挑戦していきたいですね。
そして『高山に行くから宿を探す』のではなく、『「飛騨えごまの小宿 萬里」に泊まりたいから高山に行く』というお客様が増えたら嬉しいですね。予約の取りづらい人気宿にするのが目標です。
飛騨に来て、宿を継いで女将になって、常に忘れないようにしていることは「あきらめないこと」です。自分で決めたことは最後まであきらめたくない。その為に、「負けないこと」を自分に課してきましたが、最近は「勝つこと」の重要さも感じ、自分の納得のいく結果を出すことを目標に、日々進み続けるということを自分に言い聞かせています。