岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

当社は田舎発のベンチャー企業。
故郷の谷汲に新たなコトを
もっと仕掛けていって、
若い人が誇りを持てる地域にする


株式会社キサラエフアールカンパニーズ 代表取締役社長
所 千加(ところ ちか)さん(揖斐川町)

【2024年8月27日更新】

飲食店や道の駅「夢さんさん谷汲」の運営、イベント催事への出店、シカやイノシシの解体・精肉・販売、そしてキャンプ場の運営など、複数の事業を行う株式会社キサラエフアールカンパニーズ。代表取締役社長の所千加さんは、21歳の若さで独立しました。創業から20余年が経過しましたが、「田舎発のベンチャー企業としてやりたいことがまだある」と熱く語る所さんのこれからに注目です。

始まりは、そば屋

 近年、ジビエが注目されており、当社でもジビエ事業のほか、ジビエを使ったソーセージやパテなどが食べられるシャルキュトリーレストランをメディアに取り上げていただく機会が増えました。ただ当社の始まりは、冷やしたぬきそばが名物のそば屋なのです。
 私の祖母は仕出し屋や五平餅屋を営むなど、個人で商売をしていました。また、母は診療所に勤める看護師でした。私は、働く2人の女性を間近で見て暮らしてきたせいか、「大人になったら、自分も起業したい」との思いをずっと胸に抱いてきたのです。そして、家族や周囲の協力とご縁もあり、21歳でそば屋を開業することになりました。
 そば屋は約10年間個人事業として続け、2010年に兄と一緒に株式会社キサラエフアールカンパニーズを設立。ちょうどその頃、町議会議員を務めていた父から「田畑がシカやイノシシによって荒らされ、近隣の営農者たちが困っている」との話を聞きました。続けて父は、兄に対して「狩猟免許を取って、獣害を食い止めてもらえないか」とも。このような経緯から兄は狩猟免許を取得しました。私は兄と一緒に、本巣市で長年狩猟を続けているその道の大先輩から捕獲や解体について指導していただき、ジビエ事業の礎を築いていきました。地区住民のなかから狩猟免許の取得希望者を募り、賛同してくれた方々には、こちらから狩猟指導をし、捕獲について協力してもらっています。


命をいただく

 2013年、岐阜県で「ぎふジビエ衛生ガイドライン」が施行。私たちもそのガイドラインにのっとった衛生的な食肉の解体処理ができる施設をつくりました。これにより捕獲したシカやイノシシを食用肉として有効活用していくための基盤がさらに整いました。
 当社の解体処理施設に運ばれるシカやイノシシは、基本的には生け捕りにされた個体です。解体の大まかな流れとしては、最初に止め刺しをします。止め刺しとは、その名のとおり、獲物に止めを刺すことです。続いて、血抜き、剥皮、内臓摘出をして、最後は枝肉にするための分割を行います。場合によっては猟師さんが止め刺しをした上で、解体処理施設に運んでくださることもあります。
 現在、当社には解体処理を主に担当する社員がいます。もちろん私も解体処理は経験済みですが、初めのうちはどうしてもさばくことができませんでした。捕獲した獣を前にためらうばかりです。そんな私を見かねて猟師の大先輩は、「自分がさばけないのなら、捕まえてはいけない。きちんと肉にして食べてあげることが、捕まえる者としての責任だ」と強く諭しました。大切な教えを胸に刻んだ私は、現在「捕獲して食べることは、命をつなげること」と認識し、この事業を立ち上げた以上、谷汲の森の資源がいかにすばらしいものであるか、そして命をいただくことの大切さを伝えていかなければならないという使命感を持ちながらジビエ事業を行っています。


年150日は出張

 シカやイノシシの肉は、イベントなどで販売。ほかにも、BtoB販売を計画し、行政が開催するビジネス商談会に参加するなどして小売企業とつながったり、レストランをはじめ飲食店に卸すルートを開拓したりもしました。さらに、気軽にジビエが楽しめるよう、シャルキュトリーレストランも2016年にオープンして、売上アップと知名度向上に取り組みました。ところが新型コロナウイルスの感染拡大により、一気に苦戦。急遽BtoC販売の強化へ舵を切り直し、キッチンカーを購入して一般向けの販売に励みました。
 私は会社の代表を務めていますが、社長業だけでなく、イベントの現場にも積極的に出向いて自社のジビエをPRしています。おそらく年150日ほどは家を空けているはず。家のことはパートナーと母の助けを借りながら総力戦で臨んでいます。また、小学3年生の娘がいますが、私が出張で家にいないことについては子どもなりに理解してくれているようで、頼もしいです。さすがに事業承継は、まだ考えていません。でも、娘もイベント会場やそば屋で時々手伝いをしてくれるので、いつか自分から「同じ仕事をしてみたい」と言う日が来るような気もしています。


何事もまずやってみる

 2023年4月、キャンプ&アウトドア事業の目玉として「A LAISE CAMP すめらぎの森」をオープンさせました。これは、日帰りバーベキュー、キャンプ、グランピングが楽しめる施設です。従来のキャンプのように利用者が食材を持ち込んで思い思いのキャンプ飯を調理して食べるのもよいですが、やはり当社としてはジビエを食べていただきたいので、そのプランのご利用をすすめています。
 創業から20年以上が経ち、そば屋がジビエ事業をはじめ、キャンプ場をつくるとは想像もしていませんでした。ありがたいことに講演依頼もいただくようになり、各地でお話をさせてもらう機会も増えました。経営を学んだわけではないですが、ここまでやってこられたのは、「何事もまずやってみる!」をモットーにチャレンジを続けてきたからなのかもしれません。もちろん、今後もやってみたいと思うことはあります。それは、移住者と地元民をつなげるコネクターとしての役割を果たすこと。キサラエフアールカンパニーズは、田舎発のベンチャー企業。私は、生まれ育った谷汲に新たなコトをもっと仕掛けていきたい。そして、地元の若い人が「谷汲っておもしろいな」と誇りに思ってくれたら最高です。