義母が運営する保育園を手伝うことになり、初めて内側から保育の現場を知ることになった水野さんは、自身も4人の子どもを育てる母親です。預ける側と預かる側、両方の立場から見えてきた問題点を、柔軟な発想で解決の道を探りながら、保護者にも保育者にも優しい保育園を目指して取り組みを続けています。
両側から見て気付く事
義理の母が中津川市内で運営していた託児所が、市の認可を受けて認可小規模保育園になり、そのタイミングで個人事業から株式会社へと法人化しました。私も夫も中津川の出身ですが当時は名古屋に住み、私は訪問看護師をしていました。夫婦共働きで3人目の出産を機に、中津川へUターン移住しました。Uターン後も夫は名古屋まで通勤し、私は義理の母が運営する保育園の経理のお手伝いを始めました。
名古屋にいた時は勤務先の訪問看護ステーションに併設された託児所に子どもを預けていたため、市中の一般的な保育園を利用するのは今回が初めてでした。さらに子どもを預ける母親の立場と、子どもを預かる保育園の立場の両方を同時に体験する事になり、それによって今まで気付かなかった様々なものが見えてきました。そして保護者から選ばれる保育園になるための改革をスタートさせました。
保育園の当たり前を見直してみる
登園時には、お昼寝ふとん、オムツ、手拭きタオル、給食セット、お着替え等、たくさんの荷物を抱え、子どもを抱っこし、雨だったら傘をさしてと大変です。そこで、わざわざ自宅から持ってこなくても済むよう"手ぶら登園"に出来ないかと考えました。
お昼寝用として乳幼児用ベッドと寝具一式を、お着替えは貸し出し用の衣類を保育園で用意しました。手拭きタオル、オムツ、給食セットなど全て保育園で揃えて、保護者の方の持ち込みは不要としました。オムツだけは使用分を実費で頂いていますが、それ以外は市が決める保育料のみで追加料金はいただいていません。無料で手ぶら登園サービスを提供しているということです。
寝具や衣類は園で洗濯を、スプーンやフォークなどは洗浄・消毒を、手拭きタオルは使い捨てペーパータオルを使い衛生面に配慮しています。着てきた服が汚れて園の服に着替えたら、汚れた服は洗濯してお返しします。使用済みオムツは園で処分して、保護者に持ち帰ってもらうのは止めました。
このように園で用意できるものは用意し、サービスの向上を目指しましたが、現場の保育者からは保管場所や管理の問題、業務の負担増など様々な声が上がり、スムーズには進みませんでした。例えばオムツを持ち帰る理由は「保護者が子の排泄物を見て健康状態を確認してもらうためだ」と言われましたが、保護者アンケートでは自宅で使用済みオムツを開いて確認している保護者は皆無でした。保育者たちもどの子のオムツなのか間違えないよう管理する手間があるほか、臭いや衛生面を考慮した保管場所が必要で、手間暇かけている割に本来の目的が果たせていない事が分かりました。こうしてこれまで当たり前のようにやってきた事の理由や目的を再確認し、それにかかる有形無形のコストを洗い出していくと、その改善案を提示した際も前向きに検討してもらえるようになり、手ぶら登園が実現していきました。
他には、現金払いだった保育料の支払いを、電子マネー決済も選べるようにしました。現金を用意する手間が無くなり好評です。また、保育専用システムを導入し、紙の連絡帳でのやり取りをスマホのアプリで行えるようにしました。いつでもどこでも連絡を受けたり伝えたり出来ますし、配布物をPDFで配信するほか、園だよりも紙での配布と並行してアプリ配信を始めました。園だよりには、園で歌っている歌や手遊びのQRコードを載せ家庭で楽しんでもらったり、園で撮った写真は毎月アプリで共有したり、ICT化にも積極的に取り組んでいます。
保育園の働き方改革
保護者向けの改革と同時に職員の働き方の見直しも行いました。デスクワークのデジタル化やシステムの導入で作業の簡略化と時短を実現した他、保育者が自宅に持ち帰ってまで手作りしていた園内の飾りつけをやめて本物の草花を飾るなど、新しい技術の導入や作業の見直しで仕事量を減らしました。こういった仕事量の削減と併せて、国の基準より多くの保育者を配置することで現場に余裕を持たせ、より保育に集中できる環境を作る事が出来ました。現在は残業や持ち帰り仕事が無くなり、有休取得率も100%を達成しています。
理想を持って歩む
私自身も1歳から11歳まで4人の子どもを育てる母親ですし、夫も働きながら家事や育児に参加しています。そんな私たちが保育園の運営に関わっている事が、現役の子育て世代のニーズを掘り起こす事に役立っていると思います。サービスの向上にはコストがかかりますが、保育料にサービス料を上乗せしないために、様々な工夫や補助金の有効活用、また新規事業を計画したりしています。
私には「理想を持ち信念に生きよ」という好きな言葉があります。先ず理想や理念をしっかり持つこと、そして自分がすべきことを明確にし信じて進み続ける、という意味と捉えています。悩んでいた20代の時にガツンと心に響いた言葉で、保育園改革に取り組む今も何かあるとこの言葉に立ち戻って行動しています。