義父、夫を続けて病気で亡くし、水道事業会社経営を引き継いで11年。代表取締役を務める今井美佐子さんは、経営のかたわら下呂市における主要な団体活動に参加。周囲から信頼を得て数少ない女性会員として活発に活動しています。下呂市全域の水道会社による合同会社の取締役としても、女性ならではの立場から社員の相談窓口となるなど、多忙な毎日を送っています。
夫の跡を継いで社長に
昭和38年に夫の親が今井設備工業を立ち上げました。夫が会社の跡継ぎで、私は経理などの事務を義母と一緒に担当していました。その後義父は83歳でがんにより亡くなったのですが、その7年後、夫にがんが発覚。夫は病気がわかってから1年であっという間に亡くなりました。従業員も多数抱えていたため、会社をやめるわけにはいきません。幸いスタッフがみんな優秀で、現場の事は任せることにして代表に就任しました。とはいえ何が何やらわからない状態で遺されて、最初は私も何かしなければと現場へ足を運び土砂の運搬や旗振り、工事の片付けなどもしていましたが、社長が現場に来ると職人がやりにくいと気づき、それからは工事現場に行っても手も口も出さないと心がけています。そしてケガが無いようにと祈りながら、私は経理や営業などを担当しています。
私が嫁ぐ前から働いてくれている生き字引のような職人を筆頭に、下は30代まで、現在社員は合計9名。おかげさまでお客様からも高い評価を頂けています。夜、今日一日無事に終われることを仏壇に報告し手を合わせ、また次の日が始まるという毎日です。
人と会い、つながる
夫が元気だったころ周囲から、経理だけやっていてあなたは何の利益を会社にもたらすのかと言われたことがありました。夫はあまり社交的ではありませんでしたが、私は人と話すのが大好き。「あなたはとにかく会合に顔を出し、役もどんどん引き受けなさい。すぐに仕事に結びつかなくても、色々なつながりができるから」と先輩からアドバイスを頂き、それからは、まちづくりの会、社会保険委員会、法人会など、お手伝いできることがあれば何でもするという気持ちで参加しました。昔から様々な会に所属していたおかげで、夫が亡くなった時も、そこで出来た人とのつながりに助けていただきました。商工会の女性部の副部長は十数年担い、ほかにも観光協会の理事、女性防火クラブの副会長、福祉会の理事、今年は少々野(しょうがの)の副区長も任命されました。
飛騨地区の建設業や水道関係の業界では活動している女性が少ない。男性ばかりで最初のうちは本当に慣れなくて大変でしたが、皆さんの協力のもと、現在は下呂市内の水道組合の理事も務めています。また、下呂市全域の水道関係企業の健全経営を目的に、水道会社皆で出資して立ち上げた「下呂水道サービス株式会社」という合同会社の取締役にも就任しました。たくさんの組織に属していると、今日は何の会合だったかな?となることもありますが、仕事もそこから声をかけていただくことも多く、人との関わり・つながりは大切だと実感しています。
楽しく末永く働きたい
自分が油断したり手を抜けば業績も落ちていくのは目に見えている。いつも不安がつきまとい大変だという想いはありますが、下を向いていても仕方ない、苦しいときこそ上を向いて笑っていようと思っています。工事の完成写真を見たり、完成報告書を提出するときは、職人も私も達成感でいっぱいになります。週末も会合などでスケジュールが埋まってしまいがちでなかなか時間もとれないのですが、合間をぬって気分転換でジグソーパズルのピースの多いものにも挑戦し、頭を空っぽにしています。
結婚を機に退職するまで保育士として働くほど子ども好きで、子ども対象のスイミングスクールの指導員もしていましたが、私たちは子宝に恵まれませんでした。そのかわり今は2匹の愛犬と暮らしていて、事務所にも連れて出勤し社員の癒しになっています。出勤には、夫の骨壺も一緒。おかげで夫がまだそばにいて見守ってくれているような気がしています。組合の取締役会でもふとした時に、私の口調が夫に似ていると周りから言われることがあります。夫が私の口を借りて話しているのかもと考えると、なかなか成仏できていないのかもしれません。
突然の修理依頼などもあり、全社員が働き方改革を実施というわけにはいきませんが、私は定時になったら速やかに退勤します。私がさっと帰れば社員も帰りやすいと思っています。なるべくメリハリをつけて、夜は犬と遊んだりして休息をとるようにしています。長生きして、会社を継いでくれる人に安心して託せるときがくるまで働き続けていきたいと思います。
還暦祝いで自分へのご褒美に買った真っ赤な外車でドライブをしたり、同級生に誘われて始めたゴルフも楽しみのひとつ。のんびり食事に行ったり旅行したり、自分のためにやりたいことをして過ごすのが将来の夢。ITCJ(一般社団法人国際観光サービスセンター)に勉強のため入ったのですが、月2回ほどのスピーチや会議の方法を学ぶ集まりにも、今は忙しくてなかなか行けないのでもっと参加することを目標に続けていきたいと思っています。
人から気づきを得る
ある企業の社長さんは、朝一番に出社して、玄関を竹箒で掃いてからいったん帰り、従業員に気を使わせないよう全員揃った頃再び出社するそうです。これはマネしたいと思い、朝5時半に会社のカギを開け1時間かけて掃除を行っています。そしてシャッターを開ける前、誰も居ない部屋の真ん中に立って、「おはようございます。今日も一日よろしくお願いいたします」と大きな声で会社に声をかけるのが日課です。そうすると会社が息を吹き返すような目を覚ますような感じがします。これも、ある講演会で教えて頂いたことがヒントになっています。
出かけた先で、私を導いてくれる言葉や励ましとの出会いがありましたから、話を聞くことも大切だと思います。この会に入って何の得があるの、何の利益があるのと周囲に言われることもありますが、私は出かけることに利益があり、行って損することはないと思っています。若い女性たちにも臆さずどんどん外へ出て人と出会いなさい、と伝えたいです。