農業機械部品と手押し式の草刈機を製造するVIVエンジニアリング。創業者である父の後を継いで代表取締役になった長尾有さんは、販路を開拓し、中国にある工場の生産体制のテコ入れなどに着手。近年は、リモートでの品質管理を実現したり、テレワークの積極的導入も行ったりするなど、IT化によって会社を生まれ変わらせることに成功しました。なお、会社は2023年3月に、「中部IT経営力大賞2023」優秀賞を受賞しています。
20代後半で父の会社へ
大学で教員免許を取得し、高校の非常勤講師として就職。それから1年、知人の紹介で下着メーカーの経理担当に転職しました。下着メーカーに勤めて3年が経過した頃、父が1977年に大阪府で創業した農業用機械及びその部品メーカーであるVIVエンジニアリングの社員から「お父さんも高齢になってきたから、そろそろ事業承継について考えた方がいい」と提言され、20代後半で父の会社へ。
VIVでは、創業時からしばらくの間農機具部品をつくっていましたが、私が入社した時には自社の部品を生かして手押し式の草刈機をつくっていました。ところが、営業に大苦戦。なぜならVIVはメーカーなので、販売能力に長けていなかったのです。私は販路開拓のためにも販売専門の組織の必要性を感じました。すると、ちょうどそのタイミングで、ある通販会社から「草刈機を扱いたい」という話が持ちかけられたので、私はこれをチャンスだと捉え、草刈機の販売会社となる株式会社ASALITEを設立しました。
さまざまな改革
2016年12月、VIVエンジニアリングも代替わりすることが決まり、私が代表取締役に就任。この頃、大阪の本社機能を今の海津市南濃町に移管しました。
草刈機の販売会社の設立によって、その販売台数は徐々に伸長。なんとか軌道に乗ったので、今度は農機具部品の販路拡大に乗り出すことにし、消費者の声を地道に拾って回りました。ヒアリングでは一定の評価は得られていることがわかったものの、品質については厳しいご意見もいただきました。これを受け私は、品質改善を計画。しかし、ものづくりの現場については知識が乏しかったので、まず熟練の社員に相談しました。その社員は、品質管理に詳しい方を外部から探してきてくれ、結果的にその方が入社。当社の製造拠点である中国工場に大胆な改革を施してくれたのです。具体的に行ったことは、従業員の意識改革と作業標準の大幅な見直しでした。
一方、南濃町の本社でも改革を実施。アナログ的な手法で回していた業務を改め、一部をIT化しました。正代替わりした私のやり方に疑問を感じていた何名かの社員が退職したので、人材不足による残業時間の増加を懸念しましたが、IT化によって業務効率が上がり、残った社員でも仕事が十分回せたので、残業時間が増えることもなく、中途人材を募集する必要もありませんでした。
手応えを感じた私は、IT化の強化を検討。海津市商工会に相談してみたところ、大垣市のソフトピアジャパンの担当者を紹介していただきました。その担当者から、クラウド型の業務アプリ開発プラットフォームを勧めていただき、早速導入。もっと業務効率が上がり、テレワークも実践できるようになりました。
ユーザーが認める品質
当初、IT化による業務効率の向上は、事務職を対象としていました。ただ、これが予想以上に功を奏したので、品質管理部門にもIT技術を導入し、同様に業務効率の向上を図れないものかと考えました。品質管理の担当者からは「現場に足を運んで、現物を目視し、現実を認識しないと品質管理の仕事は務まらない」との意見が出ましたが、検査に必要な数値をデータ化し、製品や現場の状態を映像で閲覧するなどすれば、現場に依存しなくても品質管理ができることがわかり、本格導入に踏み切りました。
リモート品質管理の手法は、中国の工場にも展開。国内にいながら、リアルタイムで中国工場の品質管理をスムーズに行えるようになり、不良や異常の検出も早期にできて、ほぼ良品ばかりが岐阜本社に納められるようになりました。
私が代替わりした時、消費者から品質に関する厳しい指摘をいただいたことがあると述べましたが、最近は品質を認めていただき、どうやって改善しているのかと中国の工場への見学依頼も入っています。もちろん、「ぜひお越しください」と返答しました。
これからの人生が楽しみ
事業継承してから営業はずっと私が担当していましたが、限界を感じていたので、営業職を採用することにしました。以前まで工作機械関係の営業をされていた男性に入社していただきましたが、実はこの方は静岡県浜松市在住。当社は海津市にありますから、リモートで営業職を務めてもらっています。
当社は立地条件がいいとは言えません。それが採用活動において大きなハードルとなってしまい、これまではなかなか応募がありませんでした。しかし、リモートのワークスタイルを確立することができたので、営業職を採用する際、「相棒は、旅行カバン。」というキャッチーな見出しを記した求人原稿を制作しました。果たしてどれほどの応募があるか不安でしたが、フタを開けてみると1名の採用枠に200名からの応募があり、まさにうれしい悲鳴でした。
リモートの品質管理はうまく機能し、テレワークの導入によって営業体制も整いました。社員も働きやすいと感じてくれるようになり、この数年で会社のレベルが一気に上がった思いです。また、ありがたいことに、IT技術を使ったこの一連の取り組み内容が高く評価され、「中部IT経営力大賞2023」において優秀賞をいただくことができました。
VIVに入社してからとにかく課題と向き合うばかりの日々でした。もう課題がないとは言いませんが、ずいぶん視界が開けてきたので、これから先の人生がとても楽しみです。最近は、仕事だけじゃなく、ママさんバレーや絵手紙を楽しむ余裕も持てるようになりました。


