岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

蜂を育てる=自然に沿って生きる
予想がつかないから面白くもあり
難しくもある養蜂の世界。
人とも自然ともすべての出会いを
大切にしていきたい。


養蜂家
筑間 美穂(ちくま みほ)さん(本巣市)

【2024年9月 3日更新】

13年前に、『チクマ養蜂』の2代目である父が急逝。事業を承継した母のもと、養蜂家としてのキャリアを未経験からスタートさせた筑間美穂さん。経営者である母を支え、営業を担当する妹とともに経営しています。女性養蜂家として業界での地位を築くだけでなく、これからの養蜂業界に新たな価値を生み出そうと試行錯誤を重ね、上質の蜂蜜づくりに情熱を注いでいます。

突然家業の後継ぎに

 『チクマ養蜂』は祖父が立ち上げた会社です。子どもの頃から蜂蜜採取などの手伝いはしていましたが、父が亡くなるまで、全く跡を継ぐつもりはありませんでした。結婚して、子育てのかたわら、自営業のちょっとした手伝いという気持ちで工場の中での簡単な作業には関わってはいたものの、蜂についての知識は全くありません。突然父が事故で亡くなり、通夜・葬儀の2日間で、廃業か継続かの決断を迫られました。家族経営で他にスタッフは居なかったので、いきなり誰かに任せるというわけにもいきません。私は4人姉妹の三女でしたが、姉たちもそれぞれ仕事を持っており、体力的な面でも継ぐなら私かと。2日間悩みに悩んだ末、やはり父が遺したものを守ろうと、続けることにしました。業界用語も知らず、当時末娘はまだ保育園で、不安もありましたが、それでも周りの協力があって、養蜂家への一歩を踏み出しました。

一生勉強、養蜂の世界

暖かくなってくると蜂が産卵をはじめるため、来年を見越して蜂の管理をしなければなりません。桜の咲く春先から蜂蜜の収穫は始まります。場所によってとれる時期も変わりますし、その年によって花の咲き具合も違います。あまり雨が多くてもダメで、蜂が元気でも花が少ないという場合もあります。蜜源の花によって味も変わったり、色も香りも変化します。まさに自然ありきの世界です。絞った蜜は営業担当である妹と相談し、瓶詰めにするか飴など加工品にするか決めて、製品として仕上げ出荷します。蜂を健康に育て、増やすのが養蜂家としての私の役目。同業の先輩から色々教えてもらいながら13年経ちますが、まだまだ分からないことがたくさんあると常に思っています。季節ごとに作業が違うのはもちろんですが、蜂も農作物と同じで波があり、天候に左右される面が多く、毎年対応の仕方を考え、いまだ勉強の日々です。

挫折からのリスタート

1~2か月やって成果が出るものではないので初めは大変苦労しました。右も左もわからない中で遮二無二続けてきたものの、5年ほど前に体調を崩したことがありました。体調が悪いので思うように蜂の世話ができず蜂が病気になったりなどで、飼育していた蜂がほぼゼロに。そのときも辞めるか続けるかという話が持ち上がりましたが、じゃあ辞めるとは言えませんでした。その年はたまたま養蜂業界は蜂がいない不作の年でした。みんなが大変だったそんな時期でも、再建を手伝ってくれるという養蜂家の先輩たちが居たから、もう一度挑戦してみようという気持ちになれました。一時はゼロになった蜂を分けていただき、一からの再スタート。私の技術が伴わず時間がかかりましたが、ようやく軌道にのってきたところです。健康な良い蜂が増えてくるととてもうれしいです。
基本的にひとりで作業をしていますが、20kg以上の重さの蜂の箱を山に設置したり回収に行くときなどは男手が必要な時もあります。蜂の機嫌が悪いと刺されることもありますし、昔のように気候が安定していないここ数年、厳しい夏を蜂が生き延びられるよう、常に様子を見極めなければならず、日常すべてが困難といえば困難かもしれません。

周りすべてが一期一会

お酒が好きなので、多忙期でないときは息抜きに友人と飲みにも行きますが、日々の気分転換は料理です。自家製の採れたて蜂蜜を煮物に使ったり、果物を漬けたりします。蜂と集中して向かい合わなければいけない期間は、プライベートを削ってでも仕事に専念しますので、夕食づくりができないほど疲れてしまうことがあります。3人の子どもたちも大きくなり、理解してくれるからこそ仕事に集中できるようになりました。もっと甘えてもいいのかもしれませんが、私の性格上それも違うと思い、朝お弁当を作り、娘をバス停まで送っていくほんの数分の間の会話や、息子たちを食事に連れて行くなど、子どもたちとはそれぞれのかたちでコミュニケーションを取っています。
長男は仕事も手伝ってくれて協力的で、将来養蜂家になってくれたらいいなという希望はあります。岐阜県は全国的にも養蜂家の多い地域で、高齢化も進んでいますが、最近は代替わりで20代の養蜂家も増えてきました。女性となると絶対数は少ないですが、それでも若い世代のためにもこれからの時代は今までとは違う視点でやっていかないと、と思っています。また、チクマ養蜂の蜂蜜をもっとみなさんに知ってもらいたい、それは昔も今もこの先も同じです。味の深みや複雑な甘み、蜂蜜はこんなに美味しいのだということをたくさんの人に知ってほしいです。
私たちのこと、蜂蜜のことを知ってもらうために、とにかくお客様と出会わなければ始まらない。その出会いが1回で終わるのか、長続きするのかわからないけれど、お客様の笑顔を見て、美味しいと言ってもらうことはとても大切だと思います。蜂も一箱一箱に個性や違いがありますが、5年も6年も生きるわけではありません。人も蜂も、いろんな意味で一期一会だな、と感じています。
今後は、花粉交配などでお付き合いがある地域の農家さんとのコラボも出来たらいいなと考えています。体調を崩した経験を無駄にしないで、学び続け、一生養蜂家でいたいと思っています。