13年前に、「チクマ養蜂」の2代目である父親が急逝。可兒優さんは、事業を承継した経営者である母と養蜂家である姉を支える企画営業として活動。「母」「女性」という視点から「生活になじむ」「寄り添う」をキーワードに、商品開発及び販路拡大に取り組んでいます。様々な場でのワークショップ、食育活動への参加を通じて、蜂蜜を通した食に関する理解を深めようと奔走しています。
家族全員での挑戦
子どもの頃から姉は採蜜などの手伝いで蜂と接していましたが、私は食べる専門で、父に付いて山に蜜を採りに行く時は、おやつ持参のピクニック感覚。蜂が生活の中にいるのは当たり前でしたが、仕事にしようと考えたことはありませんでした。養蜂家だった父が突然亡くなったときも、家業の手伝いの延長として関わっているだけでした。しかし姉が跡を継ぐことになり、家族みんなで「やれるだけのことはやろう」と決めました。当時は父が事業を大きくするために、蜂の群数をたくさん抱えていた中、右も左もわからぬままやっていけるのだろうかという不安はありましたが、それでも支えてくれるお客様と、蜂の事を教えると言ってくださった師匠に背中を押されました。姉が決断してくれなかったら、続けるのは難しかったと思いますが、誰よりも父の遺志を尊重し姉は養蜂に取り組んでくれていると感じています。
おいしい蜂蜜のために
私の仕事は企画と営業のほか、蜂蜜の瓶詰めや納品など、養蜂と経理以外のすべてを担当しています。繁忙期は姉の採蜜の手伝いや、蜂の箱を洗うなどの雑用もしますが、製品化する作業が遅れてしまうので業務の棲み分けをしています。
岐阜県は養蜂業者が多い「蜂蜜激戦区」と言われており、その中で、百花蜜・レンゲ蜜・サクラ蜜・トチ蜜などのほか、今年は藤の花から採れたとても珍しいフジ蜜など、その年によって違う花からとれる蜂蜜をどのようにお客さんに知ってもらい、販売するかを考えています。まず試食し、香りと味を確かめ、その花の名前をつけて売れるのかという選別からスタート。蜂蜜が不作の年は、値段の改定や、瓶のサイズを再検討し、販路も悩みながら決めていきます。採れすぎるとそれはそれで販売方法や販売先、地元と都会での価格の違いも考えなければならず、採取量によって左右されるのが大変です。
企画担当として、キャンプ場でのワークショップや毎月1回のカフェマルシェで食育活動などの他、商品開発も行っています。お客さんからのリクエストで生まれた、チクマ養蜂の蜂蜜を使った蜂蜜キャンディは、子どもに安全なものを食べさせたいという母親目線で養蜂家が作った混ざり物のないキャンディというコンセプトです。値段も手ごろで、蜂蜜の苦手な方にも食べやすいと好評を得られました。蜂蜜選びの最初の入口として、手に取りやすい価格帯の商品を提案していくことも大事だと思いリサーチしています。イベント出店や商品開発を通して、みなさんにもっと蜂や蜂蜜を知っていただくきっかけに繋げたいです。
広めたい蜂蜜の魅力
チクマ養蜂に入るまではまったく違う仕事をしていて、営業も企画も未経験でしたが、今はとてもやりがいを感じています。ノウハウを教えてもらう場もなかったため、自分でひとつずつ挑戦していきました。新商品を開発するにあたって東京までいろいろな蜂蜜をテイスティングしに行ったり、販売担当者の人にも蜂蜜の深い知識を知ってもらいたいという想いで話したことが結果、営業になったりと、自分で考え、自分たちがつくっているモノを誰かに伝え届けるのは楽しいです。自分たちと、自然と、蜜蜂がいて、すべてが揃ったサイクルがそこにあるからこそ生まれる蜂蜜に魅力を感じています。最近は、本来の蜂蜜のおいしさを知らない人が多いのも残念に感じています。食べ比べの機会も少なく、売っている蜂蜜の味がわからないと購入もためらうでしょうし、蜂蜜の個性と味わいをもっと伝えて広めていくのが課題です。そのためにSNSなどの発信にも力を入れています。
家族は夫と小学生の息子と愛犬が一匹。家族は仕事に協力的で、イベント出店があると言えば準備も手伝ってくれますし、家事も手を抜くところは抜いて仕事と両立させています。家族の支えなくしてはできない面も多くありますが、家族のおかげで気持ち的にはだいぶ楽です。息子は小さな頃から私の仕事を横で見ていて、自主学習で蜜蜂の研究をしていたときはうれしかったです。
また、日本酒の飲み比べが趣味で、ほどよい息抜きになっています。お酒に蜂蜜をいれたり、おつまみに使ったり、蜂蜜を心置きなく使える環境は恵まれていると思います。
地元から全国へ、未来へ
祖父の代から地元で販売し、常連さんも多くいらっしゃいますが、今後はそれ以外の販路拡大にも力を入れたいです。以前、都会で販売をしたときに岐阜とは違う感想を頂き、岐阜以外の土地でももっと蜂蜜を美味しく楽しく活用してもらえるよう伝えていけたらいいねと姉と話していました。
「蒔かぬ種は生えぬ」といいますが、本当にそのとおりだなあと思います。何もしないと何も変わらない、でも何か行動すればきっかけが生まれ、楽しむことも出来ます。父が経営していた頃の取引先から手のひらを返されたように「どうせ続かないだろう」「いいものなんか作れない」と言われたり、女性だからと見下され悔しい思いをし、父のおかげでここまでやれていたのだと実感ました。現場の姉はそれを目の当たりにしたでしょうし、慣れない業務で大変な日々でしたが、そこにフォーカスするのではなく、父が亡くなってからも買いに来てくれるお客さんや、励まし支えてくれる人や新しく出会った人たちの声を大切にしていきたいです。おじいちゃんが種を蒔いて芽吹いたおいしい蜂蜜、それを食べてくれる人たちがいると思えば、私たちはやっていけると信じています。チクマ養蜂のコンセプトは「BEE HAPPY 手に取る人を笑顔に」。これからも、手に取ってくれる人が笑顔になれる蜂蜜づくりを続けていきたいです。