戸川康子さんは、就労継続支援B型事業所での支援員としての経験から、現場の課題解決の必要性を感じAmie を立ち上げ、工賃とやりがいを両立させる為のオリジナル商品を企画・製造、地域の問題解決の為のアイデアを提供。現場経験と行動力によるこれらの取り組みは、多くの仲間を巻き込む力を持っており、彼女のリーダーシップと情熱によって、地域によい変化がもたらされています。
未経験から福祉の道へ
本巣市出身で、愛知県の学校を卒業後、地元の一般企業で事務職として就職。子育て中に、新聞店の経理事務として週に1回働くことになりました。その後、子どもが大きくなってきたタイミングで、その新聞店が開業した美容サロンのスタッフとしてお手伝いをすることになりました。
そこから28年間、新聞店の事務とサロン業務を兼業していましたが、4年前、新聞店のご縁で、就労継続支援B型事業所の立ち上げを手伝ってほしいと声がかかりました。福祉業界での経験は全くなかったので、手探りでのスタート。生活支援員として利用者さんの就労に関わることになりました。ひとつ仕上げて何円何銭という軽作業を行っており、利用者さんは毎日作業所に通い、4時間働いても収入は月に1万円にも満たないという現状。もっと工賃の良い仕事に加え、利用者さんが黙々と作業をすすめるだけではなく、働く喜びを感じてもらえる何かを見つけられないかと思ったことがきっかけで、Amieを立ち上げました。Amieという名前の由来はフランス語で「仲間」という意味。オープン当初から来てくれている利用者さんが、一緒に働く仲間たちをとても大切にしていたので、会社名を考えるとき真っ先に思い浮かびました。
ふるさとの名産に着目
Amieでは現在22名の利用者さんが働いています。現在の活動は商品開発と仕事の仲介。仕事はいろいろな業者から頂けますが、より高い工賃を目指しながらも、単純で簡単な仕事ならば何でも可能というわけでもなく、個人差もあるので悩ましい部分です。現在は複数の企業と契約し、お菓子の箱の組み立てや水道管の巻き付けなどさまざまな作業を請け負い、少しでも工賃の高い作業へと切り替えています。
みんなで何かを作って販売することが喜びにつながるのではと模索する中、目に留まったのが富有柿。本巣市で生まれ育った私にとって子どもの頃から身近だった富有柿は、全国から見ると有名な果物なのに、採れすぎると処分されてしまいもったいないと思っていました。そこで廃棄されてしまう柿を引き取り、自社製品として柿のコンフィチュール(ジャム)にして販売出来ないかとひらめきました。知り合いのパティシエに、味にもこだわったレシピで作ってもらい、4~5か月かけて開発。岐阜県のブラッシュアップ事業に参加して、おしゃれなラベルデザインでイメージアップにもトライ。利用者さんには、瓶のシール貼りや箱詰めをお願いし、自分たちが作った商品が店頭に並ぶ喜びを知ってもらおうと取り組みを始めました。昨年テレビ番組や新聞でとりあげられた時は、利用者さん達も自分たちが関わったジャムだと大喜び。利用者さんは女性が多く、かわいらしいものの制作に携わることは働くモチベーションにもつながるようです。本巣のジビエを使ったスパイスカレーを作る方とのコラボや、本巣市商工会の協力のもと、岐阜県内各所のギフトショップでの取り扱いや、名古屋や東京、大阪などで販売させていただくチャンスもあり、今後もこのおいしいジャムを全国に広めたいと思っています。
出会いが自分を変えた
家族は夫と娘と愛犬です。事業については夫も娘も応援し、見守ってくれています。息抜きは休日に愛犬とドッグカフェに行くこと。仕事の疲れも吹っ飛びます。
人前でしゃべることがあまり得意ではなかったのですが、Amieを立ち上げてからは、人と会う機会が増えたことで自分の心にも変化がありましたし、新しい事業への挑戦が利用者さんの喜びに繋がったことに強いやりがいを感じました。周りの方に相談しながら助けてもらって今日まで来ましたが、その応援に応えようという一心で私も頑張れています。
本巣の知名度をあげたい
今後は、利用者さんたちがジャムの製造から自分たちで出来るようになれればと思っています。いかに安定したプロの味に近づけるか、まだまだ研究が必要。柿は季節商品なので年間通して作れるものを自社製品第二弾として開発していくことも目標です。
天候や季節の変わり目などがきっかけで作業所に来られなくなってしまう利用者さんたちをどうフォローして気持ちよく働き続けてもらうかというのも今後の課題です。やりがいと工賃の両立は、これからもずっと意識してより良いものにしていこうと心に置いています。
夢は、まだまだ努力不足ですが、販路を全国まで広げ、もっと生産数も増やしてひとつの工場ができるくらいにしたいです。商品が注目されれば、本巣市では障がいがある人たちが頑張っていると全国の人に知ってもらえますし、名産である富有柿の知名度アップにも貢献できるのではと思います。
出会った人に導かれて今があり、自分だけではここまで出来なかったと常日頃から思っています。「人と出会えたおかげで自分とも出会えた」という詩人の谷川俊太郎さんのことばにはとても共感しています。たくさんのチャンスをくれた皆さんとの巡り合わせに、感謝しかありません。