原美智子さんは、特定非営利活動促進法(1998年12月施行)に基づいて活動する、NPO法人や市民活動団体などの支援をするため、ぎふNPOセンターができた当初より活動をスタート。世の中をより良くするために活動したいという人たちの支援や、引きこもりや不登校、貧困などで悩む子どもや若者、子育て家庭の支援など、さまざまな市民団体と連携し、誰もが幸せになれる社会・地域づくりを目指しています。
矛盾ばかりの世の中
もともとは専業主婦で、3人の子どもが次々に学齢期を迎え、PTA活動や親の会で役員をしたりしていました。子育てで家にずっといると社会とのつながりが薄くなってしまいがちです。幼稚園や学校で子どもにまつわる活動をしている中、「こども劇場」という、会費を払えば親子で本物の舞台を観られる組織に参加し、幅広いつながりを持ち、社会性を保っていたように思います。
子どもが小学校や中学校に進学すると、学校で理不尽なことや納得できない出来事があると親に話すようになり、何とか解決できないかと考えるようになりました。その頃、こども劇場で知り合った仲間たちと、地域の子どもたちが小さな頃から社会に目覚めるよう意識してもらうためにお店屋さんごっこや地域の掃除などの活動をしていました。仲間と情報交換する中で、子どものための理想的な環境がスムーズに整わないこと、子どもが抱えるしがらみ、地域・社会の矛盾に気がつきました。子育てが一段落しPTAを抜けてからも、私が感じた様々な課題を解決しようと思い、市民団体を作りました。
転機になった新しい法律
転機となったのは、1998年に「特定非営利活動促進法」という法律が施行されたことでした。阪神淡路大震災が起こるまで、会社組織や生活協同組合、公益社団法人以外の任意団体は法人格が取れませんでした。災害時に任意団体、例えばコーラスグループでも、被災地で災害支援をしてもらえるという考えから、特定の非営利で活動をする団体に対し法人格を認めようということになったのです。そこで、NPOとして活動したい人たちを応援する組織が各県にあると良いということで、岐阜県も旧県庁の北側駐車場の一角に「ぎふNPOセンター」が開所。私たちが作った市民団体も、任意団体とはいえ県からの応援もあり、法人格を得ることで信頼を得らたことで活動範囲も広がり、仲間も増えました。早速、センターのスタッフ募集に応募し、専業主婦から事務員として勤めることになりました。当初ボランティアとして関わっていましたが、だんだん組織が大きくなり仕事が増え、50歳近くになっていましたが、正式に職員として所属することができました。
私のエネルギーは怒り
私は以前、子どもに「お母さんは怒りがエネルギーになる」と言われたことがありました。実際、世の中の理不尽を見聞きする際、「しょうがない」と諦めるのではなく、「理不尽なことが起きているなら、何とかしたい。どこも何もしてくれないなら私がやる」ということを繰り返してきました。やらないで悶々とするのではなく、やらざるを得ないからやる。自分でやると決めたのだから、人のせいにはできません。
理不尽な出来事は子どもたちの世界、地域、社会、あらゆる場所に起こっています。子どもだけが問題ということはなく、親の仕事がなくなって困窮した生活をしていたら子どもにも影響が出てしまいますし、親が人間を差別する考え方を持った人だったら、子どもに影響するでしょう。影響を受けた子どもはいじめるのが平気になったり、いじめざるを得ないような苦しい思いにはまったりすることは、何一つ社会と関係ない問題はないと思っていました。いじめている子どもひとりを私たちが怒っても何も解決にはならない。その子どもの家庭に目を向け、誰かを責めるのではなくみんなでこの世の中を良くしていかないといけないと思います。
また、貧困の問題では、お金がなくて生理用品が買えず、生理の時に学校を休む子どもがいます。家なら経血があってもトイレに閉じこもって、自分だけで何とか対処のしようもあるが、外では生理用品がなかったらあちこち汚してしまい他人の目にもつくので学校に行けないという状態になります。こうしたことは、公になっていなかっただけで、確かに起こっている問題です。自分の責任ではないのに、最低限必要なものを買えないのは、本当にいたたまれない。そういう現実に強い怒りを覚えます。
Think global, Act locally
今直面しているのは、みんなで世の中を変えようという仲間がなかなか増えず、思うような活動ができていないという点です。私は好きでいろいろな活動に参加して、それなりの困難は想像し覚悟もしているので良いのですが、人それぞれ関心も、解決すべき課題も多様にあります。例えば、環境の課題と、子どもや女性の困難は、別々のようですが要因として全部つながっている気がしています。たくさんの問題を取捨選択していくのではなく、すべて合体させ、あちらもこちらも良くしていかないといけないと思うので、一緒に取り組んでくれる方も、「これだけ」と固定せずに様々にリンクし合いながら取り組んでいくという新たな切り口が必要になってきます。
「Think global, Act locally」という言葉が、キーワードだと思います。Think(思考)はglobalに、Act(行動)はlocallyに。子どもが幸せになることを一生懸命考えていても、明日戦争になったらどうするのだろうかとか、日本経済が沈没したら、明日食べるものがないじゃないかとか。小さく目の前のことに関心を持てば良いのですが、やはり物事は宇宙規模や地球規模で考えないと、本当の幸せは追求できないと思っています。
この「ぎふNPOセンター」をはじめ、子育て支援、障がい者支援、学習支援、女性支援など、現在10の団体に関わっています。こうしたつながりで私の活動は広がるが、気持ちや描く理想を理解してくれる人が増え、これまで培ってきたノウハウなども伝えていき、この活動が続いていくのが理想です。