ママが子連れで働き、ママが気兼ねなくリフレッシュできるカフェ「Mama's café」の運営をはじめ、親子が集う広場、子ども用衣類のリユース、産後ケアなど、7つの事業を展開するNPO法人Mama's café。理事長を務める山本博子さんは、とにかく子育て支援に熱い思いを持った人物で、ママの子育て環境を良くするために、日々奔走しています。
育児サークルが原点
大学を卒業してからは、東京駅の八重洲口にオフィスを構える経営コンサルタント会社に営業職として勤めていました。夫の地元である多治見に引っ越したのは、結婚がきっかけです。ずっと関東エリアが生活圏だったので、新天地に身内や友人などはいません。そんな状況のなかで妊娠・出産。特に第一子の産後は、いつどこを頼ればいいかわからなかったので、情報を得るために市が運営する母親学級に通いました。1997年に母親学級で仲よくなったママ友5人と一緒に、「ナインキッズクラブ」という育児サークルを立ち上げました。これが今の活動の原点です。
クラブでは、およそ月に一度のペースでメンバーが集まって季節行事を楽しむなどしていましたが、次第に経済的な事情を理由に参加できない人が増えてきました。少しでも家計を助けるために働き口を探しても、当時は育児中だと採用難度が一気に上がる時代。でも、お金は必要。ママは途方に暮れてしまいます。そんなママをたくさん見てきた私は、「子連れで働ける場所がないなら、つくればいい」と考え、実現に向けて動き始めました。
手づくり感あるカフェ
もともと35歳になったら「人生を仕切り直したい」と思っていて、なんとなく事業プランを頭に描きつつ、アイデアをメモしていたんです。そんな折、夫の知人で運送業とリサイクルショップの運営を手がけている経営者と出会い、自分の事業プランを話したら、ショップの一角を使わせてもらえることになりました。チャンス到来です。「ママが安心して働ける場所をつくりたい」という思いに賛同してくれた仲間9人と小さなカフェ「Mama's café」をオープンさせました。
カフェの入り口に掲げられたのは手づくりの看板。お客さまが寛ぐのは、リサイクルショップから譲ってもらった中古のテーブルです。見た目は街のおしゃれカフェには敵いませんでしたが、ママによるママのためのカフェということで、ターゲットとしていた子連れのママには徐々に認知されるように。リサイクルショップとしても、これまでとは異なる客層の若い女性が集まり始めたことで、経営者の方も喜んでくださいました。
カフェをオープンした翌年、私たちの理念と活動が認められ、経済産業省の2002年度「市民ベンチャーモデル事業」に全国333社の中から選出されたことは、活動の大きな弾みとなりました。その後、住友生命「未来を強くするプロジェクト」において、未来大賞・厚生労働大臣賞を受賞したり、NHKをはじめとした多くのメディアでもたびたび取り上げていただいたりしました。このように、周りから評価されると働くスタッフの意識も向上しました。最初は「自分たちが救われたくて」という思いで始めた活動が、いつしか「今、子育てをするママたちのために」というように活動の趣旨も変化し、組織も人材も成長したのです。そして、2004年4月にNPO法人として活動することを決めました。
多彩な7つの事業
カフェを運営していると、働いてくれるママやお客さまとして足を運んでくれるママから新たな悩みを聞く機会も多く、それを解決するために新たな事業を立ち上げてきました。当法人では7つの事業を運営していますが、その始まりはママの声であり、その解決策を事業化してきたということです。
2009年、「子育ての手助けを求める人」と「子育ての手伝いをしたい人」のマッチングをするファミリー・サポート事業を多治見市から受託しました。さらに、2022年土岐市からも受託し、現在2つのファミサポを運営しています。
これまでカフェ事業で、ランチもできる子育てママの「光」の部分を見てきた私たちが、このファミリー・サポート事業で子育て困窮家庭や子ども貧困問題という「影」に直面しました。そこで2017年、独自で「Mama's 基金」を立ち上げ、困難を抱える家庭と子どもの支援に乗り出しました。
最近は「私たちのSDGs!」を掲げ、キッズフォーマルウェアや制服をリユースする事業を始めたり、大型商業施設(イオンモール土岐)に親子が気軽に遊べる広場「ときめっく」を開設したりするなど、新たな試みにも精力的です。これからも時代の動きとママのニーズを照らし合わせながら、必要な事業をフレキシブルに創造していきたいです。
雇用を守る
昨今、NPOの認知度は上がりました。かつて子育て支援は、無償ボランティアの精神が当たり前のように求められる業界でした。私は「子どもという命に向き合う仕事をしながらも、経済的利益を伴わない業界によい人材もノウハウも残るはずがない!この業界に変革を起こす」という気概を持って、前職で培ったビジネスの手法をこの業界に持ち込み「稼げるNPO」をつくってきました。今やスタッフも30人を超えました。引き続き雇用を守っていきます。
2023年はこども家庭庁もできて、大きな変革とチャンスの年となりました。少子化対策・虐待予防・そして困難を抱える女性支援など、課題があるということは、そこにビジネスチャンスがあるということ。これからもNPOとして、NPOにしかできない斬新な解決策を提案し、実現させていきたい。私たちの活動が今より子育てをしやすい社会を作る一助になると信じています。